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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第16話 まさかの猫好き!?


薄暗い水路の中、空気は凍りつく寸前のような緊張感に包まれていた。

ボールの放つ微かな光に照らされた骨の槍の列は、見る者を震え上がらせるほどに白く、無機質に輝いている。


俺はすでにシャムシールの柄に手をかけ、掌にじっとりと滲んだ汗を拭いながら、これからはじまるであろう「水路での乱闘」に備えていた。


しかしその時、ボールがまったく予想外の行動に出た。


あいつはまるで地雷の存在を知らないゴムボールのように、微かな白い光を放ちながら、武装したサハギンたちの群れへと、のろのろと転がっていったのだ。


「おい、ボール! 戻ってこい!」

俺は心臓が飛び出しそうになり、声を押し殺して焦燥をぶつけた。

「近づきすぎるな! 奴らの面構えを見たか? 全然友好的じゃないぞ!」


サハギンのリーダーは、転がってくる発光体を見て、それまで緊張で固まっていたえらを激しく上下させた。

その手に握られた骨の槍が、今にもボールを風穴の開いた風船に変えてしまいそうなほどに震える。


双方の距離が二メートルを切ったところで、ボールが止まった。


その核が突如として奇妙な頻度で点滅し始め、直後、頭を水に突っ込んで喋っているような「グルグル、ゴボゴボ」という連続音が内部から漏れ出した。


それは粘り気のある湿った響きで、うがいの音のようでもあり、深海の音節を模しているようでもあった。


先頭に立つリーダーが呆然と立ち尽くした。

濁った黄色い死魚のような目を大きく見開き、聞き間違いではないかと確認するように首を傾げる。


やがて、彼はゆっくりと顔を上げると、細かな鋭い歯が並ぶ口を大きく開き、俺を指さして怒りに満ちた咆哮を上げた。


「$&*#……この無知な地上の乾燥生物め! よくも高貴なる水源の守護者を汚してくれたな!」

俺はその場に硬直した。


いや、奴がどれほど大声で叫んだかが重要なのではない。重要なのは――俺が、その言葉を理解できてしまったということだ。


奴の語気にはまだ「湿り気」のある訛りが混じっていたが、俺の脳内ではその音節が理解可能な言葉へと自動的に変換されていた。


『地面の上を歩くこともできず、涎を垂らすだけの原始的な魚人どもと、我らを一緒にするな!』


サハギンのリーダーは手に持った槍を振り回し、石板の床を耳障りな音を立てて叩いた。


『我らには氏族があり、狩りの掟があり、さらには古の伝承を受け継ぐ勇士がいるのだ! 知能のない退化種と我らを同列に扱うとは、イキネ川の水霊に対する冒涜! そして、地下水路第一の戦士グルルに対する最大の侮辱だ!』


俺は口をあんぐりと開けたまま、しばらく塞ぐことができなかった。

まるで野良犬の群れに遭遇したと思ったら、リーダーが突然家系図を取り出して血統について議論を吹っかけてきたような気分だ。


「ええっと……」

俺は助けを求めるように隣のシーリンを見た。


シーリンは極めて奇妙な表情を浮かべていた。彼女の視点では、先ほどまで「ボールが魚人に向かって数回グルグル言った後、魚人のリーダーが俺に向かって猛烈に怒鳴り始めた」という光景しか映っていないのだから。


「ヤスト……」

彼女は畏敬と困惑の混じった声で囁いた。

「あなた……サハギンの言葉が話せるの? どうして今の咆哮の内容を理解しているように見えるのかしら?」


「誓って言うけど、話せないよ」

俺は地面で白光を放ちながら知らん顔をしているボールを指さし、苦笑いしながら説明した。

「こいつだよ。翻訳機能があるのをすっかり忘れてた。こいつが俺の言葉を魚人に伝え、あっちの怒鳴り声を俺に翻訳してくれてるんだ。ただ、この周波数は俺にしか受信できないみたいだけど」


