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小さなお友達

伸之のぶゆきの家を出ると、辺りは暗くなっていた。

コツコツと歩く靴音が街に響いている。

今日に限って人がいなくて、静かな街を歩いていると暗闇に吸い込まれそうな気持になる。


(伸之のこと何も知らないんだな、私は・・・)


伸之の家の鍵をぎゅっと握りしめた。


(なりたいな・・・支えに)


ギターケースを背負い直すと、少し歩く速度を上げた。


「よし」

早速中庭でギターに触れると、伸之は嬉しそうに弦をはじいた。

次の日病院へ行くと、中庭ならギターを弾いてもよいと許可が出ていた。

我慢できずに伸之が先に許可をとっていた。

中庭には大きな花壇があり、様々な植物が植わっている。

冬だから花はないが、きっと春になったら綺麗な花が咲くのだろう。

空を見上げると、綺麗な青空だ。

太陽のエネルギーを植物が大きく吸い込んでいるように緑が濃く揺れた。


「早く退院してライブやりてぇ」

「退院はいつできそうなの?」

「今はまだ検査結果待ちだからわからない。でもこれだけ元気だからすぐ退院できるだろ」

伸之の声は明るく、本当に体の調子はいいようだ。


「伸之は本当にライブ好きだよね」

「当り前だろ?あんなに楽しいこと、他にねぇよ」

「じゃあ早く治さないとね」

「あぁ」

二人でのんびりしていると、小さな女の子が駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、それギターって言うんでしょ?」

「そうだよ」

女の子は不思議そうな顔をして、ギターに顔を近づけている。


「この弦をはじくと音が出るんだ」

伸之が音を出すと、女の子はパチパチと拍手をした。

女の子はパジャマに上着を着たような格好なので、きっと入院している患者だ。

歳は5歳くらいだろうか。

クリクリの瞳に頬が赤くて愛らしい顔をしている。


「森のくまさん弾ける?」

「弾けるよ」


伸之はギターで弾きながら歌うと、女の子も嬉しそうに合わせて歌い始めた。

女の子は歌い終わると何度も「すごーい」と拍手をした。


「歌、すごく上手だね」

美由紀がそう言うと、「ママに教えてもらったの」と照れくさそうに笑った。


「お名前はなんて言うの?」

麻友子まゆこだよ」

「麻友子ちゃんか。私は美由紀で、こっちが伸之」

「こっちって、お前」

「美由紀ちゃんと伸之くん、覚えた!」

「覚えてくれてありがとう、麻友子ちゃん」

「まゆでいいよ」

「まゆちゃんね」

3人で話していると、「まゆちゃーん」と看護師が探している声がした。


「まゆちゃん!」

看護師が怖いのかさっとまゆは伸之の後ろに隠れた。

「ダメでしょ、今日はお部屋にいなきゃ」

「だって・・・注射打つんでしょ?」

「良くなるためには必要なの。まゆちゃんも早く病気治して、お家に帰りたいでしょ?」

麻友子は不服そうではあるが、納得したのか伸之の背中から出てきた。

「さ、行こう?」

看護師に連れられて、歩き始めたがすぐに振り返った。


「またお歌うたってくれる?」

「もちろんだ、約束な!」


伸之がそういうと、小さな手を振りながら病院の中に戻っていった。

「あんな小さいのに闘ってるのね」

「そうだな」

どうか麻友子の病気がよくなるように美由紀は祈った。

「伸之って小さな子には優しいのね」

「別にいいだろ」

「私にも優しくしていいのよ?」

「可愛げがない奴には優しくできねーよ」

そういうと、ギターを弾き始める。

綺麗な音が中庭に響いた。


そこから麻友子は中庭で伸之が演奏しているとやってきた。

伸之が演奏して、3人で歌う。

麻友子はいつも楽しそうに笑い、元気よく歌う。

それがなんだか楽しくて、美由紀自身も楽しみになっていた。


「何、この子?」

テスト期間を終え、亜由美あゆみがやってきた。


「私は麻友子だよ。いつもお兄ちゃんとお姉ちゃんと歌うたってるんだよ。お姉ちゃんの名前は?」

「私は亜由美だよ」

亜由美は子供が苦手なようだったが、麻友子はお構いなしだ。

「亜由美お姉ちゃん。覚えた!」

「まゆはすぐに名前を憶えて偉いな」

伸之が頭を撫でると、嬉しそうに麻友子はぴょんぴょん跳ねた。

「まゆちゃん」

看護師さんに迎えに来られ、「またね」と小さな手を振って麻友子は病室に帰っていった。

「小さい子だね」

亜由美は小さくつぶやいた。

「うん」

「親はついてないの?」

「お母さんは下の子を妊娠していて、お父さんは遠方で単身赴任してるみたい」

麻友子が時折話してくれる内容をつなぎ合わせると、母親は妊娠中であまり状態が思わしくないためになかなかお見舞いに来れず、父親は海外で単身赴任をしていて帰って来れる状況ではないらしかった。

寂しい気持ちはあるようだが、それよりも弟か妹が生まれるのを楽しみにしているようだった。


「私、お姉ちゃんになったらたくさんお歌をうたってあげるの」


そう言って今から張り切っていた。


「うちの姉貴と交換したいくらいだわ」

亜由美は姉がいるらしいが、亜由美よりも強いらしい。

どんな人なのか想像して少しぞっとしてしまった。

伸之は会話に入らず、ギターを弾いている。

伸之には兄がいる。

伸之の家の近くで何度か見かけたことがあるが、いかにも頭良さげな人だった。

伸之の兄を見る目がいつも冷たくて、あの頃から明らかに仲は良くなさそうだった。

美由紀は一人っ子なので、この辺りの感覚は正直わからない。

子供の頃は兄弟がほしかったが、今となってはいなくてよかったと思える。


(伸之のお兄さんは入院してること知ってるのかな)


聞いてみようとして伸之の方を見ると、ギターを抱えて嬉しそうに弦を弾いていた。

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