第35話 原初の母神の懐へ戻れ
戦場を覆う紫色の霧はますます濃くなり、その陰鬱な冷気は無数のぬめる小蛇のように甲冑の隙間から皮膚へと這い入ってきた。
遠く、フェナリが戦場の向こう側でゆっくりと顔を上げた。
その瞬間、冷たく、かつ審美を含んだ二つの視線が混沌とした戦場を横切り、正確に俺の方へ突き刺さるのを感じた。
彼の純白の長袍は紫の光に浸され、縁取りが不吉な虹色を帯びている。
彼が口を開いた。
語り口は非常に柔らかく穏やかで、哀れみを帯びた説得力があり、盗賊の群れを率いる者とは思えないほどだ。
「お前の身には……バハムートの祝福が宿っているのか?」
その声は小さく、わずかに遺憾を含んだ叱責のようでもあり、まるで古い友人が悪事を見つけたときのような口調だった。
だが、俺は背筋が凍るのを感じた。
俺たちの間には少なくとも数百メートルの混戦線があり、無数の兵士の殺声や武器の衝突音が鳴り響いている。
彼は大声を張り上げているわけでもなく、口の形さえも軽やかに見えるのに、その言葉は耳元で囁かれるかのように一語一語はっきりと聞こえた。
「そうあってはならない……」
フェナリはため息交じりに言った。
「何がそうではないのだ?」と、俺は胸の高鳴りを抑えつつ、道を塞ぐ無表情の兵士を斬り裂きながら、警戒を緩めずに彼と空間越しに応じた。
「お前たちは、あの後から現れた偽りの神を崇めるべきではなかったのだ」フェナリは再び顔を上げ、瞳から濃い紫の光を噴いた。
「ここを見よ。俺の背後にいるのが……この世界を真に創造した原初の母神、ティアマトだ」
彼の言葉が落ちると同時に、漆黒の夜空が何か巨大な力によって引き裂かれたかのように裂けた。
フェナリの背後で、紫の大地の光が集まり、小山のような巨大な影を形作った。
それは五つの巨大で凶悪な龍の頭の輪郭だった。
淡い幻影に過ぎないとはいえ、太古の時代から来る圧倒的な圧力が場に満ち、そこにいるすべての生き物の心臓をぎゅっと掴むような感覚を与えた。
戦場の戦闘は依然として激しく、意識ある者も無意識の者も互いの命を奪い合っている。
血は砂地に飛び散り、瞬時にその紫の邪光に吸い尽くされていった。
「なぜお前があのティアマトを崇めるのかは知らんが、少なくとも俺の側には大量の生者を死地へ送れと命じる者はいない」
俺は大声で反論した。
「死だと?違うよ」
フェナリは優しく微笑んだ。
彼は両腕を広げ、まるで戦場全体を抱きしめるかのように言った。
「私はただ、彼らの魂を肉体の束縛から解き放ち、原初の母神の懐へ返しているだけだ」
彼の背後に、五つの龍首の影が暗闇の中で狂おしく踊る。
「原初の母神の懐に戻る――それは幸福なことのように聞こえるな」俺は冷笑しつつも足を止めず、むしろ突進の速度を上げた。
身を低くして、群衆の裂け目を稲妻のように縫って進む。
「だが、お前は彼らの意思を問うたのか?
彼らはそんなに早く行きたがっているのかもしれないだろう!」
そう言いながら、俺はフェナリへ向かって突進した。
事態がさらに悪化する前に、彼との距離を縮めてこの狂気を断ち切らねばならないと分かっていた。
「おや、望まないだと?そんな考えがあるということ自体、お前たちがあの恥知らずな偽神に惑わされている証拠だ」フェナリは手を伸ばし、大地に向かって軽く一振りした。
瞬時に、戦場のあちこちに数十の召喚陣が展開した。地中から次々と巨大な影が這い出してくる。
それは翼を持ち、龍の頭と尾を備えた高大な悪魔たちだった。
どれも三メートルはあろうかという巨躯で、吐き気を催すような臭気を放ち、暗闇の中で赤い瞳がぎらついている。
我々の兵は千二百。
しかも彼らは二千の盗賊との戦いを終えたばかりで、今や意志を持たぬ者たちと戦わねばならない。
そして、あの厄介な盗賊頭は、さらに龍首の悪魔を戦場に放ったのだ。
「おおおお、龍の匂いだ!」
グルルとその仲間二人は、この光景に恐怖するどころか興奮して咆哮した。
強靭な戦士である彼らの戦意は完全に燃え上がった。
その鼓舞を受け、周囲で恐慌に陥っていた兵たちも奮い立ち、再び武器を取り悪魔へと向かっていった。
激しい戦闘は続き、叫喚は砂漠の半分を震わせた。
だが、俺はますます不安を募らせていた。
俺は機械のようにシャムシールを振り、視線は戦場の中心に釘付けだ。我々の兵は勇敢だが、勇気だけでは足りない。
この数と超自然の力に押されて、どう戦えばいいのか――
