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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第7話 ブラッドドランカー


乾きの感覚は長くは続かなかった。


だが、

それだけで俺ははっきり理解した――

水弾を使うと、

体内の水分が削られる。


この世界には魔法がある。


けれど、

それは無から有を生み出す力じゃない。


どうやら、

魔法ですら質量保存には逆らえないらしい。


シーリンの驚きは一瞬で消えた。

俺も説明する隙を掴めない。


新しく飛び上がってくる魚人が、

休む時間をくれなかった。


しかも、だんだん厄介になってきている。


「シーリン……こいつら、

傷が少なくなってないか」


俺は一体を指して水弾を撃つ。


乾きが、また少し増した。


血が噴き、悲鳴が上がる。


……一声だけ?

魚人が多い方向へ撃ったはずなのに。


それなのに、不安は増すばかりだった。


「……っ、こいつら強くなってないか?」


声が乾いて、かすれる。

俺は砂羯の背の水袋へ視線をやった。


「たぶん……

魚人が強くなったんじゃない。

弱いのは私たちが殺し切ったんだよ。


最初に上がってきたのは、

求愛争いに負けた連中だったはず」


シーリンは冷静に言う。


俺は再び指を突きつける。

今度は水弾がより速く凝り、回転も鋭い。


だが撃っても悲鳴は一つ。

そして乾きはさらに強くなる。


精神力の消費は小さいのに、

体内の水が削られる。


最悪だ。

ここは砂漠だぞ。


俺はもう一度指を上げる。


「水弾!」


シュッ!


魚人が一体倒れる。



「水弾!」


シュッ!


もう一体。


二体仕留めたが、喉の渇きは増す一方だ。


水弾だけじゃない。

動き回って汗もかいている。


俺は耐えきれず砂羯のそばへ下がり、

水袋を掴んで大きく飲んだ。


少し落ち着く。

生命力もじわじわ戻り始めた。


――その瞬間。


骨でできた長槍が、水袋を貫いた。


そうだ。こいつらには手がある。


名前に「人」が入っている時点で、

武器を使うのは当然だった。


俺は振り返って水弾を撃つ。


今度は悲鳴がない。

完璧に避けられた。


魚人たちの攻めが変わった。

自分の頭蓋を

投げ捨てるみたいな突撃はしない。


代わりに、

冷静にこちらを観察している。


前の波より、

明らかに体格がいい。


一、二体は骨の武器を手にしていた。


奴らは静かに岩盤の周りを回り、

砂へ潜り、夜明け前の闇に溶ける。


そして不意に――

骨槍が飛んできた。


速すぎる。唐突すぎる。

俺もシーリンも反応できない。


動いたのはボールちゃんだけだった。


跳び上がり、シャムシールを吐き出し、

骨槍を吸収する。


『装備入れ替え:熱砂貫槍』


ボールちゃんが着地したとき、

手には長槍があった。


穂先が高熱を放っている。


ボールちゃんは槍を持ち上げ、

前方へ投げた。


何もない砂の中から悲鳴。

蒼黄の砂面が血を噴いた。


敵の数は減った。

だが、こっちの攻撃回数も限られてきている。


屈強な魚人がしびれを切らし、

砂から跳び出した。


ボールちゃんが再び槍を投げる。


魚人は空中で縫い止められ、吹き飛んだ。


もう一体、跳び出す!


さらに槍が投げられ、また黄砂が血に染まる。


「ダメだ、ボールちゃん! 

それ以上使ったら、またコアに戻る!」


三体目が、隠れ砂からぬっと現れ、

俺へ突進してくる。


ボールちゃんは残りわずかな

精神力なんて気にせず、槍を投げた。


三体目も仕留めた。


そして――

精神力が尽きたボールちゃんは、

ゴーレムコアへ退化した。



赤い警告が跳ねる。


『ゴーレムエネルギー枯渇。

直ちに精神力を注入せよ』


この状況は初めてじゃない。

俺は即座にコアを握りしめた。


ボールちゃんが

まだ完全に形を作りきれないうちに、

別の魚人が飛びかかってくる。


「水弾!」


魚人がその場で血を撒いた。


「ボールちゃん、

さっきのは無茶しすぎだって!」


水分の損失で、

俺の生命力はすでに三割以上削れている。


しかも水分だけじゃない。

精神力も残り少ない。

水弾はあと五発が限界だ。


岩盤の上には、

魚人が落とした骨槍が何本も転がっている。


俺はシャムシールを左手に、

骨槍を右手に取った。


槍は長い。シャムシールは短い。

持ち替えないと不利すぎる。


「次からは、

なるべく白兵戦中心でいこう。

いいな、ボールちゃん」


そう思っても――

シーリンに

三体同時で襲いかかるのが見えた瞬間、

結局、水弾と槍を撃たずにいられなかった。


「はぁ……はぁ……はぁ……

助かった……ありがとう……」


シーリンも限界だった。

破れた水袋を持ち、残った水を必死に吸い取る。


彼女が期待の目で俺を見る。

俺は首を振った。


「俺の水は、空から湧いてるわけじゃない。

俺の体の水だ」


「……っ!」

シーリンが申し訳なさそうに顔を歪める。


「じゃあ、

今は私よりあなたのほうが水が必要で……」


「いい。俺もさっき気づいた。

魔法には代償があるってな」


強がりなのは自分でもわかる。


けど今ここで、

勝手な言葉で相手に罪悪感を背負わせても、

何の足しにもならない。


「もし……私の体の水を、

あなたにあげられたら……」


シーリンが下唇を噛む。


「その案は却下だ。

けど……方法なら思いついた!」


「え……私の水を抜くの……?」


シーリンの表情が、怖さと後悔で引きつる。


「違う、そうじゃない!」


彼女の頭に何が浮かんだのかは知らない。


俺の案は単純で直接的――ただ、

ちょっと気持ち悪いだけだ。


俺は一番近い砂漠魚人の死体に近づき、

首筋に大きく噛みついた。


血が舌に溢れ、

塩と鉄の匂いが喉へ流れ込む。


『新称号獲得:ブラッドドランカー』

『血液を飲むことで生命力・精神力が急速回復』

『日光下で毒状態になる』


……やっぱり、こうなるよな。


俺は口元を拭い、魚人が次の攻撃に移る前に称号を付け替えた。


「……水が欲しいなら、

あいつらの体の中にいくらでもある。

変な寄生虫がいないことを祈るしかないな」


乾きは引いた。

吐き気が込み上げる。


だが生命力と精神力はほぼ満タンまで戻り、

精神力の最大値も上がっていた。


遠い空が、

少しずつ魚の腹みたいに白んでいく。


破暁の砂漠で、

砂漠魚人の群れが、

まるでラッパに追い立てられたみたいに

一斉に東へ走り出した。


奴らの背後で、

狂ったような砂煙が天へ噴き上がる。


「変だよね? どれだけ飢えてても、

太陽に向かって突っ込んだりしないのに」


シーリンが訝しむ。


「どうであれ、この波を凌げば勝ちだ」


俺は自信満々に水弾を構える。


左手も右手も、各指に五発分。

十本の指先に、水弾が宿る。


「準備できた」

俺は笑った。

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