三章 2話 刀を使えない理由
7月16日、AM5時半頃。俺達は叩き起され、武器の訓練を近所の公園で開始する。そこで知らされた副隊長が第五部隊の隊長になれないかった理由。
「みんな……今回は私がみんなの武器指導をするね。」
「おう。で、なんでそんなにテンションが低いんだ?」
「まぁそれは……」
「ま、早速手本を見せてくれや。」
「それは……できません。」
「なんで……」
「桜……普通の日本刀持って来て……」
「はい姉様!!」
霧ヶ崎優奈は決して剣道が下手な訳ではない。むしろ、洗練され過ぎている。
妹が心酔して止まないのは、ただ尊敬してる訳でも、ただ大好きって訳でもない。
─嫉妬─
それが最初の感情であった。
しかし、優しく強い姉に次第に惹かれていくこととなる。
「……じゃあ素振り1回だけするので横からよく見ててくださいね……」
優奈が日本刀で素振りする。刹那、素振りによる風圧と衝撃が付近に起こる。そして、日本刀は刃先から綺麗に砕け散った。
「は?」
「……だから私が手本なんて嫌なんですよ!!」
「いやいや、副隊長マジすか……」
(剣道やってた時にこんなのに会ったら萎えて止めてるな……)
「さすが姉様です!!全ての動き、力のかけ方、角度、精密さ、全てが完璧です!!」
いやいや、俺たちは竹刀でもこれ無理だぞ!?というか、兄貴の隊はいつ来るんだよ……
「私はもう寝に戻ってもいいですか隊長……」
「て、手本ありがとうな……」
こうして刀組は完璧過ぎる手本を見て訓練を始めた。
刀組は俺一人だったので、副隊長が見てくれることになった。
槍組は愛さん。狙撃銃組は太郎さんだった。
ちなみに隊長と副隊長と大輝さんは素手との事だったので武器使いは3人になる予定だ。
「すみませーん!送れましたー!」
第七部隊もここで合流した。兄貴はいなかったため3人で来た様子だった。
来たのは、副隊長の藤野美桜さんと、天ノ川蛍さんと、夕闇朧さんの3人だった。どうやら、本当は兄貴も来る予定だったらしいのだが、別の予定が入ったらしく遅れるそうだ。刀は天ノ川さん、槍は夕闇さん、狙撃銃は藤野副隊長が訓練する予定だ。ちなみに兄貴は刀を練習する予定だったらしい。まぁ、あのイキり男がただ刀を使うだけとは思えないが。というか予定も嘘だろうな……
─AM9時頃─
「じゃあ刀組は一旦休憩にしようか。」
「あ、えっと天ノ川さんでしたっけ……」
「あ、はい。でも、これからはお姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ。」
(コイツやべえ!!)
「あ、はは。最近兄貴の様子とかどうですか?」
「隊長ですか?隊長さんはそこまで変わらないですよ。あ、でも「俺は四刀流と長巻を使うんだ!!」とか言ってどこか行っちゃいましたね。」
「長巻って何です?」
「隊長が言うには持ち手が長い太刀と言ってました。」
(アイツやっぱイキってるな……)
「でも隊長そもそも長巻以外で四刀使うとか言ってたので、どうやって戦うんでしょうか……」
(もうイキるとかの次元じゃ無いぞ……どうやって戦うんだ?二刀流ならまだ分かるけど……)
「まぁ隊長さんとても強いので……」
「はーい2人とも休憩終わりだよー!今から朝ごはん食べて、素振りに戻るよー!」
─AM9時20分─
地獄が始まる。
それはみんなで帰ろうとした時だった。
目の前に仲間の首が転がっていた。
「みんな下がって!!」
目の前には見た事もない男が立っていた。おそらく管理者の1人だろう……
「おい!!ここに紺青晴璃ってのが来てるだろ!!奴の場所を言え!!」
「アンタうちの兄貴になんの用だ」
「雑魚の弟は引っ込んでろ!!」
刹那、痛みと共に世界がひっくり返る。
「ちっ、首を落としてやろうと思ったが、半身になったせいでちぎれかけで止まっちまった……」
「波瑠斗君!!」「弟君!!」
「お前ら女に用は無い。消えろ。いや、最上咲奈の行方だけ教えてもらおうか。」
