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水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


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第14話 クレントラシュの死者

テッテレー!


『「ジャイアント・バード・エアレイド」イベント終了。

ゴーレムコアが昇級。

熱砂ゴーレム Lv4

全能力 +2

装備スロット +2 解放』


「ボール、……俺たち、

航空業界には手を出さない方がいいな。

お前の着地安定性は、ハイジャック犯でももうちょっとマシな仕事をするレベルだぞ!」


俺はクレントラシュの村外れにある小さな空き地で這いつくばりながら、

口に入った砂を必死に吐き出した。


さっき、ボールは空中で突然滑空モジュールを解除しやがった。


まるで飛び込み選手が手足を広げるのを忘れたみたいに、俺とシーリン、それにチャクルを鉄球さながらに地面へ叩きつけたのだ。


ボールのコアが二回点滅した。


扁平な粘液状から一瞬で丸い形へと戻り、心なしか不満そうに体を震わせている。


その様子はまるで、

『ここまで飛んでこれただけでも奇跡なんだから、これ以上注文をつけないでくれ』

とでも言っているようだった。


「ヤスト、大丈夫?」

シーリンは軽やかにマントの埃を払った。


その仕草は墜落寸前の滑空を終えた直後とは思えないほど優雅で、まるで晩餐会にでも参加し終えたかのようだ。


彼女はしゃがみ込み、

チャクルの頭を優しく撫でた。


可愛い相棒のチャクルは今、目を回して四肢の爪を必死に地面に立て、情けない声で唸っている。


……どうやらこの砂漠の豹は、これから一生治らないレベルの重度の高所恐怖症を患ってしまったらしい。


「ああ、大丈夫だ。五臓六腑の位置が入れ替わった気がするだけさ」

俺は立ち上がり、鈍く痛む腰をさすりながら前方を見た。


俺の腰よりも、この村の方がよっぽど問題がありそうだ。


ちょうど今、夕陽が完全に地平線へと沈み、紫がかった残光が砂漠の縁に冷酷なシルエットを描き出していた。


クレントラシュ。かつては水門の宿場町として栄えたはずのこの場所は、今や真空のように静まり返っている。


「……誰もいないわ」

シーリンの口調が慎重なものに変わった。

彼女は無意識に俺の方へと寄り添い、その手はすでにシャムシールの柄にかかっている。


「みんな、何か面白いお祭りにでも出かけてるんじゃないか?」

俺は場を和ませようと、軽い冗談を言ってみた。

「例えば、部外者お断りの秘密の集会とかさ」


「ヤスト、ここはあまり気楽に考えるべき場所じゃないと思うわ」

シーリンは低い声で言い、その眉間には深い憂いが刻まれていた。


村へと足を踏み入れ、地下水路への入り口を探し始めたとき、俺のユーモアの回路はついにショートした。


ここは、屠場だ。

村の中央広場には、立ち枯れた数本の樹木に数十人もの人影が吊るされていた。


細く黒いロープで宙吊りにされ、つま先は地面からわずか三センチほど浮いている。


微風が吹くたび、その死体たちは風鈴のようにかすかに揺れた。


さらに不気味なのは、死体の足元の砂地に描かれた緻密な幾何学模様の溝だ。

ドス黒い液体がその溝をゆっくりと流れ、闇夜の中で不吉な紫色の光を微かに放っていた。


「ひどすぎる……」

シーリンが息を呑み、顔色を失った。


「あの砂賊たち……ここでやっていることは、死者に対する呪いそのものだ。彼らは村人をアンデッドに変えようとしている!」


