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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第15話 地下水路のサハギン


火事場の馬鹿力を振り絞って水門の重い石の環を引き上げると、湿り気と腐葉土の混じった涼風が吹き抜けてきた。

灼熱の砂漠において、それは最高級の香水よりも贅沢な芳香だった。


「おー、ここは冷房がガンガンに効いてるな!」

俺は大げさに感嘆の声を上げ、背後の村へと振り返った。


昨日まで俺たちを死ぬほどこき使ってくれた「パーツ化」された村人たちは、今は午後の陽光を浴びて、無造作に捨てられた薪の山のように静まり返っている。


「あばよ、皆。いい夢を見ろよ。できれば、ちゃんと組み立て直される夢をな」

俺はいつもの憎まれ口を叩いた。


シーリンはくすりと小さく笑ったが、

その瞳には依然として死者への憐れみが宿っていた。


彼女はチャクルの頭を撫でる。

相棒の小豹はだいぶ落ち着いたようで、

少なくとも地面を神経質に引っ掻くような真似はやめていた。


「行きましょう、ヤスト。地下水路は涼しいけれど、いつまでもここに留まるわけにはいかないわ」


シーリンがそう言うと、先んじて地下へと続く暗い階段へ足を踏み入れた。


イキネ川流域の地下水路。

ここはまさに建築史上の奇跡だった。


地下十メートルほどまで降りると、

それまでの狭い階段が嘘のように視界が開け、広大な半円形の水路が姿を現した。


壁面は巨大な青石の煉瓦で組み上げられ、

その継ぎ目はカミソリの刃一枚通さないほど精密だ。ところどころに古代の職人が刻んだ幾何学模様の印が見て取れる。


「これ、全部先民が造ったのか?」

俺は冷たい壁に触れ、

好奇心に任せて尋ねた。

五つ星ホテルの冷房室よりよっぽど快適だ。


「息をするだけで喉が乾くような場所で、

どうやってこんな壮大なトンネルを造り上げたんだ?」


「生き延びるためよ」

シーリンが俺の隣に並んだ。


「イキネ川は地上の河道を流れるだけだと、蒸発するのが早すぎるわ。

地下水路を築かなければ、砂漠にあるオアシスの半分は枯れ果てていたでしょうね」


彼女の歩みが、空洞のトンネル内に軽やかな残響を響かせる。


「初めは各村が独自に造った小さな水路だったけれど、数百年前、ある偉大な古の王がこの地を統合し、点在していた水路を繋ぎ合わせて数百キロに及ぶ生命線を完成させたの」

ここの気温は驚くほど安定していた。


砂漠特有の日中の酷熱もなければ、

深夜の急激な冷え込みもない。


湿り気を帯びた涼しさは、

決して肌を刺すような冷たさではなく、

むしろ大地の母に抱かれているような安らぎすら感じさせた。


ボールは上機嫌だった。

風砂に削られることのない滑らかな壁が気に入ったのか、いつもより速いスピードで転がっている。


俺たちは地下水路を平穏に丸一日歩き続けた。

単調ではあったが、

この冒険の中で最も安らげる時間だった。


水辺で野営をし、濾過した水で贅沢に体を拭くと、ようやく人心地がついた。


しかし二日目、

その平穏な空気は唐突に破られた。


「ヤスト、待って」

シーリンが足を止め、

厳しい表情で壁を見つめた。


俺が近づいて見ると、平坦だった青石の壁に数本の深い凹みが刻まれていた。


自然の風化や水の浸食によるものではない。重い武器が叩きつけられたことによってできた「抉れ」だ。


「こんな場所で戦闘の跡か?」

俺は腰を落とし、隅の方で砕け散った甲殻の破片と、干からびた黒い粘液を見つけた。


「……砂賊か?」

「どうかしら。

普通の砂賊はここへ入る勇気なんてないわ。

ここは各村が数百年にわたって守ってきた伝統の地。誰も安易に水門へは入らない」


シーリンは首を振った。

「けれど、フェナリの狂信者たちならその伝統を壊すかもしれない。

彼らにとって、

ここは単なる進軍ルートに過ぎないから」


「それに、この砂漠には先住民以外にも住人がいるみたいだぞ」


俺は壁に突き刺さったままの、まるで巨龍の牙のような骨の槍を指差した。

「ここ、砂漠魚人が出るのか?」


俺は以前遭遇したあの忌まわしい化け物どもを直感的に連想した。


「いいえ、あれは『サハギン』だわ」

シーリンの表情が、

かつてないほど強張った。


彼女は泥の付いた地面の一点を指し示した。

それは巨大で、鱗の跡があり、

指の間に水かきを持つ足跡だった。


何より重要なのは、その足跡がはっきりと二足歩行の形跡を残していることだ。


「ヤスト、あなたがワハで見たのは『砂漠魚人』。あれはただの野獣よ。

芋虫のように砂を這い回り、理性もなく本能だけで動く怪物。

でも、ここにある痕跡を残したのは、文明を持つサハギンよ」


「文明を持つ魚、か?」

俺の脳内に、魚がスーツを着ているというシュールな光景が浮かんだ。


「彼らは自分たちを砂漠魚人より高位の存在だと自負しているわ。もし彼らを砂漠魚人と混同したりすれば、それだけで侮辱と受け取られるでしょうね」


シーリンは説明を続けた。


「サハギンにとって、ここは自分たちが守るべき水源であり、彼らこそがここの領主。彼らは武器を使い、陣を組み、独自の信仰を持っているわ……砂漠魚人との違いは、人間と猿ほどの隔たりがあると思えばいいわ」


