第22話 出港
会食が終わった後、ラハトラマはすぐに戦術の話を切り出すことはしなかった。
彼は領主としての配慮を見せ、俺たちを城内で最も静かで清潔な客室へと案内させた。
その夜、俺とシーリンは一つのベッドで眠ることになった。
異国情緒あふれる石造りの部屋。
細長いアーチ窓からは月光が差し込み、ベルベットの寝具を照らしている。
ベッドに横たわり、柔らかな敷布の感触を背中に感じながら、俺の頭は少し混乱していた。
俺たちは夫婦だ。――この世界の律法と儀式の下で、俺たちはすでに婚姻の契りを交わしている。
同じベッドで眠る。それは、この上なく当たり前のことであるはずだった。
しかし、俺は「夫」としてどう振る舞えばいいのか全く分からず、荒野で育ったシーリンもまた、同じように恥じらっているようだった。
実のところ、これまでの過酷な旅路の中で、暖を取るためや防備のために焚き火の傍らで幾夜も共に過ごしてきた。
だが、今回は違う。
砂埃も、ゾンビの唸り声もない。あるのは優雅で柔らかな毛布と、身体を洗い清めた後の、互いから漂う微かな香りのみ。
部屋の空気には、息が詰まるような初々しさと、どこか可愛らしい気まずさが満ちていた。
シーリンが寝返りを打ち、月明かりの中で俺を見つめると、そっと俺を抱きしめた。
彼女の細く、それでいて力強い腕が俺の首に回り、唇に羽のように軽いキスが落とされる。
「こうして貴方を抱きしめて眠れたら、毎晩、とても安心できるわ」
彼女は俺の胸に顔を埋め、こもった声で言った。そこには、かつてないほどの依存心が込められていた。
俺は鼓動が早まるのを感じ、すぐさま彼女を強く抱き返した。
彼女は俺の妻であり、俺がこの狂った世界に留まる最も重要な理由だ。
ふるさとである地球へは、もう帰る必要なんてない。
アニメ、スマホゲーム、バスケの試合、現代のグルメ。
ふと、それらすべてがどうでもいいことに思えた。
俺は彼女の額にキスを返し、静かに語りかけた。
「明日、俺たちはベイが用意してくれた船に乗る。航路を塞いでいるあの大魚を追い払って、最高の治療術師と精鋭部隊を連れてワハへ帰ろう。
君のお父さんも、村のみんなも治してもらうんだ。
ベイの兵士たちが、あの忌々しい盗賊どもを掃き掃除みたいに片付けてくれる。
……そしたら、ワハで暮らそう。大きくて温かい家を建てて、毎晩こうして君を抱きしめて眠るよ。もう二度と、離れない」
シーリンは俺の約束を聞き、満足げな溜息を漏らすと、やがて俺の腕の中で深い眠りに落ちた。
俺は彼女の髪に鼻を寄せ、シダーウッドと彼女の体温が混ざり合った香りを吸い込んだ。それは俺の居場所」という名の匂いだった。
間もなく、連日の疲れが潮のように押し寄せ、俺もまた眠りに落ちた。
翌朝、バチェラシュの陽光はまどろみではなく、戦争の号砲を告げた。
ラハトラマ様はその誠意と財力を惜しみなく発揮し、俺たちに一式揃いの精鋭装備を貸し与えてくれた。
巨大な軍械庫では、職人たちが俺たちの体格に合わせて防具を調整しようと忙しく立ち働いている。
俺は軽量のチェインメイルを纏い、その上から水門の紋章が刺繍された青白のタバードを羽織った。脛当て、肘当て、フルフェイスの兜まで完璧に揃っている。
ただ一つ、俺の足元にある、世界を越えてきたスニーカーを除いて。
職人たちは俺のスニーカーを囲んで半日ほど研究し、驚嘆の声を上げていた。
「この材質……この弾力、まさに神の造物ですな!」
一人の老職人はエアクッションを触りながら、信じられないといった様子で言った。
「ガーディアン様、我々にはこれ以上の足装備を作る自信はございませぬ。この柔軟性と支持力があれば、戦士はあらゆる戦場を平地のように駆け抜けられるでしょう」
結局、彼らは薄く頑丈な金属プレートをいくつか作り、スニーカーの表面に丁寧に縫い付けることで、履き心地を損なわない程度に防御力を強化してくれた。
シーリンもまた、より専門的なレザーアーマーに着替え、武器棚から三振りの鋭いシャムシールと一振りの長槍を選んだ。
今の彼女は、まさに戦場の女神のようだ。
そして、最も変化したのはボールだった。
それは今や、歩く小型重戦車そのものだ。
武器庫の中で、ボールは驚くべき吸収能力を見せた。
棚からヘビークロスボウを手に取ると、それを左腕の一部へと変え、安定した遠距離火力を手に入れた。
さらに、巨漢の戦士用に用意されていた厚手のプレートアーマーを丸ごと「着用」したのだ。
