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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第8話 ガルパーイール


魚人の群れが突っ込んでくる。

俺は両手を掲げた。


左手に水弾が五発。

右手に水弾が五発。


指先に浮かんだ水珠が高速回転し、

放たれる瞬間を待っている。


「来い!」

俺は両腕を振り抜いた。


パシュッ!

左手から五発が飛び、

同時に右手からも五発が飛ぶ。


十本の水の線が砂漠の薄明を貫き、

十体以上の魚人が次々倒れた。


目の前を見る。

魚人の数が減っていない。


俺はまた魚人の死体を掴み、

喉元に噛みついて思いきり引き裂いた。


……まずい!


俺はずっと、

ゲームやアニメで言う

「吸血」がどんな欲望なのか理解できなかった。


今ならわかる。

あれは中二病の読者を釣るために、

適当に盛ってるだけだ。


『水循環錬成が成立。

水弾が進化:周囲から水分子を抽出可能。』


「それでいいんだよ!

ずっと血を飲むとか、マジでキモすぎる!」


俺は魚人を放り捨てた。


「いくぞ!水霰弾ウォーターショットガン!」


技名は俺が勝手につけた。


もう狙う必要もない。

敵が多すぎて、撃てば当たる。


『技能使用手順を記録:水霰弾』


……え?

つまり俺が思いつきでやった撃ち方が、

この世界の魔法システムに“技”として登録されたってことか?


チートが、システムになったってわけだ。


もう一発!


「水霰弾!」


魚人がまた一列、ばたばた倒れる。


生命力は減らない。

だが精神力は消費する。


くそ、やっぱり補給が要る!

俺は吐き気をこらえて、もう一口だけ血を飲んだ。


「水霰弾!」


刈り取り機が麦畑を押し倒すみたいに、

目の前の魚人が群れごと倒れていく。


これ、狩りの永久機関だろ。


「この調子なら、今日中に俺の魔力、

大賢者になれるくらい上がるんじゃねえの!?

わはははは!」


シーリンには、たぶん意味不明だと思った。

なのに彼女は首を横に振った。


「大賢者の称号は、

虐殺で手に入れるものじゃないと思う」


……この世界のどこかに、

本当に“大賢者”がいるんだな。


また一群れ倒した。

それでも数が減らない。


嫌な汗が背中を伝う。


こんなに便利な力を手に入れたのに、

ここで詰むなら、

俺を放り込んだ神様の性格が悪すぎる。


文句を腹の底に溜め込んでいるうちに、

魚人の大群が岩盤の縁まで押し寄せた。


……この数は無理だ。

俺は諦めかけた。


せめて死ぬ前に、

美しいものを目に焼き付けたい。


そう思ってシーリンを見る。


そのとき気づいた。

魚人たちは彼女を避け、

俺も避けている。


暴走する恐竜から逃げる群衆が、

地面に落ちたハンバーガーを

「邪魔だな」と思って自然に避ける――

あれに似ていた。


魚人たちは進路を当たり前のように変えていく。


シーリンも最初は訳がわからない顔をした。


だが西の空に立ち上る砂煙を見て、

はっとして俺の背中を押す。


「早く砂羯に! 私たちも逃げる!」

「どうした!?」

「ガルパーイール!」


ガルパーイール? 

それって深海魚じゃ――


俺はボールちゃんを抱えて砂羯にまたがり、手綱を振った。


「一日練習した俺の騎乗術を見せる時だな!」

冗談を言った。


でも実際は、

俺が促さなくても砂羯は

本能で東へ猛ダッシュした。


正直、想像できなかった。


ガルパーイールが多少気持ち悪くても、

せいぜい二メートル程度の

「でかい口のウナギ」だろ?

何がそんなに怖いんだ。



魚人たちが逃げる方向を見る。


舞い上がる黄砂の下で、

巨大な影が揺れていた。


地球側の常識が、

このイチネ河流域では通用しないと証明する影だ。


あれは二メートルどころじゃない。

口の幅だけで、

二メートルにゼロを一個足したくらいある。


そいつが大口を開くと、

前方の砂が一気に沈み、

砂丘が瞬時に流砂へ変わった。


魚人の群れが、渦へ巻き込まれていく。


ぱくり。

顎が閉じ、下顎が縮む。


黄砂が鰓から半明の空へ噴き上がり、

朝っぱらから砂嵐が起きたみたいだった。


俺はその食いっぷりに震えた。

砂漠の青鯨じゃねえか……!


