三章 9話 敗北から……
俺は負けた。普通に技量差で負けた。力はおそらく俺の方があった。だけど力だけじゃ勝てなかった。というより今までが奇跡だったのだ。俺は考える。どうやってやつと戦って勝つのか。
ここで思い出す。俺達が京都に来た理由。それは武器の扱いを学び、戦闘をより有利にするため。やつは素手だったが他の敵はだいたい武器を持っていた。
もし、俺が武器を持ったらどうなる?
答えは一つ。
混乱と武器同士の戦いで恐怖し負ける。なぜそう思うのだろうか。それは多分俺がビビってるだけ。
武器同士の戦いで負けたら切られる。刺される。撃たれる。これが痛くて怖い。だから素手で。空手で染み付き慣れている素手での戦闘。これが一番戦いやすくて安心だった。体を強化して今まで負けたことが無かったのは、強化された肉体による恩恵が大きいだろう。
しかし、自信があった白兵戦も負けた。
おそらくここ数ヶ月訓練を怠った俺自身の怠惰が招いた敗北だろう。
怒りが込み上げる。自分自身の不甲斐なさに。あの男に負けたという終わる事ない敗北感から。自分が戦って捕らえた女に救われたという事実。
「次は殺してやる……」
「ん?どうしたの?」
「なんでもない。ところで俺を抱えてどこ向かってんだ。」
「あの男を追いかけてるわよ。」
「なんでだよ。」
「アイツが向かった方向、私たちの部隊が担当してる区域の方よ。」
「マジ?」
「ええ。もしもう1回遭遇したら私が……」
「いや、俺が殺る。それより、お前は他の隊員と合流したらまず全員いるか確認してくれ。そろそろ学校が終わった子達が京都に応援に来てくれる時間なんだ。」
「分かったわ。」
「それともう手も足も再生したから降ろしてくれない?」
─京都映画村付近─
「JRが近かったから、このまま線路沿いに嵐山に向かってるけど合流出来なかったらどうしましょう……」
「副隊長さん、おそらく兄貴はJR側から来ると思います。」
「それはどうして?」
「アイツが嵐山行く時にメール来てて、JR側の方が分かるからそっちから行くとの事でした。」
「なるほどねぇ。というかここって映画村じゃないか。」
「鬼灯隊長、来たことあるんですか?」
「いや?僕は元々東京住みだったから初めて来たよ。」
「俺も初めてっす。」
「ん?君達止まるんだ。ヤバいやつがこっちに走ってくるよ。」
映画村の奥からものすごい勢いで走ってくる大男の姿があった。周りにいた人獣諸共全て巻き込みこっちに向かって突進してきた。
「奴だね。晴璃君をボコったのは。」
「兄貴がパワー負けしたって事っすか。」
「いや、僕の長年の経験と勘だが奴は多分技巧派だよ。」
「貴様らも紺青晴璃の仲間か!!」
大男は叫ぶ。
3人の目の前で急ブレーキをかけ、威圧する。
「貴様らは邪魔だ。どけ。」
「あなたが私の隊長を倒した人ですね……」
「女、どけっ!!」
大和の正拳突きが美桜の顔面を撃ち抜こうとする。
咄嗟に明が前に出て拳を受け止め、カウンターの掌底を大和の顎に当てる。
「ちっ、」
「それは僕の方さ!!」
明は懐から取り出したナイフで大和の喉を切り裂く。追い討ちとして大和の股間を蹴り上げ、悶絶させる。
うずくまってしゃがんだところで、頭を蹴り飛ばす。
「つ、強いです……」
「副隊長さん、俺も初めてこんなに戦闘してるところ見ましたよ……」
大和はすぐに体の再生が終わったのか立ち上がる。
しかし、それに合わせ明は足払いをし、こかす。
さらに追い討ちとして、頭を踏み潰す。
「さぁどうする?お前僕には勝てないけど。」
「鬼灯さん、そいつ今頭吹っ飛んでるんで、何も聞こえないし、喋れないっす。」
「そんな酷い事をするやつがいるんだね〜」
明はタバコを取り出し吸い始める。
もちろんその隙に大和は頭を再生させ、すぐに距離を取る。
「き、貴様、強いな……」
「そりゃ僕元自衛官だよ?晴璃君や波瑠斗君みたいに稽古だけの武術をやってた訳じゃないんだよね。」
「なるほどな……そろそろ俺も本気を出すしかないという事か……グハッ!?」
大和の心臓が拳を貫く。
「死ねぇっ!!」
「き、貴様……紺青晴璃……」
「フンッ!!」
拳を引き抜き、後頭部を殴る。しかし、貫通力は無く、ただ、気絶させる程度に留まってしまった。
「兄貴……」
「咲奈!てめぇの刀寄越せ!!このクソ野郎にトドメ刺してやる!!」
「待つんだ晴璃君!まだソイツから何個か情報を……」
「ちっ……」
しかし大和はすぐに起き上がり晴璃を蹴飛ばす。
そして、波瑠斗と美桜も殴り飛ばし逃走を再開する。
明はすぐにナイフを投げ、大和の太ももに直撃させる。
大和の動きが一瞬止まった隙に、飛び蹴りを放ち再度追い込む。
「君、僕達から逃げられるとでも?」
