幸せに。
───重いよ。
その言葉が頭の中をぐるぐると巡り、何も考えられなくなっていた。
どれぐらいそうしていたんだろう。真っ暗なリビング。ソファで1人、体育座りをしていた。
私には、アイスを差し出してくれる人なんていない。いなかったんだ。
「何でよ……どうして……」
そうだ。呪いだ。明日香の呪いだ。涼夜が明日香に囚われているのは、きっと呪いの所為だ。
立ち上がり、掃き出し窓を開け、ベランダに出た。
夜空に向かって、叫んだ。
「東京の明日香さん、全国の明日香さん、全世界の、全宇宙の明日香さん! どうか、どうか! 涼夜を解放してあげてください!」
「そんなの無理」
突然、背後から声がした。驚いて振り向くと、女性が1人、リビングに佇んでいた。暗くてよく見えないが、彼女が明日香であることは何故か直感で分かった。彼女が、涼夜の元カノなのか、今カノなのか、判別はつかないが、明日香であることだけは確かだった。
明日香は続けた。
「分かるでしょ? 涼夜は明日香に依存したがっている」
依存したがる? 誰がそんなことを好んで求める?
私は首を横に振った。
「そんなことない。涼夜は明日香に呪われてるだけ。振り回されてるだけ」
そうだ。きっとそう。呪いだ。意味もなく明日香に依存してしまう、質の悪い呪い。
段々、暗闇に目が慣れてきた。
私が涼夜を救う。明日香から涼夜を引き剥がす。
「涼夜はこれからもきっと明日香が現れる度に、彼女達に依存する。このままじゃ、涼夜は幸せになれない。あなたは……あなた達は、涼夜を手放すべきよ」
これだけ言っても、明日香はまだ余裕そうな笑みを浮かべていた。
「あなたこそ、涼夜を解放してあげたらどう?」
「……は?」
私が? 涼夜を解放? 言っている意味が、よく分からない。
「あなたは涼夜と同棲している状況に依存している。ずっと、このままでいい。ずっと、このままがいいって。涼夜を巻き込んで。金曜日の夜よ、永遠にって」
涼夜と同棲している状況に……。
「私が、依存……?」
「そう。あなたも涼夜と同じ。金曜日の夜に呪われている。毎週毎週やってくる、この街の、この部屋の金曜日の夜から抜け出せないでいる」
そんなことあるわけ……。
「同棲を愛し、求めている。今のままじゃ、これからもずっと。出来るだけ今の同棲に似た、今の同棲の代わりを」
「私は、涼夜と同じ……」
どうしてだろう。否定が出来ない。
「同じになりたいの? このままじゃ、幸せになれないって……あなた言ったわよね。それでもなりたい? 明日香ばかり、私達ばかりを求める涼夜と同じに」
私は、涼夜だから、涼夜がこの部屋にいるから、涼夜と過ごす金曜日の夜だから、どんなに廃れた街でも、ここにいたいって思ったんだ。
思っていた、筈だったんだ。
でも、違った。
視界がぼやける。
「金曜日の夜に依存して、明日香から抜け出せないでいる涼夜と同じになりたいの?」
私はゆっくりと首を横に振った。
「幸せに、なりたい……」