しかもオキアミじゃなく、

獲物を丸ごと食うタイプ。


ヤバすぎる。逃げろ。


太陽が昇り、

眩い光が俺を照らした。


なのに俺の体が、

腐食されるみたいに痛む。


ブラッドドランカーの副作用だ。

血を飲めない今、

この効果は早く解除しないとまずい。


俺は称号をガラクタ戦士に

切り替えようとした――が。


『戦闘中は称号を切り替えられません!』


……そうかよ!

なら逃げるしかない。


幸い、

ガルパーイールの速度は遅い。

逃げ切るのは難しくなさそうだった。


だが、砂羯がどれだけ走っても、

黄砂の壁はずっと背後についてくる。


どれだけ歩いても、

月が同じ高さにあるみたいに。


俺たちは必死に駆ける。

それでもあの怪物にとっては、

一回の跳躍にすぎない。


ガルパーイールが高く跳び――

原爆みたいに落ちた。


爆ぜた砂煙は、

次の氷河期でも来るのかと思うほど巨大だった。


ガルパーイールが深く砂に潜り、

砂の雨が俺たちに降り注ぐ。

全身が灰だらけになる。


砂が落ち切ったとき、

ガルパーイールの姿は消えていた。

だが平穏ではない。


周囲の魚人は必死で逃げ続け、

沈む流砂の罠がまた出現する。


俺は途方に暮れてシーリンを見る。

彼女も必死にパニックを抑え、

緊張した顔で前を見ていた。


たぶん、彼女にも確信はない。


彼女は深呼吸し、震えを抑え、

無理やり落ち着いた声で言う。


「私から離れないで。川まで行けば助かる」


……自分でもできるか、

わかっていない声だった。


ガルパーイールは、そう頻繁には跳ねない。

だが跳ねるたび、

落ちるたび、食うたび、距離が縮む。


狙われてはいない。

それでも口に入るのは時間の問題だ。


跳ぶのも落ちるのも、

全部あいつの気分次第。


食われないのは、ただ運がいいだけ。

……本当に運だけか?


俺は急に腑に落ちた。


「シーリン、川へ行くな!」

俺は砂羯の手綱を引き、止めた。


「でも砂漠ガルパーイールは水が苦手。

魚人だって知ってる。川を渡れば追ってこない」


シーリンも止まる。


「だから魚人が、

みんな同じ方向へ逃げてるんだ!」


逃げる魚人が、

次々に俺たちの横を回り込んでいく。


シーリンの顔が、

「理解した」と告げた。


「……つまり、魚人の群れを避ける!」


彼女は砂羯の向きを変え、

真北へ走らせた。


「そうだ!」

俺もすぐ追う。


「でもそれ、イェスィルと逆方向だよ!」

シーリンが東を気にして言う。


「仕方ない。迂回して戻ろう!」

「日暮れまでに着けるかな……」


「大丈夫。数時間遅れるより、

七日後に

川辺で石積みになるほうがマシだ!」


「なんで七日後なの?」

「その話は、あとで余裕ができたらな!」


北へ数分進むと、

魚人の群れから完全に離れた。


巨大なガルパーイールも、

もう追ってこない。

魚人を食うのに夢中になったらしい。


危険で、巨大で、

俺たちなんて眼中にない。


……うん、それでいい。


戦闘状態から抜けた瞬間、

俺は称号を水門ガーディアンへ戻した。


ブラッドドランカーのデメリットで

生命力が削られ続けるのは勘弁だ。


俺たちは北へ大きく回り込み、

灯りが消えた頃にイェスィルへ着いた。


村の見張り、土塁、堀、そして護城河。

なんて安心できる組み合わせだ。


村の入口で砂羯から降り、

地面を踏みしめたその瞬間――

ゴーレムコアのシステム音が鳴った。


テッテレー!


『「砂海大逃殺」イベント終了。

ゴーレムコアが昇級。


熱砂ゴーレム Lv3

機能スロット+1 解放』


よし。完璧だ。

残る問題は一つ――今夜、どこで寝る?


村の衛兵の目つきが、

あまり友好的じゃない……。


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