「俺は……何も……離さないぞ……ぐァァァァァァァッ!!!」
晴璃は刀で大和の四肢を落とし心臓に刀を突き刺す。
「仕返しだぜおっさん。さぁどうする?」
しかし、大和の手足はすぐに再生し、刀を抜く。
「早すぎだろ。」
「これが俺達五本指の再生力だ。そろそろ覚醒した力を見せてやろう。」
大和の手足が紫に染まる。
「これが憎悪暴走状態だ。お前達の中にはこの覚醒を果たした奴はいなかったな。」
「君たち気を付けるんだ。奴の覚醒がどのような能力を得るのか僕達はまだ知らない!」
「簡単さ。怒りが力の大幅な増幅、怨嗟が力の増幅と相手の肉体を人間の頃に戻す、嫉妬が力の増幅と相手の力の吸収、そして虚無が力の増幅と引力と斥力を使えるようになる。そして憎悪が……」
大和が周りの石ころを浮かす。
「力の大幅な増幅と念能力取得だ!!」
「ちっ、コイツ!!」
晴璃は震脚をし、衝撃波を大和に飛ばす。しかし、念能力により、周りの瓦礫が浮かされてしまう。
「なぁ兄貴、あの瓦礫群飛ばせると思うか?」
「アイツ念能力って言ったか?おそらく飛ばせる……んじゃないか?」
「飛ばすなら雑魚にだろ。」
「ふざけろ!!」
晴璃は美桜に覆いかぶさり、瓦礫の雨から庇う。
そこに明が白兵戦をしかけるものの……
「何っ!?」
「フフフ……バリアって奴だぜ」
「僕の正拳突きも通さないバリアか……ショックだよ。」
波瑠斗も攻撃を仕掛けるものの、バリアに防がれてしまう。
「あら、みんなかなり苦戦してるみたいね……」
「最上咲奈……もう来たか……」
「私の隊長さんの事を蜂の巣にしちゃって……許さないわよ?」
「お前も戦うなら手を引こう……だが今回は俺を逃がすことが条件だ。」
「ん?アナタ馬鹿なの?それは私が決める事でしょう?」
「いや、俺がこの場を支配しているさ。最上咲奈、実はもうあの計画進んでいるのだよ。」
「せっかちなのね。」
「そういうな。実はもうあの計画の方は目的を達成してるのだ。」
「そう。」
「今も東京は陥落していなかったさ。」
「へぇ。その話は僕達も聞いて大丈夫なものなのかな?」
「ふん……まぁいいさ。この話をする代わりに俺を逃がす。これでどうだ?」
「いいわよ。」
「なら話そう。
実は今の東京は地上に存在していた時と同じ……いや、それ以上に発展している。何故だと思う?」
「鈴木原博士が生きている……って事だろうね。」
「さすが第二部隊の隊長だな。察しが早い。そこで管理者は五本指の残り3人で東京に向かった。地下500メートルの奈落に存在する楽園。そこで見たものは人獣達が普通に暮らしている世界だったらしい。さっき入った情報だけどな。」
「そうなのね。」
「そして、五本指は人獣と接触したらしい。まぁすぐに敵認定されてお話にならなかったらしいが。」
「それで?」
「そこから放送がなったらしい。今すぐに出ていけという旨のな。」
「鈴木原は東京に来た敵を認知できるという事ね。」
「まぁ、撤退したらしい。どうやら、ヤバい人獣が徘徊してたらしく、死闘になるからといってな。」
「へぇー。あれが戦うの止める判断を下すやつがいたのね。」
「あぁ。そして俺達は今から会議を開くという訳だ。もういいだろう。今の東京の状況が知れただけ幸運と思うんだな。」
そういうと大和は暗闇に消えて行った。時刻は午後8時。すぐに全隊に人獣殲滅が終了したという報告が入り、京都を去り始める。
「隊長!隊長!」
晴璃は穴だけの体で目を覚まさなかった。
波瑠斗と明は自分の隊に戻る。
─数日後─
「なるほどねぇ。あ、波瑠斗、俺確変入ったわ。」
「マジすか。今夜は隊長の奢りっすね。」
「あ、俺も入ったわ。」
「太郎さんもズルいっすよ。」
「まぁ、俺達はこれから目指す所が少し見えてきたんじゃないか。」
「目指すところっすか?」
「俺達が人獣と戦うのはアイツらがどんどん現れて普通の人間を襲うからだろ?で、その状況を作った元凶が奈落の東京にいるなら、いずれそこに向かう時が来るはずさ。」
「なるほど……」
「ま、俺達はまずは地上の人獣達を駆逐することが優先だな。」
こうして俺達の京都での戦いは終わりを告げた。
みんながみんな自分の望んだ展開にならず敗北したというなんとも言えないオチだったが、一歩進んだというところだろう。
「あ、隊長、波瑠斗、次の任務が決まったらしいっすよ。」
「あ、駆け抜けた!!で、場所は?」
「場所は鹿児島県の桜島らしいですよ。」
「俺達はとうとう活火山で戦うのか?噴火したら強化人間と言えど死ぬど?」
「あーどうやら管理者の存在も確認されたらしいっす。」
「なんで分かるんだよ。」
「衛星写真から特定してるらしいっす。」
「まぁお前ら、行くか……」




