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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第23話 バチェラシュの海戦士たち


バチェラシュの港を出てから、二日が過ぎた。


この二日間の海上生活は、意外なほどに心地よいものだった。


十五隻の戦艦が壮大な楔形陣を組み、中央には旗艦が陣取っている。

巨大な白い帆が海風を受けて、バタバタと音を立てていた。


日中の海面は砕けた金のように海面がきらめいていた、空気は潮の香りに満ちている。


俺はよくシーリンと並んで甲板に立ち、

船べりで器用に跳ね回るチャクルが、甲板を飛び越えていくトビウオを捕まえようとする様子を眺めていた。


ボールは甲板の中央で静かに佇んでいる。その銀色に輝く新しいプレートアーマーが、陽光を反射して眩しい。


船乗りたちは最初こそ、この装甲ゴーレムを遠巻きに眺めていたが、すぐにそれが極めて安定していて静かだと気づいた。

今では、洗濯した服をそのバリスタの架台に干し始める者まで現れる始末だ。


グルルと二人の半魚人の仲間たちは、船の人気者になっていた。


この三人は根っからの海好きらしく、蒸し暑い船倉には留まらず、常に船首の衝角しょうかくの上にしゃがみ込み、水しぶきを浴びながら日光に鱗を輝かせていた。


時折、彼らは思い立ったように海へ飛び込み、魚雷のような速さで戦艦の間を泳ぎ回る。そして、肥えた魚を抱えて甲板に戻ってきては、兵士たちの歓声を浴びていた。


ハスタナイは、じっとしていられない社交の天才だった。


彼はあの重い冒険者のバックパックを担いで、一日中あちこちの船を渡り歩いている。

口では健康診断だと言っているが、実際は色んな奴に話しかけては、各地の航海伝説を聞き出しているだけだ。


しかし、そんな平穏は長くは続かなかった。

神魚の脅威が潜むこの海域では、危険は常に波と共にやってくる。


航海二日目の午後、穏やかだった海面が突如として激しく波打ち始めた。


「あれは……クラーケンだ!」

マストの見張り台から悲鳴のような叫びが上がる。


百年物の古樹のように太く、吸盤に覆われた触手が数本、一気に海中から突き出した。

それは大蛇のように護衛艦の一隻に絡みつき、船体を締め上げる。

木材が砕ける不気味な音が響き渡り、船は三十度近くも傾いた。


「全艦、注目! ロープ付きのもりを放て!」

旗艦の艦長が冷静に下令する。


戦太鼓の音が海域に鳴り響いた。

十五隻の戦艦が素早く包囲網を敷き、船首と側面のバリスタが一斉に火を噴く。

太い麻縄が結ばれた数十本の銛が、クラーケンのどす黒い軟体に次々と突き刺さった。


「俺たちの出番だぜ!」

グルルが野性味溢れる咆哮を上げる。

逞しい胸を大きく膨らませ、手にした岩砕きの戦鎚が陽光を浴びて冷たく光った。


一般の兵士たちが船の体勢を立て直している間に、グルルと兄弟たちは船べりを乗り越え、激戦の渦中へと飛び込んでいった。


人間にとってはクラーケンが暴れる海面は死地でしかないが、半魚人にとってはこここそが自分たちの戦場なのだ。


集団狩猟の開始だ!


