二章 3話 実験
5月26日ついに俺たちの初任務。そして、この日を境に俺はこの組織を疑うようになる原因となった。
移動の時間もあり、厳島に着いたのは27日となった。俺たちはフェリーを降り、人獣を探そうとした。
そこで凄惨な現場を目撃する。フェリーを降りた先には、たくさんの鹿の死体、木に吊るされた人間の死体の数々。
明かに地獄だった。
「た、隊長すみません私・・・」
その場でみのりが嘔吐する。中学生にこの光景というか俺ですらかなり堪える光景だった。
他の子供達も耐えれてない様子だった。
「お前たちはここで待機だ。ただし、乗り場には近づくな。見通しのいい死角もないここで待機だ。全方位常に警戒しとけ!!」
とりあえず、最善だと思った指示を出す。その間に俺は全力で島中を走り回る。あるのは死体だけ。生きた人間は確認できなかった。正直この島はもうダメだ。本州とは違い人の気配が感じられない。そろそろ一周かな。
「は?」
目を疑うような光景が広がる。一周30キロといわれてるこの島。強化された俺たちなら走ったとしても5分もかからないはずだ。
なのにだ。
5分いないだけで部下の頭が転がっていた。胴体と首を切断されていた。
幸い、俺たちは頭と心臓部を同時に破壊しないと死なない。それが不幸中の幸いだった。
「お、お前ら!!」
なんて思ってたらすぐに全員体が再生していった。ただ、全員胴体は蒸発し、新たに再生し直したためスッポンポンだった。
「あーとりあえず全員で服でも探すか。」
こんな感じで話しているがかなり動揺していた。
「ちょっと男子たちは先に歩いてよね!!」
「隊長〜みないでください〜」
こいつらもしかして切断されたことも気づいてなかったのか?
「すんません隊長。気づいたら俺たち床に寝ていて、そして服も消えてて・・・」
「悠、お前何があったか説明できるか?」
「実は、とある女に襲撃されて・・・」
「どんな感じの女だった?」
「身長は隊長と同じくらいで…」
「いらん情報だな…」
「それでいかにも敵役の女って感じの格好してて、」
「なんか黒色の露出が多い感じの服か?」
「もうその通りっす」
「陸も見たのか。」
「はい。俺たちの方向から来たんですけど、気づいたら地面に寝転がってた感じだったのでその、」
「大丈夫だ。とりあえず、民家に着いたな。服探してきなよ。」
「た、隊長〜私どうしましょう〜」
「副隊長も早く探してきなさい…」
「でも〜私のサイズあるのかな〜」
「ええい!俺より年上なのにいちいち泣くな!!」
結局、何とか服を民家から借り(ほぼ窃盗みたいなものだったが)島の探索を再開した。
俺の部下達を半殺しにした女はどこへ消えたのだろうか?なんて事を考えていたら、その女がいそうな場所1つ目に着いた。ここは宮島水族館か。他には厳島神社と…身を隠すなら大聖院の方か?
奴が俺が消えた瞬間に現れたということは、どこかで監視しているのだろうか?
正直、8人を瞬殺できる人間とか怖すぎるぞ。鬼灯さんなら可能かもしれないけども。
「お前たち、これからまずは宮島水族館に突入する!
先頭は俺が行く!1番後ろを副隊長と悠で警戒!真ん中の6人は3人1列で固まれ!行くぞ!」
結果として、人獣3体と遭遇し討伐。しかし、件の女はいなかった。
「隊長、一応任務は完了ですが…」
「正直、俺はお前たちを本州に送りたい。」
「でもフェリーに乗ってたら?」
「というか多分そろそろ警察が動き始める頃合だろう。てか、フェリーに乗ってた他の客はどこに行った?」
「実はあの惨状を目撃してからほとんどの人がフェリー乗り場に待機しています。」
「ん?待て、しくじったかもしれねえ。」
おそらく件の女は今、フェリー乗り場で怯えてる観光客に混じってるかもしれない。部下たちはフェリー乗り場から少し離れたところで、半殺しにされていた。
状況が面倒くさくなってくる。
「一旦フェリー乗り場まで行くぞ!他の待機してる乗客が殺されてるかもしれない。」
「隊長!?フェリーがもう出港してる可能性は?」
「あるかもしれない。というか一旦状況を整理させてくれ。」
「俺たちはまず、広島に着いてから、フェリーに乗ったろ?んで、宮島に到着したろ?数は少なかったものの、他にも乗客は数十名いたよな?で、宮島到着し、この惨状を目撃する。他の乗客はパニックになっててんやわんやしてたな。俺たちはちょっと進んだところで、俺の命令で待機してたよな。場所はフェリー乗り場から少し歩いたところ。そこで俺が島の様子を確認しに行った時に、件の女に半殺し。そして俺が戻ってくる。そして、島の奥へ進んだのが今か。ん?なんでフェリー乗り場にいるかもしれないのに確認してなかったんだ俺は!!」
