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同棲癖。  作者: 濃紺色。
同棲癖。
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10/16

デジャヴ。

重い人って、割と好き。

我慢出来なくなり、私は全速力で走り出した。

夜道を必死にかける。息が切れても、足が悲鳴を上げても。いなくなった涼夜の背中を追いかける。必死に、必死に。

アパートの階段を駆け上がり、ドアを勢いよく開け、涼夜の胸倉を掴んだ。

突然のことに涼夜は目をまん丸にさせた。本日3回目。


「ねぇ! 私じゃ駄目だったの!?」

「……い、依夜」


止まらない。止まれない。


「明日香じゃなくて、私じゃ駄目だったの? だって、そうじゃん、普通。同棲してる男女なんていずれ放っておいても結婚するじゃん! 物語の中だって、なんやかんやあっても結局、近くにいる異性を選ぶじゃん! 自分を理解してくれている相手が運命の相手でしょ!?」

「依夜」


決壊したダムのように、言葉が次々と溢れ出る。


「もうここまで一緒だったんだよ、私達。別れる理由なんてなくない? お互い、こんなに、こんなに居心地いいのに他の人を選ぶって何? 刺激がなくても正解がここにあるのに……妥協でもいいからここじゃ駄目なの!? 明日香じゃなきゃ駄目なの!? ねぇ!」

「依夜。俺は」


プライドも、友情も、今まで築き上げてきた関係も、全て、バラバラになっていく。


「ずるいよ……涼夜だけ。ずるいよ。置いていかれる私の気持ちが分かる? ……分かってるよね……。だって、彼女が出来てから3ヶ月間も私に黙ってたんだもんね。ずっと悩んでたんでしょ? 迷ってたんでしょ? いつ彼女との同棲を話そうか、そもそも、私を1人で置いていけるのかって。いつもぼけっとしてるけど、涼夜はちゃんと優しいもん。ねぇ、涼夜。私を選んでよ。ねぇ、涼夜!」


私と涼夜の間に亀裂の入る音が聞こえた気がした。


「もう、いい加減にしろよ!」


涼夜は私の右肩を押して、引き離した。

涼夜の顔は苦しそうに歪んでいた。


「俺は……俺はお前が思っている以上に出来た人間じゃないんだよ」

「そんなことない」


涼夜は止まらない。


「覚えてるだろ。海辺の街が津波に飲まれたってニュース。あの時だって、被災者の気持ちなんか考えずに、この現地リポーター、明日香に似てるな、可愛いなって、それで! ……そんなことばっか考えてる屑野郎なんだよ俺は!」

「それでもいい。私はそれでも」


ただ、離れないで、ずっと近くにいて欲しいだけなんだ。変わらない金曜日の夜を、ずっと。これからも。


「頭の中は明日香のことでいっぱいなんだよ! 今でもずっとずっと! 高校生の明日香がずっとここにいる」


ねぇ、何で涼夜が泣いてるの?


「彼女の笑顔が、唇が、甘い髪の香りがぐるぐるぐるぐる!」


置いていかれるのは私なんだよ? 泣きたいのは、こっちだよ。


「どうしようも出来ないんだよ。代わりを探してるんだ」


今、君の目の前にいるのは私なんだよ。明日香のことばっかり。少しぐらい私のことを……。


「出来るだけ明日香に似た、明日香の代わりを!」


私の中で何かが切れた。これを言ったらどうなってしまうのか、そんなこと、既に考えられなくなっていた。

口が、勝手に動いていた。


「じゃあ、涼夜といた時間は無駄になるの? ただの思い出になって終わるの? ずっと一緒に……結婚だって、私、考えてたんだよ? ねぇ、涼夜」


あぁ、もう終わってしまう。何もかも。


「なぁ、依夜」


何か、デジャヴのようなものを感じた。でも、これは私から見た世界じゃない。これは……。


「……何?」


とても冷たく、鋭い目だった。


「依夜……重いよ」

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