グルルは俺の「偏見」に対してさらなる長演説をぶとうとしていたが、その視線が突如として俺を通り越し、足元へと注がれた。


そこには、不安げに低く唸り、体を低く沈めたチャクルがいた。その銀灰色の毛並みが、ボールの微光を受けて絹のような光沢を放っている。


グルルの死魚のような目がカッと見開かれ、あれほど激しく動いていた鰓が奇跡のように平服した。


彼は手に持った槍を下げ、さらには一歩前へと踏み出した。その動作には、どこか……慎重な敬意のようなものが混じっている。


『おお……砂漠の狩猟豹、決して獲物を逃さぬ「狩猟の風」よ!』


グルルの発する「グルグル」という音が、一気に柔らかな響きへと変わった。


脳内の翻訳によれば、こいつの口調は一瞬にして「激昂した成金」から「高級車を目にしたマニア」へと変貌していた。


『なんと完璧なライン、なんと湿り気を帯びた鼻先、なんと深淵なる眼差し。これこそが真の狩手だ』

グルルはこちらに向き直ると、驚くほど丁寧な口調で問いかけてきた。


『おい、陸地人。この気高き小豹は、貴殿の同伴者か?』


俺は二秒ほど呆気に取られた後、慌てて頷いた。


「ああ、そうだ。こいつの名前はチャクル。俺たちの最も大切な相棒だ」


ボールが忠実にその言葉を翻訳して伝える。


『チャクル……良い名だ』

グルルは水かきのある手を伸ばし、空中でなでるような仕草をしたが、チャクルが牙を剥き出しにするのを見て、賢明にも手を引っ込めた。


『気高き「風の狩手」が付き従う者ならば、貴殿らはあの臭い骨の塊の差し金ではあるまい』

チャクルに対して「粛然しゅくぜんと敬意」を表すグルルの姿を見て、俺は思わず心の中で突っ込んだ。

なるほど、サハギンの美意識も人間と同じか。ネコ科動物はどこへ行っても最強のパスポートだな。


「シーリン、状況が変わったよ」俺はシーリンに小声で伝えた。


「こいつ、どうやらチャクルをすごく気に入ったみたいだ。チャクルの面に免じて、とりあえず俺たちを祭壇の供物にするのはやめるってさ」

シーリンは呆気にとられ、足元で牙を剥いているチャクルをまじまじと見つめた後、複雑な表情で呟いた。


「……チャクルの魅力が、サハギンにまで通用するなんて思わなかったわ」


一時的な友情あくまでチャクルのおかげだがが成立したことを確認すると、グルルは手を振り、周囲の戦士たちに槍を収めさせた。だが、彼らは依然として水路の出口を警戒するように固めている。


「とりあえず……友人ということでいいのか?」俺は一歩前へ踏み出した。

「グルル殿、地下水路を通してもらえないだろうか? 俺たちはバチェラッシュにいる治療師のところへ行かなければならないんだ。本当に急いでいるんだ」


グルルはボールの翻訳を聞き終えると、鱗に覆われた腹を困ったように叩いた。


『掟は掟だ。「風の狩手」が一行にいるとはいえ、乾燥した生き物である貴殿らがそのまま奥へ進めば、寝ている同胞たちが侵入者と見なして引き裂いてしまうだろう。ただし……』


「ただし、何だ?」


嫌な予感がした。クエストの発生だ。


『貴殿らが「水霊の友」と呼ばれる資格があることを証明できれば、話は別だ』


グルルは水路の奥にある分岐点を指差した。そこの壁面からは、おぞましい黒い粘液が染み出している。


『最近、上の「死人骨」どものせいで水が臭くなって困っているのだ。

下流にある沈降式濾過ポンプが、黒くて蠢き、人を泥沼に引きずり込む「黒い水垢ヘドロ」どもに占拠されてしまった。

あの臭いといったら、胃袋を吐き出したくなるほどだ』


「黒い水垢?」俺は片眉を上げた。

「それって、人を食う触手怪物とかの類じゃないのか?」


『我らの目から見れば、あんなものはただの水垢だ』

グルルは至極もっともらしく答えた。


『貴殿らがその汚れを掃除してくれたなら、我らは貴殿らの価値を認め、この水路を最後まで私が直々に護衛して通してやろう』


俺はボールを振り返った。あいつの核は興奮したような緑色の光を放っており、どうやら「水垢掃除」に並々ならぬ興味を示しているようだ。


「はぁ、どうやら清掃員にならないと通してくれないみたいだ」

俺はため息をつき、シーリンを見た。


「準備はいいかい? この猫好きのサハギンたちのために、ドブ掃除に行くことになった。グルルの話じゃ、下流の黒い怪物を退治すれば目的地まで連れて行ってくれるそうだ」


シーリンは小さく微笑み、シャムシールを握り直した。その瞳には再び鋭い光が宿る。


「治療師のため、そしてチャクルのメンツのためにも、地底の『汚れ』を掃除しに行きましょうか」


チャクルは「メンツ」という言葉を理解したのか、誇らしげに尻尾を振り、グルルが指差した方向へ先頭を切って歩き出した。


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