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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第29話 ワハへの進軍


グクリマン港で迎えた最初の朝、俺は焼けるような喉の渇きで目を覚ました。


勢いよく跳ね起きると、昨夜の残りか井戸から汲みたてかも構わず、机の上にあった水差しをひったくるようにして一気に煽った。


冷たい水が喉を通り抜けていき、燃え上がるような熱さがようやく収まった。


ここ数日、水門のガーディアンとしての力に頼りすぎていた。

水のエレメンタルが心身に満ち溢れる、あの万能感に中毒になっていたのかもしれない。


「ふぅ……」

顔を拭い、わずかに震える自分の掌を見つめる。


ここは海から遠く、大きな淡水湖すら存在しない。

これ以上、水と魔法を浪費するわけにはいかなかった。


ボールがベッドの脇で待機状態から活動モードに切り替わり、その銀白色の鋼鉄の外装が朝露の中で冷たく光った。


ボールは手際よく外へ向かい、俺のために新しく飲み水の入った水差しを運んできた。


Lv6にアップグレードして以来、できることが格段に増えている。もはや全方位型の人工知能ロボットと言っても過言ではないだろう。


扉が静かに開き、シーリンが清潔な水を入れた桶を持って入ってきた。


俺の無様な様子を見て、彼女の瞳に微かな痛ましさがよぎる。

彼女は水桶を置くと、自然な動作でベッドの端に腰掛け、湿らせたタオルで俺の額に浮いた脂汗を拭ってくれた。


「どうしたの? どこか具合が悪いの?」

シーリンの声は少し掠れていて、長旅の疲れが滲んでいた。


「具合が悪いわけじゃないんだ。ただ……そばに大量の水がないだけで、自分がひどく無力に感じられて」

俺はそのまま、彼女の肩に頭を預けた。


妻であるシーリンは、いつも俺の恐怖を敏感に察し取ってくれる。


彼女は俺の背中に手を回し、不安な子供をあやすように優しく抱き寄せた。

「あまり無理をしないで。私たちはもうグクリマンにいるのよ。ワハはもうすぐそこなんだから」


半時間後、俺たちは臨時の軍事評議室へと向かった。


ここの空気は海上よりも乾燥しており、それに引きずられるように人々の心も殺気立っている。

数名の将校たちが、巨大な羊皮紙の地図を囲んで激しい議論を交わしていた。


俺とシーリンが入っていくと、皆一斉に口を閉ざして一礼した。


その動きは一糸乱れず、直立不動で拳を胸に当てる。


「ガーディアン様!」


その過分な礼遇が、俺には重圧だった。

彼らの目には、俺は十五隻の戦艦を引きずり、バハムートとも対等に渡り合う半神のような存在に映っているのだろう。


だが、俺自身の中身は、早くどこかで落ち着いてコーヒーでも飲みたいと思っているただの転生者だ。


「皆さん、お気遣いなく。俺は今の進捗を聞きに来ただけですから」

俺は部屋の隅に陣取り、大人しく頷くだけの置物になるつもりだった。

しかし、俺は彼らの崇拝ぶりを甘く見ていた。


「閣下、お言葉を。あなたの意見こそが、この作戦の要なのです」

艦隊司令官の手によって、俺は直接、地図が広げられたテーブルの最上席へと案内されてしまった。


俺は頷き、精神を奮い立たせて席に着く。

シーリンは俺の傍らに立ち、自然に俺の肩に手を置いて、無言の支えになってくれた。


「フェナリに関する最新の情報です」

一人の偵察兵が、慌てた様子で報告を始めた。

「フェナリは軍勢の再編を完了しました。現在、その手下は少なくとも二千。盗賊、流亡の傭兵、そして山賊の混成部隊です。彼らは蝗害いなごのごとく北西から押し寄せており、ワハ周辺の貿易中継点はすでに略奪の被害に遭っています」


俺の肩に乗ったシーリンの手が、ぐっと強まる。


「二千人か……」

俺は地図を見つめた。


フェナリは魔法の天才ではないが、冷酷で老練な盗賊のリーダーだ。

這略奪に慣れ、地形を知り尽くした二千人の亡命者たちは、ワハのような小さな砂漠の村にとって、まさに滅亡の災厄に等しい。


「ワハなんてただの小さな集落なのに、なぜ彼はそこまで執着するんだ?」

俺は疑問を口にした。


将校たちが一斉に俺を見た。

なぜこの男はこれほどまでに常識がないのか、と理解しがたい表情を浮かべている。


艦隊司令官が、苦笑いを浮かべながら説明してくれた。


「それは、十年前にある大賢者が預言したからです。次代の水門のガーディアンはワハに現れる。それも、史上最強のガーディアンになると。それゆえ、クルユド様はずっとあのオアシスの村に隠居同然で住まわれていたのです」


