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透明デイズ

ステージの階段を駆け上がる。

息を吸い込んで、顔を上げると予想以上の人の多さに背中に汗が流れる。

2人で頭を下げると、大きな拍手に包まれる。

美由紀たちが目的で来ているわけではなく、ついでに見に来ているだけの人がほとんどだ。

私達に期待しているわけではない、そう思ってもこれだけの人がいると緊張する。

ちらほら見たことある人もいて、高校の同級生も見に来ている。


(緊張する―)


そう思っていると、視線を感じてステージ前方を見ると、亜由美がこっちを見ている。


「いつも通り」


口パクでそう言ってくれている。


(いつも通り・・・いつも通り・・・)


伸之が挨拶をして、美由紀もぺこりと頭を下げた。


「では、今回この星夜祭のために作った曲を歌わせていただきます」


「聞いてください、スターナイト」


鍵盤に指を置く。


(今日もよろしくね)


最初はキーボードのソロから始まる。

ゆっくりと優しく音を奏でていき、ギターの演奏が重なると、さらに穏やかで切ない心地よい音楽が流れていく。


「星輝く夜に別れたその瞬間から、君を思う幸せな日々が始まる」


伸之の優しく淡い声がステージに響く。


「この星降る夜に100年先でも君に会いにいくよ」


亜由美が歌を聞きながら、右手を挙げて左右に振ると、みんなが真似をして一斉に左右にゆっくり振り始める。

ステージと観客が一体になっていく―


(気持ちいい・・・)


最後まで弾き終えると、大きな拍手が起きた。

「ありがとうございました!」

二人で頭を下げる。


「今までずっと俺の名前で活動していたんですけど、僕たちの一番のファンが俺たちのバンド名を考えてくれたということで、今日ここでバンド名を発表したいと思います」


伸之がそう言うと、ワーッと会場が一斉に盛り上がった。

ライブに必死になっていたが、バンド名も決まるのだ。

伸之が亜由美からもらった手紙を開いた。


「えっと・・・僕らのバンド名は・・・」


「透明デイズです!」


観客達がワーッと盛り上がり、亜由美も親指を立ててこっちを見ている。


「何色にも染まらずに日々を輝かせる歌を作れるようにという願いがこもっているそうです」


思ったよりいいバンド名で少し驚いた。

初めて聞いたのにしっくりくるし、思いも込められていて素敵だ。


「これから透明デイズをどうぞよろしくお願いします」


再び二人で頭を下げると、割れんばかりの拍手が起こり、ライブは大成功に終わった。


「終わったぁ・・」

ステージの裏まで戻ると、美由紀は腰が抜けたように座り込んだ。


「お疲れ」

伸之はそう言うと、隣にしゃがんだ。


「俺もさすがに緊張したわ」


ステージの方から「では今から30分消灯します!」という司会者の声がして、一斉に電気が消えた。


「綺麗」


見上げると、綺麗な星空が広がっている。

伸之もじっと星空を見ている。


(あの頃と何も変わらないな)


「私さ、ずっと弾き続けたい」

「え?」

「この先もずっとキーボード弾き続けたい。人を元気にできるような曲を演奏したい」

「ふーん」

「ふーんってバカにしてんの?」

「バカになんてするかよ。俺も同じなんだから」


どうか神様、お星様。

この願いがどうか叶いますように。


1993年1月3日―


「早く!」

美由紀がせかすが、「眠いんだって・・・」としんどそうに伸之は後ろからだるそうに歩いてくる。


「バイトの前に参拝しなきゃ。三が日終わっちゃうでしょ」


「いいって、神頼みは」

「何言ってんの!?オーディションに受かろうと思ったら、運の強さも大事なんだからね」


我々透明デイズは、1993年の間にデビューすることを目標に掲げた。

まずは運を味方につけるため、だるいとうるさい伸之を引っ張って朝から星降神社にやってきたのだ。

二人で並んで、二礼二拍手で願いごとをすると、一礼して参拝を終えた。


「ちゃんとお願いした?」

「あぁ。せっかく5円払ったんだからな」

「5円!?」

「ご縁があるようにだよ」

「そりゃ普段はそれでいいけど、デビューをお願いするならもっと高くても・・」

「こういうのは気持ちだ、気持ちが大事なんだよ」

そういうと伸之は大きく口を開けて欠伸をしている。


「まったく・・・。昨日は寝てないの?」

「あぁ。なんか寝付けなくてな」

「実家には帰ったの?」

「いや、帰ってねぇよ」


伸之は一人暮らしをしているが、実家からそう遠くは離れていない。

一駅くらいしか離れていないので、すぐにでも帰れるはずなのだが、何かあるのか家に帰ろうとしない。


「そうなんだ」

そこに踏み込むことは出来ない。

何もかも無邪気に聞けるほどもう私達は子供じゃない。

「さ、願掛けも終わったし、バイト行くぞ」

伸之が少し早足で歩き始める。

「ねぇ、ちょっと早いって」

やっと追いつくと、伸之は「運動不足じゃねーの」と揶揄うように笑った。


この笑顔が続くように私はもう少し隣で頑張りたい。

「うるさい」

美由紀は伸之の隣に立って歩き始めた。

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