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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第30話 義父との献杯


深夜、ワハ。


ようやくこの馴染み深いオアシスへと足を踏み入れた時、俺たちを待っていたのは歓声ではなく、死寂しじまに近い重苦しい空気だった。


月光が砂地を照らし、村の入り口にある焼き払われた残骸を浮かび上がらせる。

空気中には今もなお、家園が傷ついた余韻である焦げた臭いが漂っていた。


「早く! ハスタナイ、あなたを必要としている人がたくさんいるの!」

シーリンは馬を降りる間も惜しむようにハスタナイの手を引き、問答無用で家の方へと走り出した。


その足取りは急ぎ、時折よろめいている。

長旅の疲労と、張り裂けんばかりの焦燥が混じり合った無様な姿だった。


ハスタナイの奴は、道中ずっと腰が痛いだの背中が痛いだのと文句を垂れ、ワハに着いたらまずは三日三晩寝てやると喚いていた。


だが今、シーリンの瞳にある焦りを見た彼は、その疲れ切った顔からいつものふざけた笑みを消し去っていた。


彼は二言目もなく、ずっしりと重い薬箱を提げ、大股でシーリンの後を追った。


その背中を見送りながら、俺は思った。普段はあんなに吊るし上げたいほど不真面目な男だが、今この瞬間の彼から放たれる医者としての自覚は、直視できないほどに眩しい。


命を救うということに関して、彼は決して手を抜かないのだ。


俺はその場に残り、無残に荒らされたワハの光景を見つめた。胸の奥が何かに強く締め付けられるような感覚に陥る。


砂漠と海を越えて冒険していたこの十数日間、ワハの村人たちは一体どれほどの苦痛に耐えてきたのだろうか。


俺たちが戻る前に、救いを待ちわびながら絶望の中で目を閉じた者が、果たしてどれほどいたのだろうか。


俺は不安と罪悪感を抱えながら、ゆっくりとシーリンの家へと向かった。


少し古びた木門を押し開けると、混乱した光景が広がっているかと思った。


だが意外にも、居間には暗い油灯がひとつ灯っているだけだった。


シーリンの父親、クルユウドが、満足げな表情で食卓の傍らに座り、一人で酒瓶に向き合っていた。


「シーリンは?」

答えは明白だったが、俺は呆然と尋ねてしまった。


クルユウドは顔を上げ、微笑んだ。

それは幾多の修羅場を越え、死生観すら悟ったかのような落ち着きだった。彼は俺に手招きをし、ついでに空のコップをこちらへ押しやった。


「座れ。あの子は、なすべき事のために動いている」


お義父さんとの献杯――。


はは、と俺は心の中で苦笑した。

まさか十八歳になったばかりで、こんなに大人びた経験をする機会が訪れるとは。

しかも、いつ戦争が勃発してもおかしくないこんな深夜にだ。


俺は酒杯を受け取った。


クルユウドが少しだけ注いでくれたのを、俺は彼に倣って、淑やかに一口啜った。


その酒はとても香ばしかった。

濃厚な穀物の香りと、砂漠の植物特有の辛みが混じり合い、喉を通るたびに火の塊が食道を焼き尽くしていくような感覚になる。

この数日間の疲れをすべて焼き払ってしまいたいほど、一気に煽りたくなる酒だ。


だが、クルユウドの前で酒浸りの無頼漢のような真似はできない。


俺は、酒杯を握るクルユウドの手が微かに震えていることに気づいた。


「あの子には、あの治癒術師を連れて先に緊急性の高い者たちの治療へ行かせた」

彼は酒杯を見つめながら、誇らしげな口調で言った。


「想像できるか? デミルズの奴、腹に盗賊どもに風穴を開けられながら、よくもまあこれだけの期間を意志の力だけで耐え抜いたものだ」


俺は義父の掌に目をやった。そこには厚い包帯が巻かれている。

彼の手が盗賊に貫かれた瞬間を、俺はこの目で見た。それは戦士としての尊厳が傷つけられた痕跡だ。


たとえ一部が癒えたとしても、短期間で以前のように力を込めるのは難しいだろう。


「クルユ……」

言いかけて、彼が深い意味を含んだ、あるいは試すような視線をこちらに向けていることに気づいた。


俺は慌てて言い直す。


「ええと……お父さん」

その二文字はまだ口に馴染まず生硬だったが、これから慣れていかなければならない呼び名だ。


「ははは! いい子だ」

クルユウドは笑った。

俺の不器用な言い直しが気に入ったらしい。


「お前の性格は少しばかり浮ついているのではないかと心配していたが、まさかこれほど頼りになるとはな。ガーディアンの名に恥じぬ働きだ。

強力な治癒術師を連れ帰っただけでなく、ベイ様の精鋭部隊まで引き連れてくるとは……」


彼は上機嫌に語り、俺の酒杯が空きそうになると、酒瓶を取って注ごうとした。

だが、その震える手のせいで、瓶の口がカチカチと杯の縁に当たってしまう。


俺は胸の奥がツンと痛み、すぐさま酒瓶を奪い取ると、今度は俺が彼の杯に並々と注いだ。


「明日、お父さん。ハスタナイに手を治してもらったら、改めて俺に正しい酒の注ぎ方を教えてください!」

これが現地の礼儀に適っているかはわからない。