戦況はこの瞬間、完全に制御を失った。
フェナリの背後に漂う五首の龍影のうち、
一つの巨大な頭蓋が次第に実体を帯びていった。
それは生きた龍の頭ではなく、白骨が露出した凄惨な骨の龍首で、眼窩には淡い紫の光が揺れている。
骨龍は白い顎を大きく開き、濃い黒煙を吐き出した。その煙はまるで生き物のように戦場を急速に覆っていった。
既に倒れていた者たち――味方も敵も――がその黒煙に包まれると、よろめきながら再び立ち上がった。
敵我の数の差は一瞬にして絶望的なほどに広がった。
我らの兵は勇猛だが、殺しても消えない、
散らせない亡霊の軍団を前にして、体力も意志も限界に達しつつあった。
仲間が次々と倒れるのを見ながら、敵の陣営は死者の「復活」によってますます膨れ上がっていく。
「絶対に!お前のやりたい放題は許さない!」
俺は遠方のフェナリに向かって怒鳴った。
我々の間には密集した敵陣があり、単に走り抜けるだけでは間に合わない。
だが、手はないわけではない。
俺は反転して横薙ぎに一撃を放ち、道を塞ぐ敵を押し退けると、次の交戦の短い隙を突いて、称号を切り替えた――『ブラッドドランカー』。
それは危険な称号だ。
敵の血を貪ることで魔法の消耗を回復する。
灼熱の昼間なら副作用が深刻だが、今は深夜。まさにその力が発揮される時だ。
俺は深く息を吸い、砂漠の夜の冷気を感じながら言った。
「ボール、滑空モード起動だ。あの野郎のところへ飛ぶぞ!」
以前、ボールが滑空モードに変形するときは、いつも柔らかな粘液状の姿だった。
しかし今や、鋼の胴体を持つそれは背中に巨大な鋼鉄の翼を展開した。
俺は全力でボールを空へ投げ上げた。
半空で金属の歯車が噛み合う音を立て、瞬時に広大な滑空面が開いた。
「ジェット・プロパルジョン!」
両手の掌を下に向け、掌底から二本の猛々しい高圧水柱を噴き出す。
反作用を利用して、俺の身体は砲弾のように高空へと飛び上がった。
俺はボールの脚を掴み、風向きを調整しながら混乱する戦場上空をフェナリの位置へ向けて急速に滑空した。
高所から俯瞰すると、下の惨状が一望できた。紫の潮に押され、我らの勢力は徐々に後退し、ワハーの最後の防衛線は危うくなっている。
しばらく飛行すると、息が荒くなってきた。高空は水分が薄く、頻繁なジェット推進の使用で体内の水分が急速に失われ、魔力を駆動する力も弱まっていく。
だが問題ない。
エネルギー源は下にある。
俺はフェナリの側を見やった。十数体の龍首悪魔が彼を石像のように守っている。
フェナリも頭上の脅威に気づいたらしい。
彼はゆっくりと顔を上げ、紫の光を宿す瞳で俺を見た。その目には、新しい玩具を眺めるかのような好奇心が混じっていた。
「そんなことができるのか?それはバハムートの力ではないだろう?」フェナリは低く言葉を発し、その声が直接俺の脳裏に響いた。
「誰の力だろうと関係ない!」
俺は両手を離し、数十メートルの高空から真っ逆さまに落下した。
「ウォーターカッター!」
俺は叫び、指先を突き出すと、落下の勢いに乗ってレーザーのように凝縮した高圧の水刃を放った。
シュッ――!
着地の瞬間、避けきれなかった一体の龍首悪魔が胴で真っ二つに斬り裂かれた。
その巨大な半身からは大量の濃緑色の生臭い血が噴き出し、噴水のように俺を全身ずぶ濡れにした。
俺はためらわず口を大きく開け、その噴き出す悪魔の血を嫌悪とともに飲み下した。
温かく、暴虐の力を帯びた血液が喉を通ると、枯渇していた魔力の泉が瞬時に沸騰するのを感じた。
『称号進化:ブラッドドランカーが進化して――浴血者に。』
『周囲に露出した血液があれば、空間越しにその血の魔力と生気を直接吸収できる。』
ハッ、最高だ!
進化した称号により、もはや臭い血を一口ずつ啜る必要はない。
今の戦場で不足しているものは何か?
答えは明白だ、血だらけの戦場だ。
失われた水分と体力が一瞬で戻ってくるのを感じる。
今の俺は、あの大海で暴れ回る水門のガーディアンにも匹敵する力を得た。魔法を遠慮なく使いまくれる。
俺はさらに長く、鋭い高圧の水刃を放ち、視線をフェナリの背後で暴れているあの骨龍の首に定めた。
「落ちろ!」
人差し指から放たれた水刃に全身の魔力を注ぎ、白骨の頸を一閃した。
眩い青光が紫の霧を切り裂く。
骨龍の首が重々しく砂地に落ち、土煙が舞い上がった。
普段は淡々としているフェナリの顔に、ついに驚きの色が浮かんだ。




