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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第25話 三位一体の試練


巨大な敵であっても、速度が十分に速く、攻撃力が十分に集中していれば、必ず弱点を見つけられる――かつての俺はそう思っていた。

 

だが、それは間違いだった。

 

神魚バハムートの三つの化身を前にして、「弱点」という言葉は滑稽なほど無力だった。

 

この三つの神影は、神魚の本体から解体・再構成され、それぞれ三つの次元を占拠していた。

 

深藍の巨鯨リヴァイアサンは深淵にわだかまり。

プラチナのドラゴン、バハムートは雲の端を翔ける。

そして真紅の巨獣ベヒーモスは、大地の重みと不変の象徴としてそこにいた。

 

その一柱一柱が、山脈や島に匹敵する存在感。

 

空を覆い尽くさんばかりの巨躯を前に、俺の手の平には冷たい汗が滲んだ。

正直なところ、この規模の戦闘でどうやって勝利を掴めばいいのか、見当もつかない。

 

まず動き出したのは、ベヒーモスだった。

そう、奴は「歩いて」いた。

 

都市一つを飲み込むに十分なこの南方大洋において、奴の体躯は、深海を平地のように踏みしめて歩けるほどに巨大だった。

 

奴が一歩踏み出すたびに、海床は重苦しい悲鳴を上げ、俺たちの足下にある戦艦もそれに呼応して激しく震動する。

 

「ガーディアンの旦那! 奴が来る! 来ちまうぞ!」

グルルが衝角しょうかくの上で狂ったように手を振っている。彼の持つ戦鎚が、今は爪楊枝のように小さく見えた。

 

「落ち着け! 遠距離攻撃だ!」

俺は大喝し、両手を前方に突き出した。

 

狂ったようにその真紅の影へ向かって水弾を放つ。

水霰弾、濁水弾、さらには鋼鉄をも切り裂く水刃――出し惜しみは一切なしだ。

 

十五隻の戦艦が一列に並び、巨獣に向けてバリスタを斉射する。

グルルは二人の部下を引き連れ、戦々恐々としながら弱々しい水砲を噴かせていた。

 

ボールに動きはない。

新たなクロスボウを装備してはいるが、今は操作を誤った自動販売機のように、俺たちに警告を促すような赤い光を静かに明滅させているだけだ。

 

数発撃ち込んだところで、深い無力感が胸に込み上げた。

 

この圧倒的な「質量」の差を前にしては、俺の放つ弾丸がどれほど速く、どれほど高圧であっても、ベヒーモスの厚い皮膚の上では大山に投げられた砂粒に過ぎない。

波紋一つ立てることさえできなかった。

 

ダメだ、通常の戦い方では奴らを微塵も傷つけられない。

一点にかける圧力が足りないのなら、別の方法を試すまでだ――。

「絶対的な質量」には、「絶対的な質量」で対抗する。

 

俺は深く息を吸い、両腕を広げて周囲に満ちる無限の水元素を感じ取った。

 

ここは南方大洋だ。俺の弾丸は確かに無限だが、それらを微小な個体のまま分散させていては、神の領域を揺るがすことなど永遠に叶わない。

 

俺は指先に水分を集め始めた。今度は細かな弾丸へと圧縮するのではなく、雪だるまを作るように、ひたすら拡張させていく。

 

こぶし大の水弾? 足りない。

人の頭ほどの水弾? 全く足りない。

俺の体より大きな水球? それでもまだ焼け石に水だ。

 

俺は歯を食いしばり、精神を削り取るような魔力の激流に耐えた。

 

目前の巨大な水球は膨張し続け、周囲の海水を猛烈に飲み込んでいく。

数秒のうちにその体積は爆発的に広がり、ついには旗艦全体を覆う影となり、足下にある百人乗り級の重武装戦艦をも上回る巨大な塊となった。

 

「水門のガーディアン」という称号が、これほどデタラメな真似を可能にするとは意外だった。これはもはや、物理法則の再記述に近い。

 

「行け!

ジャイアント・ウォーター・キャノン!」

 

俺は怒号と共に、両手を猛然と押し出した。

 

これほど巨大な質量の水塊を駆動させるのに、どれほどのエネルギーが隠されているか、想像すら及ばない。

 

それはもはや弾丸ではない。空飛ぶ湖であり、方向性を強制的に与えられた山崩れだった。

 

「ゴォォォン!!」

ウォーター・キャノンがベヒーモスの頭部に重々しく叩きつけられた。

 

接触の瞬間、雷鳴のような轟音が爆発し、水しぶきが砕け散り、無数の霧となった。

 

ついに、ベヒーモスの動きが止まった。

 

山岳のごとき巨躯が一撃によって激しくのけ反り、その重厚な重心が崩れる。

 

無数の水手たちの悲鳴が上がる中、大地を象徴するその神物は、ついに海中へと転倒した。

 

その光景は、まるで目の前で島が沈んでいくかのようだった。

 

しかし、勝利を祝ういとまもなく、海面にはさらなる恐怖の変貌が訪れた。

 

ベヒーモスが倒れ込んだ際に押しのけられた海水の量は凄まじい。その膨大なエネルギーを、もう一柱の神物――巨鯨リヴァイアサンが捉えていた。

 

深海から、リヴァイアサンの長く尾を引く鳴き声が響く。

奴はベヒーモスが巻き起こした波濤を逆手に取り、利用することで、さらに強大な「波」を強制的に作り出したのだ。

 

一瞬にして、水平線が消失した。

代わりに現れたのは、天を遮り、冷徹な藍色に輝く「海の壁」だった。

 

「全艦、注意せよ! 津波が来るぞ!」

船長が甲板で絶叫する。その声は恐怖で裏返っていた。

 

船は木造だ。その材質ゆえに簡単には沈まないだろうが、この圧倒的な衝撃力をまともに喰らえば、粉々に打ち砕かれるのは火を見るより明らかだった。

 

十五隻の戦艦は、沿岸都市をも平らげるこの巨浪を前にして、耐え抜くことができるのか?