「わかってたさ、この旅に五つ星ホテルのサービスなんて期待しちゃいけないってことは」俺は腰のシャムシールを握り締めた。


心臓はドラムのように早鐘を打っていたが、ボールに命令を下す。

「ボール、モード切替だ。ベタベタの白ボンドでいるのはおしまいだ、熱気が欲しい」


ボールが即座に反応し、高く澄んだ『チーン』という音を立てた。


身体が白い粘液状から黄色い砂礫のような質感へと変わり、体温が急上昇していく。


熱砂ホットサンドモード』への換装だ。


さらに、ボールはグローブをパージし、代わりにシャムシールを再装備した。


回転する砂の刃が、

熱せられた空気の中で低く唸る。


「ウゥ……ッ!」

チャクルも脅威を察知し、身を低くして背中の毛を逆立て、吊るされた死体たちに向かって唸り声を上げた。


その時だ。死体たちの目が、一つ、また一つと見開かれた。


その瞳には人間性のかけらもなく、ただ濁った灰色に染まっている。


「おっと、お祭りの本番が始まっちまったな」

俺は呟き、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


「シーリン、一人一人の魂を救ってやる時間はなさそうだ。水門の入り口はどこだ?」


「広場の中央にある、あの石造りの塔の下よ!」

シーリンが前方を指差した。


だが、そこはすでに壊れた家具や石礫、麻袋の山で厳重に塞がれていた。


どうやら砂賊たちは、この変成儀式に『新鮮な生贄』が必要な時のために、邪魔が入らないようにしていたらしい。


その時、吊るされていたゾンビたちが悶え始め、ロープが耳障りな摩擦音を立てて千切れた。


「先に入り口へ行くぞ! こいつらが全員自由になったら、俺たちがばんめしのおかずにされちまう!」

俺は叫び、円塔に向かって駆け出した。


「パッ!」

動きの速いゾンビが一体、飛びかかってきた。


チャクルが豹としての本能を見せ、黄金の影となってそのゾンビを押し倒し、喉元に食らいついた。


しかし、そのゾンビは痛みを感じていないようで、チャクルの脚を力任せに掴み取った。


「チャクル、下がれ!」

俺は飛び込み、ゾンビを蹴り飛ばした。


シャムシールを一閃させ、ゾンビの肩に深い傷を負わせる。

だが奴は瞬き一つせず、そのままこちらへ腕を伸ばしてきた。


「傷を負わせるだけじゃ無駄よ!」

シーリンが切羽詰まった声で忠告する。

「彼らはもう死人。その程度の傷、彼らには何の影響もないわ!」


「なら、歩けなくしてやるまでだ!」

俺がボールを見ると、ボールは即座に意図を汲み取った。


高速回転する草刈り機のごとく、黄色い回転砂刃が円を描き、最前列にいた二体のゾンビの膝を正確に断ち切った。


「殺せないなら、行動能力を封じる! 四肢を狙え、バラバラにするんだ!」

俺はさっそく、一番近くにいたゾンビの膝裏を目がけて、力任せにシャムシールを叩き込んだ。


ピン――!


『新称号を獲得:ディスメンバラー

敵の手足や肢体への攻撃時、防御力および硬度を無視する。また、骨を切断する際の武器の消耗を軽減する。』


……なんだよ、この称号。

これじゃ俺が、ただの殺人鬼みたいじゃないか。


それは、長く、そして馬鹿げた『解体戦』の始まりだった。


一晩中、クレントラシュの広場には刃が骨を断つ音と、ゾンビたちの低い咆哮が響き渡った。


主力はボールだ。

高温の回転刃は肢体を切断するだけでなく、同時に切り口を焼き焦がし、不死の肉塊が再生するのを防いでくれる。


俺とシーリンは、撃ち漏らした個体を片っ端から処理していった。


「おい! この手、俺の脚を触ろうとしてるぞ!」

俺は地面を這い回る手首を足で踏みつけた。その手は蜘蛛のように不気味に蠢いている。


「ヤスト、遊んでないで! 