だが、かつて勇猛だった老戦士が、酒一杯注ぐのにも苦労している姿を、俺はどうしても見ていられなかった。


クルユウドは俺を見つめ、複雑な感情を瞳に宿すと、やがて苦笑した。

「明日か……明日は、おそらく無理だろうな」


「どうしてですか?」

俺の心臓がドクリと跳ねた。


「フェナリの軍勢もこちらへ向かっている」

クルユウドは酒を飲み干すと、その語気を再び厳かなものへと変えた。


「私の知る限り、明日の午後には、奴らの手勢がワハを完全に包囲するだろう」

やはり、グクリマンの斥候たちが持ち帰った軍情に狂いはなかった。


フェナリは俺たちに休息の暇を与える気などないのだ。


「安心してください、お父さん。俺たちが必ず、もう一度ワハを守り抜いてみせます!」

俺は胸を叩き、クルユウドに保証した。


「お前ならできると信じている。これを飲み干したら、早く休むがいい」

クルユウドは、まるで実の息子を見るような慈愛に満ちた眼差しで俺を見つめていた。


翌朝早く。

俺は微かな水音で目を覚ました。シーリンが身支度をしている音だ。


目を開けると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

ベッドの隣はすでに空いていて冷えていたが、その場所にはまだ、シーリンの体温が微かに残っている。


それは淡い、砂漠の朝の草木の香りと、彼女個人の香りが混ざり合った匂いだった。


俺は懊悩し、同時に安堵した。

懊悩したのは、昨夜酒を飲んだ後、泥のように眠りこけてしまったことだ。疲れ果てているはずの彼女より先に休んでしまうなんて、夫としてあまりに不甲斐ない。


そして安堵したのは……もし昨夜、彼女が俺の隣で眠ることを知っていたら、俺のような純情な転生者は、おそらく夜が明けるまで一睡もできなかっただろうということだ。


俺は迅速に装備を身につけた。

僅かな血痕と砂塵の残るその装備は、今、どんな礼服よりも重く、荘厳に感じられた。


門のところでシーリンと合流した時、俺たちは言葉を交わさず、ただ視線を交わした。

それで十分だった。俺たちの間には、すでに確かなきずながある。


俺たちは並んで村の中央広場へと向かった。

広場には、すでに多くの人々が集まっていた。


ハスタナイは木箱の上にどっかと座り、

一人また一人と、村人の傷を癒していた。


彼の清潔だった法衣は乾いた血に汚れ、両目は血走り、今にも行き倒れそうな形相だ。


聞けば、昨夜十数人の重傷者を立て続けに処置した後、軍官たちによって半ば強制的に休息させられたらしい。


次に立ち向かうのがあの悪名高い大盗賊フェナリである以上、唯一の治癒術師を戦う前に使い潰すわけにはいかないからだ。


傍らを見ると、クルユウドの両手はすでに癒えていた。彼は古い布を使い、丹念に長剣を磨き上げている。


ハスタナイによる治療の優先順位は、すでに変わっていた。


昨夜は「命を救うため」だったが、今日は「戦力を回復させるため」だ。

彼は、戦える若者や兵士たちの機動力を優先的に回復させていた。


村全体が、うねるように動き始めていた。

もともと、俺とシーリンが治癒術師を連れ戻しに行くという計画に、皆はそれほど大きな期待を抱いてはいなかったはずだ。


彼らにとって、それは絶望の中の最後の足掻きに見えただろう。


十数日にわたる血と涙、傷口の化膿に喘ぐ家族の叫び、そして再び略奪に来るという盗賊団の噂……その絶望は、人の魂を容易に打ち砕く。


だが今、奇跡は彼らの目の前にあった。

死神を追い払う治癒者だけでなく、装備を整え、殺気立ったベイの精鋭部隊まで連れ帰ってきたのだ。


灰色の絶望に沈んでいた村人たちの瞳に、希望という名の炎が再び灯った。


その熱情は伝染する。村人たちは興奮しながら錆びた鎌を研ぎ、石を運び始めた。


その活気はベイの兵士たちにも飛び火し、苦しむ平民たちが再び立ち上がる姿を見て、兵士たちもまた士気を高め、長槍を固く握りしめた。


「閣下、罠の設置は完了しました」

「ガーディアン様、水袋は満杯です!」

溢れんばかりの闘志の中で、一日がかりの緊張した防備と罠の設置を終え、地平線の向こうに太陽がゆっくりと沈んでいった。


最後の残光が消えた時、ワハの縁に、密集した黒い影が現れた。


フェナリの盗賊団だ。


奴らは身を隠すこともせず、傲慢に火を掲げ、オアシスを隙間なく包囲した。


その火光は地平線上で一筋の線となり、巨大な火蛇のごとく、今にもワハを飲み込もうとしている。


俺は村の入り口にある土壁の上に立ち、その数を見て心拍数が跳ね上がるのを感じた。


「シーリン……あの人影を見ろ」

俺は声を潜めて言った。


シーリンは腰のシャムシールを握りしめ、その表情をかつてないほど険しくさせた。


あの人数……。

絶対に二千人なんて規模じゃない。


俺たちが相手にしているのは、おそらく複数の盗賊団が合流した巨大な連合軍だ。


フェナリの奴、ワハを根こそぎ根絶やしにするつもりか。


戦闘……いや、戦争が、今まさに始まろうとしていた。


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