またね。
依夜と涼夜の夜が、終わる。
私は1人、暗いリビングに佇んでいた。
突如現れ、消えた明日香。
何が起きたのか分からなかったが、そんなこと別にどうでもよかった。
開けっ放しの掃き出し窓から、夜風が私を包み込む。
「……暖かい」
夜風が暖かい。春の匂いがする。もうすぐ、春がやって来る。
この街の春は、優しくて、暖かくて、儚くて……。
金曜日の夜がもうすぐ明ける。
濃紺色の空。街灯。廃れた街。夜風。
今夜は、2人で過ごす最後の夜。
涼夜はもう、眠ってしまっただろうか。いや、彼のことだ。寝室で、眠れずに天井を見上げているだろう。……多分。
「ほんっとに、私は……」
思わず、笑みを浮かべてしまった。
そうであって欲しいんだ。
せめてそれぐらいは、彼の人生を変えたかったんだ。
明日、彼はこの部屋から去って行く。
楽しかったよ。暇潰しが出来たみたいで。
明日は、笑顔で手を振ろうと思う。
「バイバイ……またね……」
何だろう、この気持ち。苦しいのに、何故か、スッキリしている。
明日、彼はこの街から去って行く。
この街の春は、優しくて、暖かくて、儚くて……
意地悪だ。
完結です。
ありがとうございました。