「帆を上げろ!」艦長が大声で叫ぶ。


陸地へと吹く日中の海風を利用し、彼らは自然の力をこの怪物を引きずるための蛮力へと変えた。


クラーケンの力は強大だが、十五隻の戦艦が同時に逆方向へ向かう牽引力には抗えない。


俺たちは強引にその巨大な軟体を深海から引き剥がし、近くの浅瀬の砂洲さすへと引きずり込んだ。


海兵たちが岸に飛び降り、縄を引き続ける。

山のようなクラーケンの巨体が砂浜に乗り上げると、さらに多くの――千人を超える兵士と船員が小舟でなだれ込んだ。


彼らはヤリや特製の大曲刀を手に、ときの声を上げながら巨獣に襲いかかる。

戦いは苛烈を極めた。


死に物狂いで暴れるクラーケンの触手が振り回されるたびに、数人の兵士が弾き飛ばされる。

触手の環歯わしが兵士の革鎧を食い破り、噴き出した墨によって視力を奪われかける者もいた。


グルルたちはその怪力を発揮した。


巨大な触手がバリスタ隊をなぎ払おうとした瞬間、グルルがクラーケンの胴体に飛び乗り、身の丈ほどもある戦鎚を振りかぶって全力で叩きつけた!


「ドォォォン!」という鈍い音が響き、触手内部の神経束が粉砕された。触手は感電したかのように激しく痙攣し、そのまま地面に力なく伏した。


「ガルラ、チュパカ、浅瀬の方は二人で仕切れ!」

グルルが部下たちに命じる。


二人の半魚人が即座に浅瀬へと走り出した。ガルラは大剣を、チュパカは巨大な斧を手に、浅い水の中を滑るように素早く動き回る。

彼らはクラーケンの触手同士を繋ぐ皮膜を的確に切り裂き、怪物の自由を奪っていった。


「退くな! 負傷者はこっちへ運べ!」

ハスタナイが叫ぶ。


彼は砂浜に臨時の治療陣を展開した。

その光景は、まるで神が降臨したかのようだった。


ハスタナイの杖から柔らかな緑の光が放たれ、運び込まれた負傷者たちの傷――砕かれた肋骨や、触手に引き裂かれた太腿――が、目に見える速さで塞がっていく。

墨で目を焼かれた兵士たちも、彼の浄化魔法によって数分後には再び武器を手に戦場へと戻っていった。


結局、一人の戦死者も出すことなく、クラーケンは息絶えた。


この海の男たちは、強かな生存能力を見せつけた。


彼らにとってクラーケンはただの怪物ではない。全身が宝の山であるモバイルリソースなのだ。


巨大なイカのような胴体を切り開き、中から五メートル近い、透き通った角質骨を取り出す。


さらに、オウムのくちばしのように硬いくちばしや、触手の鋭い環歯もすべて回収された。これらは武器や高級な防具を作るための第一級の素材となる。


彼らはさらに、粘り気の強い粘液や墨を何樽分も詰め込んだ。それは防水塗料や高級染料の原料になるという。


「今夜は宴だぞ!」

兵士たちが歓喜の声を上げる。


クラーケンの巨体は無数の塊に解体された。船の料理人たちがその腕を振るう。


弾力のある外套膜は細切りにされ、酢と香辛料で和えられた。食感はコリコリとしたクラゲの刺身のようだ。


太く白い触手は薄切りにされ、刺身となった。イカとタコの中間のような食感だが、深海特有の甘みが強く感じられた。


俺はシーリンと焚き火を囲み、焼きたての触手を頬張りながら、歓喜の中で刃を研ぐ海の戦士たちを眺めていた。


三日目、俺たちはシーサーペントに遭遇した。


体長三十メートルを超えるそのサーペントは、深い緑色の鱗に覆われ、水面下を雷光のように駆け抜ける。


かなり知能が高いらしく、水底から旗艦の船底を突き上げようとしていた。


「そこか!」

俺は水面下の黒い影を捉えた。

右手を掲げ、周囲の水を指先に凝縮させる。


「水弾!」

極限まで圧縮された高圧の水球が、弾丸のごとき速度でサーペントの左目を正確に撃ち抜いた。


凄まじい絶叫と共にサーペントの眼球が弾け飛び、痛みでのたうち回る。


サーペントが負痛に耐えかね、再び深海へ逃げようとしたその時、グルルたちが水中で待ち構えていた。


