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新しい仲間

「お、お久しぶりです」

雅之まさゆきは動揺しながらも、頭を下げた。


しんちゃんのお見舞い?」

「あ・・はい。でも、帰ります」

「どうして?」

叔母がそう尋ねると、雅之は黙っていたと思うとフッと笑った。

「俺と会うといつもケンカになっちゃうし」

「そんなこと言わずに顔だけでも見ていきなさいよ」

「いえ、帰ります」

そう言って雅之は急いで病院を出ていった。

「会いたいくせに雅ちゃんは素直じゃないわね」

「そうですね」


美由紀みゆきは叔母に雅之が来た日のことを話した。

「そんなことがあったのね」

「えぇ。嘘を言ってるように見えなかったですし、本当に切ない気持ちになりましたよ」

「ほんとねぇ」

そう言って病室に入ると、伸之が目を覚ましていた。

「起きたのね」

「うん。あ、美由紀」

寝ぼけ顔に思わず「おはよ」と声をかけると、嫌味だと思われたのか「・・・もう朝じゃねぇよ」と睨まれてしまった。


「それだけ減らず口が叩けるなら大丈夫ね」

美由紀が隣に座ると、叔母はお茶買ってくると病室を出ていった。


「ねぇ、さっき聞こえてたんじゃない?」

「・・・何が?」

「病室の前にお兄さん来てたよ」

「・・・だから?」

この反応は絶対に気づいている。

「心配してたよ」

「心配してるポーズだろ?いい人ぶりたいだけなんだよ」

「それは違う!違うよ。」

美由紀は真っすぐに伸之を見たが、それを避けるように伸之は視線を逸らした。

「お兄さんはいつだって伸之のこと考えてるよ」

「なんだよ、お前は俺らのこと何も知らないだろ?」

「全部は知らないけど、知ってることもあるの」

「何だよ、それ」

伸之は不貞腐れて布団にもぐってしまった。

このまま雅之の思いが伸之に伝わらないままなんて、絶対よくない。

どうするべきか―


「やっぱライブね」

亜由美はそう言ってオレンジジュースを飲んだ。

いつも偉そうなのにコーヒー類は飲めず、オレンジジュースを飲むところは可愛い。

「どういうこと?兄弟げんかにライブって」

亜由美をカフェへ呼び出して、伸之と雅之のことを相談してみたのだ。

「伸くんがライブをしたら、それを見てお兄さんは感動するだろうし、伸之はライブ後は機嫌良いから上手くいくよ」

「そんな上手くいくかなぁ…でもライブはさせてあげたいとは思う」


中庭ライブが出来なくて伸之はかなり悔しがっていた。

ライブが出来れば、伸之ももっと気持ちを強く持てるかもしれない。


「そうと決まれば、いつどこでライブするかよね」

「やっぱり病院の中庭じゃない?外出許可出てないし」

「でもそれじゃあ伸之の良さが発揮できないでしょ?大体前のライブだって私が違う場所でやろって言ったのに」


あの中庭ライブを話した日、亜由美はバン!と病室に飛び込んでくるなり、大きな声で言った。


「ライブハウスでライブしましょ!」


目を白黒させている美由紀と伸之に畳みかけるように、ライブハウスの図面を広げた。


「おじいちゃんの知り合いがやってるから安く借りれるの!」

「ちょっと、ちょっと待って。ライブハウスって伸之の外出許可も出てないし、そもそも病院の方からの依頼なんだから」

そういって不服そうな亜由美とやりたそうにしている伸之を説き伏せたのだ。

結果として伸之が体調を崩し、ライブどころではなかった。

その時から亜由美は諦めてなかった。


「そうは言ってもさ・・・」

「ライブハウスにしてたら、伸くんの気持ちだって違ったかもじゃん。病は気からなんだからね」

「いやいや、病は気からなのは賛成だけど・・・」

美由紀が反論しようとしたが、それを手で制すると「今回こそ私に任せて!」とニヤっと笑った。


「大丈夫なの?」


「当たり前でしょ?私はマネージャーなんだから」


亜由美は自信満々にそう言うと、早々に帰って行った。

「勝手なんだから」

亜由美はマイペースだけど、いつも伸之のことを思って行動してくれている。

