二章 5話 組織の裏切り者
俺の激怒暴走状態はあと2分維持するのが限界だろう……
2分で最上咲奈本体とクローンを討伐できるのか?
まぁクローンは確実に始末するとして、本体の方を捕らえることは可能なのか?
右側の視界がぼやけ始めた……眼鏡があってもピントが合わなくなるくらい披露しているのだろう……
「あら?しんどそうね?隊長さん?」
最上咲奈のクローンの方がこっちに向かって走ってくる。
やるしかない……クローンが接触する刹那、前蹴りを放ち、心臓を蹴り抜く。すかさず裏拳で頭を吹き飛ばす。
「あら、もうやられちゃったの?一応、人獣の肉体って、銃弾や大砲くらいならダメージ無いくらいには強いはずなんだけど」
なら、なぜ彼女は刀を使っているのだろう。おそらく、この刀は特殊な合金で鍛造されているという予想を立てる。武器部隊の第五部隊とは関わる機会が無かったため、人獣に対抗するための武器の知識は乏しかった。
「一応だが連行される気は無いよな?大人しくすることを約束できるなら、痛い目見ずに済むけど?」
一応聞いてみる。
「あら?私が?アナタなんかに?冗談が面白くないのね隊長さん」
「一応言っとくけど、俺はこの状態をあと1時間は維持できる。辞めておいた方がいいとお漏れは思うけどなぁ」
ハッタリも交えつつ、交渉をしてみる。
「まだ交渉してくれるのね。隊長さんは」
(正直もう疲労で戦うのは厳しいな……投降は……さすがに無い……よな……)
「命の保証をしてくれるなら投稿してあげてもいいわよ?」
「何?」
(ガチか!めちゃくちゃ助かる〜)
「ま、私の命を保証してくれるのは貴方だけじゃないけども」
「は?」
「あら、口が滑っちゃった。」
(やはりウチの組織の人間の中にコイツと繋がりのある人間がいるのか。それにコイツが生きてることで何か得する人間かがいるのか?何がコイツを生かそうとしてるんだ?ダメだ……考えるだけで疲れてくる……)
「ちなみにお前は誰に命の保証をされてると言うんだ?それが言わなきゃここで始末することになるぞ」
「君のその短期な性格は直すべきだろう紺青隊長。」
背後から俺達兄弟を2週間ボコボコにし続けたオッサンの声がした。
「……鬼灯さん。アンタがコイツと繋がってるんすか。」
「いやぁ?僕は可愛い後輩から助けを求められ、大阪から走ってきただけだぜ。それにコイツに用があるのは秋次郎の方だと思うぜ。」
(佐竹秋次郎……最強の第一部隊の隊長……)
「で、このお嬢さんが今回の目標なんだろう?さっさと回収して帰ろうか。」
「鬼灯さん、まだウチの隊員が……」
「8人全員無事さ。今頃ウチの副隊長が手当してるはずだよ。」
(とりあえず危機は乗り越えたってところか)
「鬼灯隊長!!人獣殲滅完了しました!!」
「船は?」
「準備できてます。何時でも出港できますがどうします?」
「第七部隊の回収の後、最上咲奈を拘束して船内にぶち込んどいて。」
「了解しました!!」
─数十分後船内にて─
「理想郷計画か……」
鬼灯隊長が少し遠くを見つめて呟く。何か思うところでもあるのだろうか。
「鬼灯隊長……理想郷計画って何なんですか……」
「……他の隊員の子も招集してくれないかい?彼女の口から話してもらおうか。」
他の第七部隊の隊員を集めた。そこで俺たちの知らなかった事実が話される。
「じゃあ最上さん。僕たちに理想郷計画について話してもらおうか。」
「あら?私がそんな大事な事話すとでも?」
「おいおい僕が女の子には拷問しないタイプの人間だと思うのかい?」
「……いいわよ。話しても。」
「……理想郷計画は鈴木原博士主導で進めていた2050年問題に対抗するためのプロジェクトのひとつだったわ。2049年12月31日、プロジェクトが動き出したわ。」
(ん?待て待てその日は東京陥落の前日だろ?何なんだ一体?)