三人は無数の鋼のかぎがついた特製の防御網を広げ、下から強引にサーペントの頭部を絡めとったのだ。


「大戦士グルルが、これほどの獲物を逃がすわけなかろう!」

水中で放たれた低い咆哮が、水圧となって伝わってくる。


彼はサーペントの鱗の隙間に両手を突き立て、太い脚で水を蹴り上げながら、その怪力で無理やり蛇の頭を水面へと引きずり出した。


その貴重な数秒が、艦隊に完璧な攻撃路を与えた。


「全速前進! 衝角用意!」

艦長が剣を振るい、方向を指示する。


十五隻の戦艦が回頭し、船首の青銅で覆われた鋭い衝角で、すれ違いざまにサーペントの脇腹を正確に切り裂いていく。


戦艦群の波状攻撃とバリスタの制圧を受け、かつては商船を飲み込んでいた海域の悪夢は、瞬く間に戦利品へと成り果てた。


貨室はすぐに一杯になった。


鉄のように硬い鱗、美しい紋様の入った強靭な皮、鋭い毒牙に肋骨。それらが十五隻の戦艦すべてに積み上げられた。


その晩の主役はシーサーペント特製料理だった。

蛇肉の鍋に、燻製肉。

それが俺たちの二度目の饗宴となった。


余った肉は厚い塩で漬け込まれた。


「こいつはいい金になるぜ」

老水手が俺にニヤリと笑いかけてくる。

「 上陸した後に分配される手当で、街の酒場で半月は豪遊できるからな」


肉を食らい、故郷の家族の話を大声で笑い合う男たち。

彼らこそが、バチェラシュの最も重要な資産なのだ。


魔物がはびこるするこの世界で、この訓練され、連携の取れた重武装艦隊がいなければ、単独で航行する小商船に生き残る術はない。


この艦隊こそが、バチェラシュという街を繁栄させている最大の理由なのだ。


しかし、すべての歓喜と喧騒は、航海四日目の朝に唐突に終わりを告げた。


その日の海面は、恐怖を感じるほどに静まり返っていた。


空を舞う海鳥もおらず、水面を跳ねるトビウオもいない。波が船体を叩く音すら、異様に重苦しく響く。


太陽は燦々と輝いているというのに、この海域に落ちる光は、まるで深い闇に吸い込まれているかのようだった。


そこにあるのは、死に絶えたような紺黒こんごくの海だ。


「風が……止まったわ」

シーリンが腰の曲刀を握りしめ、低く呟いた。


先ほどまで膨らんでいた白い帆は、力なく垂れ下がっている。

艦隊は動力を失い、ただ微かな潮流に乗って、海面を緩やかに漂うばかりだ。


普段は海で騒いでいるグルルたちまでもが、今は険しい表情で甲板に這い上がってきている。

彼らの鱗は僅かに逆立ち、まるで巨大な脅威を察知して毛を逆立てる猫や鳥のようだった。


俺は船首に向かった。そこには、普段は冗談を絶やさない老練な操舵手が、指関節が白くなるほど強く舵輪を握りしめていた。


その体は僅かに震えていたが、両目はまっすぐに遠くの水平線を見据えている。


「大丈夫か?」

俺が声をかけると、彼は俺を振り返った。


その瞳には、恐怖、敬畏、そして死を受け入れる覚悟を決めた烈士のような熱情――そんな極めて複雑な感情が入り混じっていた。


「バハムートが……そこにいます」

震える声だったが、それは甲板にいる全員に届くほどはっきりと響いた。


彼は深く息を吸い、光すら飲み込まんとする海域を見つめた。


「あのお方は、我らを待っておられる……ガーディアン様。あの水面の下で」

俺は彼の視線を追った。


底知れぬ海水の奥深く。

表現しがたいほど巨大な影が、音もなく、緩やかに、俺たちの艦隊の下を通り過ぎていった。


その瞬間、俺はついに理解した。なぜ衛兵隊長が「十五隻でも足りないかもしれない」と言ったのか。


先ほど俺たちが狩ったクラーケンやシーサーペントなど、この影の前では、まるで小魚の干物のように取るに足らない存在に過ぎないのだ。


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