現在、ボールの装備スロットは一つが重型弩機、もう一つが強化アイアンプレートアーマー。
もともとの土色の身体は輝く鋼鉄に覆われ、一歩踏み出すごとに地面が微かに震える。
三人のサハギンたちも黙ってはいなかった。
グルルは伝説の神魚バハムートと戦いに行くと聞き、屋根を吹き飛ばさんばかりに興奮していた。
「強き勇者グルル様が、これほど偉大ないくさを逃すわけにゃあいかねえ! おいらたちも一緒に船に乗るぜ。あの魚に、誰が海の覇者か教えてやるんだ!」
筋骨隆々の三人のサハギンにとって、武器庫の重い得物は玩具も同然だった。
グルルは自分の背丈ほどもある岩砕きの戦鎚を手にし、他の二人はグレートソードとヘビーアックスを担いでいる。
彼らは特製の フルメイルを纏った。
その奇妙な魚の頭の形のせいで合う兜は見つからなかったが、フル装備の彼らは野蛮な威圧感に満ち溢れていた。
チャクルでさえも、王家の厚遇を受けていた。
その優雅な豹の首には刺付きのスパイクカラーが装着され、胸、背、腹部には特製のレザーアーマーが着せられ、より危険な戦争獣としての風格を漂わせていた。
正午時分、餞別の午餐会がベイの屋敷のテラスで開かれた。
「この街で最高の治療術師の準備が整った。彼には今日の昼、貴殿らと共に船に乗ってもらう」
ラハトラマ様が紹介してくれたのは、これから行動を共にする新たな仲間――ハスタナイと、その妹のイギランだった。
この兄妹の容姿は極めて端正で、高貴な気品を纏っている。
妹のイギランはラハトラマの将来の妻であり、幼いながらもその立ち居振る舞いにはすでに女主人としての風格があった。
そして、共に乗船する兄のハスタナイは、十六歳前後。肌は白く、瞳は澄んでおり、薬瓶や杖が詰まったぶくろを背負って、今すぐにでも冒険に飛び出したいという様子で目を輝かせていた。
「兄は少し猛進なところがありますが、接近戦はあまり得意ではありません」
イギランはシーリンの手を強く握り、厳かに頼み込んだ。
「海の上では、どうか兄をよろしくお願いいたします。彼はバチェラシュ最高の手を持つ天才ヒーラーですが、危険を忘れてしまうのです」
ハスタナイは、水門のガーディアンである俺に深い興味を示し、地下水路での戦いの詳細をしつこいほど尋ねてきた。
「ヤスト様、昨日現場にいたんですよ!
あの血肉の塊を海辺で浄化したところ、見ていました。素晴らしかった!」
彼は親しげに俺と握手を交わした。
俺の手が彼と重なった瞬間、太陽の光のような温かなエネルギーが全身を一気に駆け抜けた。驚いたことに、ここ数日で磨り減っていた手のひらのタコや、腰や背中の痛み、さらには服の下にあった細かい擦り傷までもが、一秒足らずですべて消え去っていた。
「ほんの挨拶代わりのプレゼントです」
ハスタナイは爽やかな笑顔を浮かべた。
「船の上での共闘、楽しみにしていますよ」
昼食の後、港の空気は一変して重々しくなった。
ラハトラマによる盛大な見送りの中、俺たちは埠頭へと足を進めた。
しかし、目の前に広がる光景に、俺は言葉を失った。
船は、一隻だけではなかったのだ。
十五隻もの巨大な二本マストの戦艦が、湾内に整然と並んでいた。
船首には猛々しい海獣の像が飾られ、舷側には大型の投石機や弩砲が隙間なく並んでいる。
それは機能的に完成された、あらゆる兵装を積み込んだ、まさに戦うための艦隊だった。
圧倒的なスケールを前に、俺は思わず呟いた。
「これだけの規模……他の国を攻め落とせるんじゃないか?」
「いいえ……」背後に立っていた衛兵隊長が重苦しく答えた。
「バハムートを相手にするには、これでも足りないかもしれませぬ」
俺は先導する旗艦へと乗り込んだ。
船長、船員、そしてすべての精銳兵たちがすでに持ち場についている。
彼らの士気は高く、盾を打ち鳴らして俺に敬意を表していたが、その瞳の奥には死を厭わぬ決死の覚悟が宿っているのが見て取れた。
あの神魚バハムートは、この数ヶ月の間に各国の一百隻を超える船を沈めてきたという。
俺は一体何を根拠に、自分の「水カッター」と弩を装備したクレイ・ゴーレムだけで、あんな伝説級の存在をどうにかできるなんて思ってしまったんだろうか。
旗艦がゆっくりと港を離れ、穏やかな水面を切り裂いて進み始める。
俺は船首に立ち、海風に髪をなびかせながら、どこまでも深い藍色の水平線を見つめていた。
あそこが、俺が神話そのものと対峙する場所だ。




