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2人で立つライブ


「さぁ、今日は本番よ!」


会場に入ると、亜由美あゆみは腰に手を当てて仁王立ちして胸を張っている。


「亜由美、お前が出るんじゃないんだぞ」


伸之のぶゆきにそう言われても気にする様子もなく、誰よりも張り切っている。


「私はマネージャー、いやプロデューサーみたいなもんでしょ?」

「亜由美は、ファンだろ?」

「ファン兼プロデューサーなの」

亜由美は口をとがらせている。

「今日の音楽祭りは3000人くらい来るらしいわよ」

「さ、3000!?」

亜由美の言葉に美由紀みゆきは頭がくらくらしてくる。

「前の星夜祭で・・」

「300人くらいだったかな」

「じ、10倍!?」

ますます頭が痛い。

「関係ねぇよ。人数が多くても、少なくても」


「今できる最高の音楽を演奏するだけ」


美由紀と亜由美で同時にハモった。


「・・・よくわかってんじゃねぇか」


音楽祭が始まり、会場はかなり盛り上がっている。

恐くて会場を見にいけていないが、控室でも盛り上がっている声が聞こえる。

早めに着きすぎて控室には誰もいない。

1次審査は、音楽祭の後半の予定だ。


「伸之、体調悪い?」

控室でキーボードをチェックしようとふと伸之の方を見ると、椅子に座って頬杖をついている。

いつもならすぐにギターのチェックを行うはずなのに、様子がおかしい。

伸之の顔色もあまりよくないように見える。


「いや、別に・・」

「なんか顔色が悪い気がするんだけど」

「気のせいだろ」


そう言って伸之はストレッチすると、少し元気になったのか「ライブ見てくる」と会場に行ってしまった。

あのメンタルの強さは本当に尊敬する。

今会場の盛り上がりなんてみたら、緊張で動けなくなってしまいそうだ。


「ねぇ、美由紀って伸くんと昔付き合ってたんでしょ」


突然亜由美に言われて、飲みかけの水を吐き出しそうになってしまった。


「え…あ、まぁそうだけど」

とんでもないぶっ込みに驚きつつ、動揺を誤魔化すように平静を装った。


亜由美は機嫌悪そうに「ふーん」と口をとがらせている。


「高校生の時、1年半くらいね」

「どうして別れたのよ?」

「それはまぁ・・・色々」

「今は?今はどうなの?」

「別にバンド仲間で、アルバイト仲間っていうか」

持っているペットボトルに視線を落とした。


「だったら、私が告白してもいいよね?」


亜由美がそう言って、ぐっとこっちに近寄って来る。

「まぁ・・それは私がどうこう言うことじゃないし」

「じゃあ私、この音楽祭終わったら告白するつもりだから邪魔しないでね」

「今日!?」

「そう。今日言うの」

「邪魔はしないけど・・・」

「私たちが付き合ってもバンドから抜けたりしないでよね。伸くん一人でも十分売れると思うけど、あんたがいた方が・・・まぁ音楽的にはいいみたいだからさ」

亜由美が少し恥ずかしそうに目を逸らした。

なんだかその姿が妙に可愛らしくて、美由紀は思わず笑ってしまった。


「何よ」

そういって亜由美はまた口を尖らせた。

「告白成功させるためにも、優勝してもらわなきゃ困るんだから!」

「わかったよ」


亜由美が告白したら、伸之は何と返事をするのだろう。

付き合ってしまうのだろうか。

亜由美と楽し気に笑っていた伸之を思い出すと、胸が苦しくなる。

伸之の音楽を否定して別れたのに、今更付き合おうとかそんなことを言えるはずがない。

亜由美のように素直に応援出来ていたら・・・


(違う未来があったのかな)


ぼんやりとそんなことを考えていると、控室に他のバンドがどんどん入ってきた。


気づけば少しずつ1次審査の時間が迫ってきている。

きっと余計に見えてるだけと思うが、ライバルたちのバンドがかなり上手そう見えてくる。


「あのバンドがそれなりにライブハウスで実績があるらしいわよ」


亜由美に小さく耳打ちされて、そちらを見ると男性4人組が座っていた。


「しかも、全員イケメンなのよ」


確かに金髪の男の子が見えるが、かなり整った顔をしている。


「ねぇ、勝てる気がしないんだけど」

美由紀が小さくそう言うと、「敵の様子見てくる」そう言って亜由美は他のバンドの方へ行ってしまった。


「優勝とか絶対無理なんだけど・・・」


そうつぶやくと、ぽんと肩を叩かれた。

振り返ると怒った顔の伸之が立っていた。


「・・・今なんて?」


「え?いや、何も言ってないよ」

「・・・ったく、気が弱すぎなんだよ」

「だって、普段は路上ライブで30人くらいの前で演奏してる程度なのに、3000人って、強気で行けって方が無理でしょ!」


「大丈夫。お前がピアノ含めてキーボードに触れていたのは16年くらいだろ?あいつらに演奏実績でも負けねぇよ。それに・・・」


「それに?」


「俺らは高3の時から気が合ってたし、相性がいい。今の時点で劣ってるところなんてねぇよ」


「そう…なの?」

「そうなんだよ。ほら、これでも食べろ」


手のひらにはいつものようにチョコが置かれた。


「いつもチョコ持ってんの?」

「まぁな」

いつものほろ苦くて甘い味が口の中に広がっていく。

「二人でステージ立つんだもんね」

「俺がいるから失敗なんてありえねぇよ」

「バーカ」


伸之は少し口元を緩めると、同じようにチョコを口へ放り込んだ。


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