私にもきつい言い方することはあるけど、敵意がないのはわかっている。

「いい子だな」

美由紀はふぅと息を吐くと、コーヒーに口をつけた。


「おはようございます」

いつものように喫茶店のバイトに出勤すると、マスターが手招きしてくる。

奥の方の席を指差して、「お客さん」と困った顔をしている。

指を差している方の席には、金髪でピアスが複数ついている男性が見える。

後ろ姿だけで、知り合いではないのはわかる。


「私にですか?」

マスターに確認するが、頷かれるだけだ。

マスターに促されて、ゆっくり慎重に席に近づいた。


「あ、あの・・・」


美由紀が声をかけると、男は嬉しそうに立ち上がった。


「透明デイズの美由紀さん?」

「えぇ・・・そうですけど」

「俺、あのステージに感動しちゃって」

私の手を取って両手で握ると、ブンブン嬉しそうに上下に振ってくる。

あの音楽祭の演奏を見て、今日は訪ねてきたらしい。


「えっと、・・・バンドの方?ですよね?」

「うん!あの時オーディションに一緒に出てたんだ。Black Signalってバンドなんだけど」

「Black Signal・・・って、優勝したバンド!?」

「覚えててくれたんだね」

「圧倒的に人気だったので」

「ありがとう。でも納得してないとこあって」

男は力が抜けたように、ドサっと席に座ると、ため息をついた。

「正直さ、俺らって顔がいいからビジュアルで売ってるとこあって…その点君達は違うだろ?」

羨ましいセリフだ。

人生で一度は言ってみたいものだ。

褒められたのかけなされたのかわからない気持ちになったが、表情を見ているとどうも褒めているようだ。

「俺はずっと曲とか演奏で売れたいなって思っててさ。どうしたらいいんだろってずっと考えてたんだけど、そんな時君たちの演奏を見て感動してしまって・・・」

その時のことを思い出したのか、なぜか涙ぐんでいる。

「一度話して見たくなった。どうやってこんな音楽を作ったのか、どうして二人で息ぴったり演奏できるのか、絶対にオーディション終わったら話そうって思ったんだけど、あの後ボーカルの子が倒れたって聞いたから。気になって、気になって・・・」

「それで来てくれたんですか?」

「うん」

男は子供のように無邪気で眩しい笑顔で頷いた。

「・・・えっと、ありがとうございます」

泣きそうになったり、笑ったり、コロコロ表情の変わる人だ。

とりあえず悪い人ではないようだ。


「あのボーカルくんは大丈夫?どうしてる?」

「今は入院してます」

「そうなんだ・・・。じゃあ演奏は?」

「最近は少しギター触るくらいですかね」

「そりゃそうだよね、病院にいるんだもんね」

「でも今度ライブしたいなって思ってて・・・」

「本当!?聞きに行きたい」

「それはぜひ。まだ何も決まってはないんですけどね」

「俺も協力する。出来たら一緒に演奏したい」

そう言って美由紀の手を取った。

男はウキウキした顔をして「連絡先を教えとくから」と、家の電話番号をレシートの裏に書いて美由紀の手のひらに乗せた。

「俺は津島つしまさとる。んじゃ、また」

そういって、コーヒーをグッと飲み干すと出ていった。


その晩に早速このことを電話で亜由美に話した。

「マジ?すごいじゃん。あの人たちメジャーデビューするらしいしさ」

「なんか変わった子だったよ。悪い人ではなかったけどね」

「確か・・・津島慧ってベースの担当だったんだよね。折角なら本当に一緒に演奏してもらおうよ」

「そんなの頼むの申し訳ないよ。他のバンドの人なんだし」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。少しでもいいライブにするためなら何でもしなきゃ。伸之にとって大事なライブなんだから」

「・・・そうだね」

亜由美との電話を切ったあと、考えたくもないことを想像してため息をついた。


(伸之にとって最後のライブかもしれない)


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