母の青春
「夢乃、再生できる?」
「んー、ここはDVDの再生しか・・・あ、ひいおじいちゃんの部屋にビデオデッキあるかも」
そう言われて、おじいさんの部屋へ移動した。
「少し埃っぽくてごめんなさいね。両親が亡くなってから、祖父の部屋もあまり掃除出来ていなくて」
早速夢乃がガチャガチャとコンセントを差したり、配線を確認すると、ビデオをデッキにいれた。
ガチャと吸い込まれていく。
びりびりと少し砂嵐が流れて、すぐに再生される。
星夜祭の日の映像のようで、そこらに星夜祭と書かれた旗が映っている。
「今から透明デイズのライブが始まります!最高のバンドなのでぜひ聞いてください!」
明るい声に高校生の頃の亜由美の顔が映った。
そしてしばらくすると、伸之と若かりし頃の母がステージに上がってきた。
母は緊張しているのか真っ白な顔をして、明らかに作り笑顔を浮かべている。
見てるこっちが緊張してしまいそうだ。
「では、今回この星夜祭のために作った曲を歌わせていただきます」
「聞いてください、スターナイト」
伸之の声で演奏が始まる。
初めて聞く母の歌声にキーボードの演奏。
最初は緊張している様子だったのに、だんだん笑顔が増え、楽しんで演奏しているように見える。
母の青春がここにある。
キラキラと輝いて、でも脆く儚くて・・・
そしてあっという間に演奏は終わった。
観客からの大きな拍手が起きる。
思わず、美奈も一緒に画面に向かって拍手した。
そして透明デイズとバンド名を発表し、ライブは大成功で終わっていった。
「これを音楽祭のオーディションに私が勝手に出したのよね」
そう言って亜由美はいたずらっぽく笑った。
「母はこんなに楽しそうにバンド活動してたんですね」
「そうよー。いつも私なんてとか言ってたけど、すごく楽しそうだったわ。伸くんとも仲良くてね・・・ほんとに羨ましかった」
まるで高校生の頃に戻ったように亜由美は口を尖らせた。
「あの頃が一番楽しかったわ。私は結婚もしたし、子供たちもいて、幸せな瞬間はたくさんあった。でも、人生振り返ると1番楽しかったのはあの頃ね」
「母もきっとそうだったと思います」
美奈がそういうと、そっと亜由美が近づいてきた。
「どうしてそう思うの?」
「・・・こんな風に笑うことは私の前ではなかったから。笑うことはもちろんあったんですけど、こんな無邪気な笑顔見たことないです」
「…そう」
「母はいつも強くて優しくてそういう人だと思っていたんですけど、母の過去を知れば知るほどなんだか違って。こんなに夢を追いかけてた人だったのに、私には夢を追いかけることを否定したりして・・・それで母がわからなくなって、こうやって母の過去を知る人に会ってるんです」
「美由紀が夢を追いかけるのを否定したの…そう…」
亜由美はそっと美奈の手を握った。
「お母さんはきっとあなたを守りたかったのね」
「父も同じこと言ってました」
「・・・そう。伸くんのことがきっと影響してるのね」
「伸之さんのこと?」
「えぇ。・・・きっと素敵な恋だったから・・・すごく大事な人だったから、別れは相当辛かったはずだもの」
亜由美の目にうっすらと涙が浮かんだ。
1993年5月3日―
世間はゴールデンウィークで連休が続いている。
大学も休みなので、美由紀は出来る限り伸之の病院へ通った。
「こんにちは」
病室へ入ると、叔母が伸之のベッドの横の椅子に座っていた。
伸之は眠っているようだ。
ここ1週間は微熱が出ており、中庭でギターを弾くことも出来ていない。
中庭のライブも当日に伸之の体調が悪くなり、医者から許可が出なかった。
伸之も悔しそうにはしていたが、相当しんどいのか抵抗はしなかった。
「美由紀ちゃん、いつもありがとうね」
「いえ。伸之さんは寝てるみたいですね」
「さっきまで起きてたんだけどね。昨日はしんどくて夜眠れなかったみたいだから」
叔母さんはそういうと、伸之の汗を濡れタオルで優しく拭いた。
「少し話せるかしら?」
「はい」
二人でコーヒーを片手に休憩室に座った。
「この間はごめんなさいね。突然、もうあまり長くないなんて言って」
叔母はそう言って頭を下げた。
慌てて「気にしないでください」と頭を上げるように言った。
簡単に受け入れることは出来なかった。
いや、今も受け入れてはいない。
病気が治る可能性を今でも信じている。
それでも、現状を知ることが出来て美由紀は良かったと今では思っている。
あの時は絶望し、嘆き悲しんだが、今では何も知らずに伸之を失うよりよっぽどいいと思っている。
「あの時私も動揺してしまって何も考えずにあなたに話してしまって」
「いえ、むしろ感謝してます。今の時間を大事にできますし、もっと伸之を支えたいって思えましたから」
「ありがとう」
その後は他愛のない話をして、病室に戻った。
病室の近くまで行くと、部屋の前で男の人が立っている。
「雅ちゃん?」
叔母さんに声かけられて「あ、わ!」と驚いていたのは雅之だった。