 

「急げ! 互いの船にかぎなわを撃ち込め!」

俺は混乱に陥った旗艦の甲板で怒鳴った。

 

船長は呆然とした。

なぜ互いの船を連結させるのか、その表情には困惑と不条理が混じっている。

 

俺が何をしようとしているのか理解できないのだろう。まさかこの大波を前にして、味方の船を奪おうというのか?

 

「『水門のガーディアン』として命じる!」

俺は彼の襟首を掴み上げ、血走った眼で叫んだ。

「今すぐ全ての艦に、かぎなわで味方の船を繋がせろ! 急げ!」

 

説明している時間はない。

だが、「水門のガーディアン」の威厳は、この瀬戸際で効果を発揮した。

 

バチェラシュの戦士たちは疑念を抱きつつも、ガーディアンへの服従は骨の髄まで染み込んでいた。

 

「信号手! 合図を送れ! 接敵モード! 目標――友軍艦隊!」

船長がついに命令を下した。

 

嵐の前触れのように、鋭く、切迫した号角の音が響き渡る。

全艦の水手たちが動き出し、指定された目標に向けて旗を振る。

 

たいはんの船が、目前に迫る海壁と旗艦からの狂気じみた命令の間で一瞬躊躇した。

 

だが、俺たちの乗る旗艦が、最初の一条となる巨大な金属鉤を放ち、側翼の戦船に深く食い込ませた。

 

そこでようやく、皆が俺の意図を察した。

 

「撃て!」

「引き締めろ! 固定だ!」

 

無数の太いロープが海上で交錯し、十五隻の戦船はわずか数分のうちに強固に連結された。

 

分散していた十五の「点」が、今は一つの安定した「面」へと変わる。

 

上空から見れば、それは木と鉄で編み上げられた一枚の巨大な「木の葉」のようだった。狂乱する潮流の中で、最後の一筋となる安定性を求めて。

 

「ロープを詰めろ! 船を寄せろ!」

 

船同士が衝突し、胸を締め付けるようなきしみ音が上がる。だが、連結された巨大な質量は、確実に俺たちを安定させた。

 

あとは、俺がこの大波の脅威を少しでも減らすことができれば……。

 

俺は再び狂ったように周囲の水分を集める。

過剰な魔力の激流によって、脳裏に鋭い刺痛が走る。

 

だが、止まるわけにはいかない!

 

山のように覆いかぶさる海壁に向け、俺は再び両掌を突き出した。

 

「もう一発だ!

ジャイアント・ウォーター・キャノン!」

 

波そのものを消し去ろうというのではない。それは不可能だ。

 

俺が欲しいのは、ただの「穴」だ。

 

巨大な水塊が再び放たれた。それは巨大なドリルのように、空を覆う海壁のど真ん中に広大な欠損部を穿うがった。

 

「全艦収縮! 突っ込め!」

連結された艦隊がロープに引かれて収縮し、一つに固まる。

 

俺たちが打った刹那の隙間を利用し、木の葉が嵐の裂け目に逃げ込むように。

 

「掴まってろ!!」

海浪が俺たちのすぐ横を通り過ぎていった。

 

それは数千台の重機が同時に稼働する工事現場に放り込まれたような感覚だった。船体を叩く海水の衝撃音は、鼓膜を震わせ、砕かんばかりに響く。

 

旗艦は激しく上下し、甲板の水手たちは命がけで索具や手すり、あるいは互いの体に必死にしがみついた。

 

人生で最も長い一分間だった。

壊滅的な力がようやく過ぎ去った時、水面は再び平穏を取り戻していた。

 

甲板の上はさんたんたる有様で、マストも数本折れていたが、奇跡的に十五隻の戦艦は一隻も欠けることなく、整然とロープで繋がれたままそこにいた。

 

俺たちはこの津波を耐え抜いたのだ。

だが、危機は終わっていない。

 

海面ではベヒーモスが再び立ち上がり、リヴァイアサンの巨大な背鰭せびれが水面下を不気味に泳ぐ。

そして天空では、白金の龍翼を広げたバハムートが雲を切り裂かんとしていた。

 

三柱の巨大な神物は、依然として冷徹な眼差しで俺たちを見下ろしている。

 

「あんなにデカいんじゃ……、敵うはずがねぇよ……」

グルルが甲板にへたり込み、神影を見上げて苦しげに漏らした。

 

「敵う……?」

傍らに立つシーリンが、シャムシールを握りしめたまま、鋭い眼差しを天空の化身へと向けた。

 

彼女は何かを悟ったように、その顔から蒼白さが消えていく。

 

「ヤスト! バハムートはさっき、私たちに『戦え』とは言わなかったわ!」

 

シーリンがこちらを向き、大声で叫ぶ。

 

「奴が言ったのは『我が追擊から逃れよ』! 証明すべきなのは生存能力であって、神を滅ぼす力を見せる必要なんてないのよ!」

 

俺は絶句した。

そうだ、バハムートが授けた神託は、『我が手から生きて去れ』だった。

 

これは神への対抗戦ではない。

生きて逃げ延びさえすれば、それでいいのだ。

 

それなのに俺は――さっきまで、神魚を相手に真っ向から力業でねじ伏せようとしていたのか?


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