「彼はガーディアンの力が欲しいのよ。ワハを占領すれば、父を脅してガーディアンの資格を自分に譲らせることができると思い込んでいるの」

シーリンが冷ややかに言った。


その瞳から優しさは消え、故郷を守るという強い決意が宿っていた。


「でも、お義父さんはもう俺に継承してしまっただろう……」


「だから、彼はワハを人質にしてあなたを脅し、水門の鍵を渡せと迫るつもりなのよ」

「鍵が力の源なのか?」俺は尋ねた。


シーリンは首を振った。


「いいえ……鍵はただの信物よ。ずっと、水門のガーディアンというのは単なる称号に過ぎなかった。事実、私たちもガーディアンがこれほどまでに神秘的な力を持っているなんて知らなかったのだから」


艦隊司令官が息を吐いて言った。

「だがフェナリは、水門のガーディアンがどれほど強大かを知っている。だからこそ、執着しているのでしょう。彼は、閣下とワハのえにしを熟知しているのです」


「……あいつは必ずワハを狙ってくる」

彼らの言葉を聞き、俺の心は深い憂慮に包まれた。


「現在の我々の優位は『時間』です」一人の軍官が路線図を指した。


「グクリマンからワハまでは近く、全速で進軍すれば、一日程度の整備と移動で済みます。フェナリが包囲網を完成させる前に、必ずやワハに入城できるでしょう」


皆の視線が俺に集まる。

言葉には出さないが、彼らが水門のガーディアンによる『奇跡』を期待しているのは明らかだった。


「陸の上では、大規模な魔法は使えません」

俺は正直に打ち明け、彼らの幻想を打ち砕いた。


「俺の魔力は外部の水源に依存しています。無理に透かそうとすれば、ワハに着く前に俺が先に倒れてしまう」

将校たちは失望の色を隠せなかったが、シーリンは俺の手を強く握り、冷然とした態度で彼らに告げた。


「ガーディアン様は万能の道具ではありません。閣下が制限を仰った以上、私たちは正規軍としてのやり方で戦うまでです。千二百のベイの精鋭が、たかだか二千の賊ごときに遅れを取るとでも?」


その言葉が、評議室の空気を一気に引き締めた。作戦は迅速に決まった。

重い攻城兵器は破棄する。そんなものは必要ない。

全軍、軽装での出撃だ。最短時間でのワハ入城を目指す。


評議が終わると、港全体に慌ただしい鉄のぶつかり合う音が響き渡った。


俺は広場の片隅に立ち、兵士たちが背嚢に兵糧や武器を詰め込む様子を眺めていた。

水や果実酢といった、保存のきく飲料を携えているのも見える。


ボールは傍らで静かに待機していた。今は銀色の金属球となり、あの恐ろしい武装を収めて、心なしか内向的な佇まいに見える。


「旦那、これを持ってってくれ」

グルルが特大の革袋をいくつか持ってやってきた。


「助かるよ、グルル」

俺は水袋を受け取り、行軍の砂羯の鞍に括り付けた。


これが俺の最後のお守りだ。

川のないこの地において、この数袋の水だけが俺に残された『弾薬』なのだ。


ハスタナイも、連日の強行軍の疲れを微塵も感じさせない様子でふらりとやってきた。


「よお、英雄殿。そんな顔をするな。ワハまでは目と鼻の先だ。着いたら、あそこの美味い郷土料理でも紹介してくれよ」


「はは、俺も地元民じゃないけどな。シーリンに何が美味いか一緒に聞きに行こう」

俺は笑って、彼の肩を軽く叩いた。


「二千対千二百だ。向こうに着いたら忙しくなるぞ」

「俺の心配は無用だぜ。イチネ流域で俺より腕のいい治癒術師はいねえからな」

彼は不敵に眉を上げると、医療物資の点検へと戻っていった。


午後、グクリマンの城門がゆっくりと開かれた。

澎湃たる波の音はなく、代わりに重々しい蹄の音と、兵士たちの整然とした号令が響く。

ベイの軍勢は二列縦隊を組み、巻き上がる砂塵の中を北へと進軍を開始した。


俺は砂羯に跨がり、シーリンはチャクルを連れて俺のすぐ隣を歩む。

チャクルの足取りは驚くほど軽く、どこか楽しげに尻尾を振っていた。


「気分はどう?」

シーリンが尋ねる。彼女の手は常にシャムシールの柄に添えられていた。


「心配ないさ。十数日前にも、この大砂漠を歩いて通り抜けたばかりだろう? 今回は守ってくれる軍隊まで一緒だ」

俺は風に乱れた襟元を整えながら答えた。


シーリンは遠くに霞んで見え始めたワハの村の輪郭を見つめ、その瞳に決意を宿した。


「絶対に、フェナリの好き勝手にはさせないわ」

俺は手綱を握り直した。


今の俺は、喉も渇けば疲れもする平凡な人間に過ぎない。


だが、隣にいるこの女を、彼女が愛するこの地を守るためなら――たとえ体中の一滴の水まで焼き尽くすことになろうとも、俺は決して退かない。


グクリマンの灯火は、地平線の彼方へと遠ざかっていった。

前方には、風と砂の舞うワハが待っている。


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