「やっぱり管理者……副隊長さん!!ここは撤退しましょ……」
蛍の胴に穴が空く。ちょうど心臓の辺りにぽっかりと空く。
「俺の彼女もこんな穴を空けられたらしいな。」
(まさか波瑠斗君のお兄さんが捕まえた女の彼氏なの……こんなゴリラみたいにでかい大男が……)
ここで首を跳ねられた人間たちの回復が始まる。今までは首が跳ねられ、首から下が再生する時は全裸で再生していた。しかし、宮島の経験から技術半は、戦闘部隊の人間のコスチューム(第六と第七はジャージだけども)も再生する新たな薬を開発した。
とどのつまり細胞分裂の延長線上の能力らしい。
「優奈、紺青隊長を探しに……」
グシャッと張間の頭が踏み潰される。
「た、隊長!」
「俺は敢えて生かしてるんだ。早く、紺青晴璃と最上咲奈の居場所を答えろ。」
(……体が再生したら、、副隊長を連れて逃げるしかない……兄貴がいないと勝てない……それに武器があっても副隊長が縦に両断できなきゃそこで終わりだ……)
「姉様逃げて!!ソイツ次元がちが……」
桜の頭が吹き飛ばされる。
優奈の中にあった選択肢が消える。
「殺してやる!!」
優奈が殴り掛かる。しかし、腕をへし折られてしまう。
「うぐっ……」
「副隊長!!」
体が再生した。兄貴を待ってる余裕は無いかもしれない……ここで誰か兄貴みたいに覚醒しないともう殺されてしまうだろう……
なら誰が兄貴のように覚醒して強くなるのか……
「うおおおおおっっっ!!!」
兄貴から聞いた激怒暴走状態移行へのコツ。
とりあえず、怒る。そして、殺すと思うこと。それが、激怒暴走状態への移行に必要なことらしい。
確かに俺も怒らない訳ではない。ただ、兄貴の場合と俺の場合では、感情の起伏に差がある。俺は徐々に怒りが溜まって言って爆発するタイプだ。しかし兄貴の場合は0と100しかない。アイツはすぐに激怒してしまう。元々短気なのもあるが、やはり異常だと思う。
だけど今回で分かった。これが感情の暴走なのだろう……俺の中にあったのは辛いという事と、大事な人が痛めつけられる事への悲しさだった。もうやめて欲しいと本気で思ったし、やめない事への怒りも混じっていると思う。結論してこれは恨みだ。絶対に許せないし、許す気もない。
体がいつもより力が入る気もする。それにどうやったらアイツが絶望するのか頭で分かるようになっていた。
四肢が少し青紫ががりいつもより力が入る感じがした。
「ん?貴様弟の方か……なんだその姿。兄と同じ覚醒したのか……」
「知らねぇよバーカ。」
頭に流れ込んで来るこの情報。
この男がどうやって絶望するのか。
だが、まずは叩く。走ってくるこの男の腹に一撃蹴りを入れる。鋼鉄のように硬い腹だった。
「俺はお前の兄貴と同じ激怒暴走状態を獲得して……ん?なんだ!!貴様今俺に何を!!」
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな。」
「蹴られた部分が人間の時と同じ強度に下がっている……」
「そこ、今弱いだろ」
男の軟化した腹にもう一度蹴りを入れる。
簡単に穴が空き、臓物がどんどん溢れる。
「グハッ!!」
「ほらほらどうした?」
トドメを誘うとした時、後ろから歩いてくる音が聞こえた。
「俺の部下をやったのはお前か?」
「あん?お前は?」
「ん?ああ、俺は管理者の一人。覇宮龍護だ。ま、そこのゴミは俺が始末しとくよ」
「ま、待ってくださ……」
覇宮龍護は容赦なく部下の頭と心臓を潰した。
「じゃあやろうか。君のその覚醒は今まで未確認だった力だ。存分に見てくれよ。あ、そうそうここに来るまでに京都の人間の一人を人獣にしたからよろしくな。」
─AM9時半頃─
京都市内でどんどん血飛沫が飛ぶ。
増えた人獣と無差別に一般人を殺し回る夕闇夜宵。
それを抑えきれない紺青晴璃の姿があった。
「まずいな……これは地獄だぞ……」
「ほらほらどうした隊長!!お前の力はもっとあるだろう!!」
戦闘が激しくなっていく。増える人獣と死体。
京都は地獄と化した。