「それが人類選定。東京という理想郷に永遠に住むことができる人類を選ぼうという計画が出てきたわ。」
「うーんその言い方だと、あの時の災害は人為的なものだと僕には聞こえるなぁ。」
「あら、最強の隊長は頭もいいのね」
「まさかとは思っていたがやはり……」
「2050年1月1日、理想郷は完成したわ。」
「ん?それは嘘だろ。東京は完全に消滅して、地盤沈下で地下深くへ……」
「そこが理想郷。誰の手も届かない地下の奥底で、永遠に夢を見続ける人類。死の恐怖が無い理想郷で彼らは生き残る。どんな問題も関係無い。どんな痛みも知ることが無い。どんなストレスさえ抱えることの無い。そんな理想の世界があるのよ。」
「なぜお前たちは思考できるんだよ。」
「私たちは管理者。私たちが負の受け皿になる事で1000万人は夢を見続けることができる。」
「なるほどまずは分かった。あーところでここからは僕からの質問だけどいいかな?」
「気乗りしないけどどうぞ。」
「秋次郎は関係してるのか?」
「…………誰かしら。」
「いやいや、とぼけなくていいんだ。俺は秋次郎の理想郷計画に対する執念の異常さが気になっていたんだ。だから、裏切り者がいるかもってなったら奴しか居ないんだ。だから……」
「そんな人間知らないわよ。というか、第七部隊の隊員さんの中にいるでしょ。裏切り者。」
「俺の隊員が?裏切り者?この女……!」
「あら、夕闇って苗字の子いるでしょ。ウチにもいるのよ。今は沖縄の方で遊んでいるらしいけど。」
「た、隊長!!僕……」
「大丈夫疑ってないって。ただ、東京都とかに家族が住んでたりしたかい?」
「……いました。腹違いの兄が。だけど……あの災害から連絡が取れなくなって……死んだとばかり……」
「紺青君。今回の話は僕たちだけの秘密にしておいてくれないか。そして、最上咲奈は殺した事にしておいてくれ。秋次郎の反応が気になる。」
「分かりました。ところで鬼灯さんと佐竹さんって……」
「親友だったんだ。僕と秋次郎は自衛隊の同期でね。ま、それも過去の事さ。」
そして数日後、本部に戻った俺は今回の報告書を最高責任者の郷道さんに提出した。ここでも違和感が起こる。まず、戦闘部隊が他の隊に救助要請する時は最高責任者の郷道さんに必ず繋がるということ、次にそもそも俺達の任務は宮島突入ではなく、他の隊との合流まで待機。合流後、宮島突入が本来の命令だったということ。そして、そもそも救助要請が入った時のため、本部には常にどこかの隊は常駐していて、断られると言うことは有り得ないとの事だった。
そして、今回の任務で確信したのが、この組織にはスパイがいるということ。そして、学生部隊は失敗だったということだ。
後日、隊員を集めて話をした。それは、今の生活を続けるか、学生生活に戻るか。結果として、蛍以外が学生生活に戻りたいと話してくれた。それはそうだ。彼らは数ヶ月前まで、ただの学生だったのだ。そして、大人に脅され、戦うことになった。そんな彼らが……俺を信用してくれた彼らが……俺に学生に戻りたいと話す。俺は組織か彼らか選ぶ事になっていた。
答えは、彼らを学生に戻す。学生としてちゃんと過ごさせる。彼らがそう望むなら、俺も1人の大人として彼らの意見を尊重すべきなのだ。どうやって彼らを学生に戻すのか……
その時、電話が鳴る。
「俺だ。ん?何?沖縄まで徒歩で行ったけど疲れて動けないから迎えに来い!?」
沖縄まで徒歩で行くヤバい部隊がいるのか……泳いだのか!?鹿児島から沖縄まで!?
「はぁ。おーい!副隊長!!車強奪してくるから運転頼むわ!!」