「なるほどな」俺は口角を上げた。


「つまり俺たちは今、その『高級な魚』どもの家の中に不法侵入してて、おまけに奴らは誰かと喧嘩した直後ってわけか」


俺たちは危険そうな痕跡をできるだけ避けながら進んだ。


チャクルももはや走り回ることはなく、

尻尾を巻いて俺の足元にぴたりと張り付いている。


さらに水路を二日間歩き続け、長時間の行軍による疲労が足の裏から這い上がってきた。


「くそ……足がパンパンだ」

俺は立ち止まり、自分のふくらはぎを揉み解した。


砂羯サプリコンがいればもっと楽だったのにな。二日も歩き通しだと、俺の脚はもう鉄塊みたいだ。ハンマーで叩いたら、きっと『キーン』って澄んだ音が鳴るぞ」


「仕方ないわ。風礫の道であの子たちとはお別れするしかなかったもの」

シーリンが申し訳なさそうに言った。

彼女も疲労の色は見せているが、

その瞳には常に強い意志が宿っている。


「巨祖鳥に食われてなきゃいいんだが。見た目は怖かったけど、あれでも一緒に死線を越えた相棒だからな」


「あの子たちが生き延びる可能性は高いわよ」シーリンは微笑んで俺を元気づけた。


「あの二匹はワハでも有名な『逃げ足の王様』だったもの。きっと大丈夫よ。村の誰かに見つけられて、今頃は村で美味しいものでも食べてるわ」


「なら安心だ。俺が帰ったら、今度は俺がご馳走してやるよ」

俺は立ち上がり、関節を鳴らした。


疲れたのは確かだが、地下水路は最高だ。


この数日間、俺たちは安全かつ平穏に広大な砂漠を横断することができた。地上の熱波や恐ろしい怪物たちをすべて回避してな。


三日目の午後、

狭い急流エリアを通り抜けたところで、

旅の平穏はついに終わりを告げた。


前方は広い合流地点になっており、水路がちょっとした広場のように開けている。


ボールの光が前方へ及ぶと、そこには金属の冷たい光を放つ槍の列が路を塞いでいた。


闇の中に、鈍く黄色く光るいくつもの眼が浮かび上がる。


それは屈強な体躯を持つ生物の群れだった。


魚類特有の湿った皮膚を持ちながら、

その身体構造はより人間に近い。


強靭な両足で、湿り気を帯びた石段をしっかりと踏みしめている。


彼らは粗末な皮の鎧を纏い、手には鋭く研ぎ澄まされた骨製のシャムシールや槍を握っていた。


「本当に出やがった……サハギンだ」

俺は低く呟き、手はすでに腰のシャムシールへと伸びていた。


こいつらは以前遭遇した、

涎を垂らしながら突っ込んでくるだけの野獣とは根本的に違う。


表情は厳格で、

傲慢さと怒りすら湛えている。


彼らは瞬く間に俺たちを包囲した。

その動きは、

鍛え上げられた軍隊そのものだった。


「#@*&!%$#!」


リーダーらしきサハギンが一歩前に出ると、俺たちに向かって鋭い叫び声を浴びせた。


それは気管の中に水が詰まっているような、グツグツとした不気味な響きだったが、

その口調に含まれる詰問と敵意は、

言語を超えて伝わってきた。


「シーリン、

あいつは通行料を払えって言ってるのか?」


俺は小声で尋ね、

冗談で硬直した空気を和らげようとした。


「……言葉はわからないけれど。

でも、私たちが禁足地に踏み込んだと言っているように感じるわ」


シーリンはシャムシールを引き抜き、鋭い視線を向けた。

「ヤスト、気をつけて! 

彼らは組織された戦士よ。

ただ暴れるだけの野獣とは別次元だわ!」


俺たちが無反応なのを察したのか、

リーダーのサハギンはえらを怒りで震わせ、槍を猛然と俺たちに突きつけた。

耳を震わせる咆哮が響き渡る。


「どうやら、

外交交渉は決裂したみたいだな」


俺は苦笑しながら刀を抜き放った。

アドレナリンが駆け巡り、

ふくらはぎの痛みは瞬時に消失した。


「ボール、戦闘準備だ。

道理が通じない相手には、

物理ぶつりで語ってやるしかないからな!」


ボールのコアが強く光った。


だが――。

ボールは全く戦闘態勢に入ろうとしなかった。


……こいつ、何を考えてやがる?


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