「隊長、私たちは首を撥ねられてからしか彼女の姿を見ていません。そして、どこかに歩いて行くのを確認したと思ったら意識が飛んじゃったので…」
「構わないさ。俺の頭の悪さには驚かされるよ。」
「た、隊長ここから二手に分かれて行動するのはどうでしょう?」
「分かった。とりあえず、戦力は均等にしたい。だから、まず俺と副隊長で別れる。」
「え、私隊長と一緒が…」
「ダメだ。一応、アンタ俺の次に強いんだから。」
「……はい。」
「じゃあ私隊長と一緒がいい!」
「ん?蛍は俺とがいいのか?うーんそうだな…じゃあ部隊はこうだ。まず俺の部隊が、俺、蛍、海斗、みのりの4人だ。そして、残りの4人は副隊長の指示を聞いて動いてくれ。」
「…隊長?僕なんかが一緒で足手まといにならないですか?」
「お前は俺の頭脳となってくれ。信じてるぞ。」
「はい!」
「そして、美桜、悠、由貴、陸、朧。お前たちは全員、戦うことができる。もし、不意打ちなんでされ無ければ十分戦えるはずだ。期待してるぞ。」
「分かりました。じゃあ隊長、どうします。」
「俺たちはメンバー的に移動が遅いから先に、フェリー乗り場に向かってくれ。俺たちはフェリー乗り場に向かいながら、色々回ってみる。頼むぞ。」
そして俺たち4人は色々回ってみた。だが、その女は見つからなかった。正直、そして、俺たちはフェリー乗り場に向かう。
私はあの人に惚れてしまった。最初会った時にこの人は優しい人だと思った。何となくだけど。そして、いつも私たちに難癖を付けてくる第三部隊の隊長さんに対しても、文句を言って私たちを守ろうとしてくれた。
そんな人の期待に添えるだろうか。
「みんな、フェリー乗り場に着くわよ!」
「副隊長、俺が先頭行きます。何かあったら隊長に連絡できるように…」
「いや、ここは私が先頭で突入します。悠、あなたは外を警戒して。由貴と陸は私と一緒に。朧は悠のカバーができる位置にいて。では、フェリー乗り場の中に入ります。」
やはりそこはもう人間の死体が転がる惨状が広がっていた。そして、奥に動く人影が。
「そこにいる人止まりなさい!!」
フェリー乗り場の奥に行く。そこから見えるのは海だけだった。
「いない?いや、」
美桜は後ろに飛ぶ。目の前には、自分たちを不意打ちで半殺しにしたと思われる女がいた。
「あら、避けるのね。さっきは首撥ねられた癖に。」
「そうね。でも、もうあなたの感覚おぼえたわ。」
「あら?私の感覚?」
「気?みたいなものだけど。」
「副隊長!!」
「由貴、陸、下がってて。」
「あらぁその子達私の事倒そうとしてるのね。いいわよ。でもせっかくなら広い場所でやりましょ。」
次の瞬間、美桜は顔を捕まれ頭を壁に打ち付けられる。その勢いで、建物中に吹っ飛ばされる。
「あらぁ?こんなので死んじゃうの?副隊長さん。」
「死なないわよ。この程度でっ、」
「お外いきましょ」
今度は蹴りで外まで吹っ飛ばされる。それに気づいた、悠と朧が近づく。
「!?副隊長!!」
「近づかないで!あの女私より強いわ!」
「そういえば、あのちょっとカッコイイ隊長さんは何処へ行ったのかしら。」
「副隊長!コイツ見る目ありますよ!」
「そんな事言ってる場合!?」
「あらあら?何をそんなに怒っているの?もしかして、私にあの隊長さんが取られるとでも思っちゃったのかしら?」
「このアマ…」
「副隊長、言葉が汚いっす」
「僕らも加勢します。」
「ウチらも加勢するっての!!」
「俺も戦います!!」
「あらあらこんなに沢山。いいわよ。今度は殺してあげる。」
俺たちは迷った。俺なんて何回も来たことがあるのに迷ってしまった。鳥居の方の潮が引いてるのが見えた。
「そういえば、鳥居の方今なら行けるな。」
「お言葉ですが隊長、僕らにそんな時間は無いかと。」
「私お腹減っちゃった。」
「私も疲れましたー」
「うーんとりあえず、生き残ってる店が見つかればなんか食べるか?」
「賛成!!」
フ、可愛い奴らめ。ま、奢るのは好きだから構わないんだが…その時、電話がなる。
「もしもし俺だ。」
「隊長、朧です!すぐに来てください!フェリー乗り場で……」
「ん?どうした!?朧!!」