 早くあの石をどけて!」


シーリンは汗を流しながらも、刃こぼれし始めたシャムシールで的確にゾンビの腕を叩き落としていく。


一番忙しかったのは、

意外にもチャクルだった。


本来なら誇り高き豹であるはずの奴が、

今は『大型ゴミ拾い猫』と化していた。


「チャクル、よし、それを持ってけ!」


俺が石をどかしながら指示を出すと、

チャクルはひどく嫌そうな顔をして、

まだぴくぴくと動いているゾンビの脚を咥え、遠くの廃墟へと走り去った。

断崖の陰に隠しては、また戻ってくる。


「いい子だ!」

俺は苦笑交じりにその頭を撫でた。

「これが終わったら、一番太った砂漠トビネズミを見つけてやるからな」


チャクルは俺を無視し、近づこうとする別の断手に威嚇のシャーッという声を浴びせた。


夜明けが近づく頃には、俺たちの周りはバラバラになった手足で埋め尽くされていた。


血なまぐさい光景のはずだが、この狂った反復作業のせいか、どこか滑稽ですらあった。


脚を失ったゾンビが手で地面を這って近づこうとし、腕を失った者が俺たちのズボンの裾に噛みつこうとしている。


「お前ら、本当にしつこいな……」

最後の重い土嚢を押し退けると、

ようやく水門の重厚な石の環が姿を現した。


砂漠の地平線から最初の一筋の光が差し込んだ瞬間、それまで狂暴だったゾンビたちの動きがピタリと止まった。


日光が灰白色の皮膚に触れると、

シュウシュウと黒い煙が上がる。


闇の魔力に突き動かされていた不死者たちは、無念そうな鳴き声を上げながら影へと逃げ込み、あるいはそのまま地面に倒れて静止状態に陥った。


「……終わったのか?」

俺は石門の上に腰を下ろし、大きく肩で息をした。


「一時的なものよ。日光がアンデッドの魔力を抑え込んだのね」


シーリンが刀を収めた。

額には汗が光り、疲労困憊の様子だったが、その瞳には依然として優しさが宿っていた。


彼女は周囲を見渡し、露出した門の石の環を確認すると、突然近くの空き地へ歩いていき、背嚢からテントの支柱を取り出し始めた。


「シーリン? 今からキャンプか?」

俺は呆気にとられた。

「すぐに中に入るべきじゃないのか?」

「ヤスト、私たちは一晩中戦い続けたのよ」

彼女は手際よく支柱を立て、真剣な眼差しで俺を見た。


「あなたの魔力は枯渇しかけているし、

チャクルも疲れ果てている。

ボールのコアの光だって弱まっているわ」


彼女は俺の前に歩み寄り、

乱れた髪を整えてくれた。


「不死者が動けない昼間のうちに、休んでおかないと。未知の地下水路に入るには万全の体力が必要よ。あの中は、外より危険かもしれないわ」


俺はこの優しく、

そして何より慎重な少女を見つめ、

それからバラバラの手足が散らばるこの村を見渡した。


彼女は、ここで昼寝をするつもりらしい……。


「シーリン、お前って本当……『たとえ世界の終わりでも美容睡眠は欠かさない』タイプなんだな」

俺は思わず吹き出したが、大人しくテントの中へと潜り込んだ。


ボールは体を縮め、湯たんぽのように俺の隣へ転がって微かな熱を放っている。


チャクルはシーリンの足元で丸くなり、

小さな寝息を立て始めた。


「……人生で最悪のキャンプ場だな」

俺は明るくなっていく空を見上げながら、

ポツリと零した。


「おやすみなさい、ヤスト」

隣でシーリンが囁いた。


「『おはよう』の間違いだろ?」

俺が茶化すと、シーリンは微笑んで目を閉じた。


ゾンビだらけの恐怖の村の中で、俺たちは本当に午前中いっぱい、ぐっすりと眠った。


午後になり、陽が少し傾き始めた頃、俺たちは目を覚ました。


周囲には相変わらず転がったままの『村人』たちがいたが、水と乾パンを補給すると、気分はだいぶマシになった。


「行くぞ、ボール、シーリン、チャクル」

俺は水門の石環を握り、地底から伝わってくる冷たく湿った水の気配を感じ取った。


「次は、地下水路だ」


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