やられたのか?少なくとも、弱くは無い戦力を投入したし、あの5人は動けるタイプだから問題ないと思っていた。
認識が甘かった。おそらく件の女は俺のことを警戒しているし、何より島の奥に潜んでいたらと思って俺が探索メンバーに加わった。もし、他の隊員が島の奥で件の女と遭遇した場合、生死不明となり、余計ややこしいことになると感じたから…これは言い訳だな。
「俺は先にフェリー乗り場へ行く!お前たちは後から来い!!」
「分かりました!!」
急いでフェリー乗り場まで向かう。おそらく5人はもう倒されてるか、殺されてるのだろう。そんな不安が頭から離れない。そんな事を考えていたら目の前には倒れてる5人の人間と1人立っている女が見えた。
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ようやく来たんだ。遅かったのね。隊長さん。」
「ウチの隊員を痛めつけてくれちゃったのはお前だな」
「そうよ。初めまして、私は最上咲奈。この島で理想郷計画の実験をしていた進化した人類の1人よ。」
「た、たいちょ、う、すみ、ませ、ん、わ、わた、し、」
「副隊長、もう大丈夫だ。」
どうやら他の隊員も頭と心臓は破壊されていないようだった。だが、この血の量。おそらく何度も四肢は吹っ飛ばされたのだろう。
「隊長さん、悪いけどこの島は実験の途中なの。だから、消えてくれる?」
「悪いがそれはできない。」
「どうして?」
「今からお前を殺してやるからだ。たっぷり泣かせてやるよ。」
「…実験の内容とか聞かないの、」
最上咲奈の下半身が吹っ飛ぶ。
「へ?」
「とりあえず、会話に下半身は邪魔だから消し飛ばしてやった。心臓もエグっとくか?」
私はその様子をただ見ていた。隊長が動いたのが見えなかった。気づけば彼女の下半身が無くなっていた。おそらく隊長の蹴りか何かだとは思う。けど私たちは理解した。今までの戦闘訓練で隊長は全然本気を出していなかった。悠との戦いで見せた激怒暴走状態。おそらく今はその状態なのだろう。よくよく見ると腕と足が熱が赤くなっていた。少し蒸気も吹き出ている。おそらく彼は今、本気で激怒している。それが伝わってくる。
「ま、待ちなさい!実験の内容をはな…」
ぐちゃり。心臓を踏みつけた音だった。踏みつけた勢いで穴まで空いている。
「あぁすまんすまん。ま、心臓無くても人獣は動けるし話せるだろ?」
最上咲奈の鮮血が辺りに散る。
隊長が本気でこの女を殺そうとしてることが明確に分かった。
だけど、隊長クラスになるとこんなにも私たちと戦闘能力に差があるのだと感じた。私はいや、私たちは彼の人獣討伐における足枷でしかない事を痛感させられた。
「さぁ応えろよ。この島で何を実験していた?」
「人獣の……増殖……」
「ほう?それで?」
「人獣が……殺した……人間は……死後低確率で人獣に……なる……」
「何?それは本当の事か?」
「えぇ。そして、この島では人獣が殺した人間を……確実に人獣にする実験をしていた……」
(まずいな。これが本当なら東京周辺はもう人獣の世界になっているぞ。いや、待てよ。この島に吊るされた人間。おそらく彼らは人獣化に失敗したと見るのが妥当だろうか)
「そして、確実に……人獣になる殺し方が見つけた。」
「言ってみろ。」
「それは、首筋を噛んで、人獣の細菌を血管内に入れること。それが人獣化成功の殺し方。」
「要はヴァンパイアって訳か。もう聞きたいことはない。」
「ま、待って、」
刹那、最上咲奈の心臓が再生し、隊長を蹴り飛ばす。
しかし隊長はすぐ着地し、トドメを刺しに行く。
最上咲奈の回し蹴りを、受け止める。そして、右のストレートで顔を吹き飛ばす。頭が吹き飛んだ体を地面に投げ、心臓を踏み抜いた。
「た、隊長……」
「終わったよ。」
「奥から、人獣が……」
気づいたら周囲を人獣に囲まれていた。その時、本部から連絡が入る。
「最上咲奈という人間を確保が新たな任務である。また、最上咲奈の討伐及び殺害は認められない。」
「は?」
なんで俺たちが会ったこの女の事を把握してるんだ?
それにおかしい。確保?殺害も認められない?
俺たちはハメられたのだ。
おそらく彼女の事を知っている人間がいたのだろう。
そして、俺たちを彼女に消させようとしたのだろう。
増殖した人獣。この人数を相手に、再生が完了してない部下を守りつつ戦うのは厳しかった。
「……どうするかな……」
ため息をつき、少し考えることにした。




