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デビューを目指して

「どうだ?出来そうか?」

伸之に聞かれて、手でOKとサインを出す。

曲が出来れば、その後はスムーズに進められる。

アレンジを加えたり、歌い方を変えてみたり、ㇵモってみたりして曲は完成していった。

そしてあっという間にペンションのバイトも最終日となり、ペンションを出る時間になった。


「忘れ物ないかい?」

「はい、確認したので」

「今年はなんとかして星夜祭に行くから、頑張れよ」

オーナーはそう言ってお土産に手作りお菓子をくれた。

「ありがとうございます」

二人で頭を下げると、帰りのバスに乗り込んだ。


バスはがたがたと揺れながら、どんどん手を振るオーナーを小さくしていく。


「楽しかったね」

「あぁ」


伸之は何か考え事をしているのかぼんやりしている。

窓の外に目をやると、海が見える。

夕日に照らされて、今日もキラキラと水面はオレンジ色に輝いている。


「ねぇ」


「ん?」

「会いに来なさいよね」


「は?」


「もし幽霊になっても、私には会いに来なさい。きっとその時には言いたいこといっぱいあると思うから説教してやんなきゃ」


「なんだよ、それ」

「私より先に死ぬなんて絶対許さないんだから」


伸之は少し吹き出すように笑うと、「仕方ないから、行ってやるよ」そう言って目を閉じた。


「まぁあんたみたいなタイプは長生きするだろうけどね」


美由紀がそう言ったが、伸之は寝てしまったのか返事はなかった。

バスが揺れる度に伸之の肩が触れる。

美由紀も静かに目を閉じた。


◇◆◇


「頑張ってね。あんた、足を引っ張らないように」

亜由美は、美由紀を一瞥すると、「おじいちゃん達呼んでくる」そう言って喫茶店を出て行った。

今日は作ってきた星夜祭のテーマソングを祭りの実行委員に聞いてもらう日だ。

マスターにお願いして、喫茶店を午後から審査用に貸切った。

最終的に曲を使うかどうかは今日の審査次第と言われていた。

実行委員は6名。

みんなそれなりに歳を重ねているようだ。

好みに合うかわからない。

美由紀は心配からかなり緊張したが、伸之は全く気にしていないようだ。

「やるぞ」

伸之の掛け声で演奏を始めた。

曲が始まると、実行委員の人達も手拍子をしてくれて、のってくれた。

最後は大きな拍手をもらって、演奏は大成功となった。

亜由美は立ち上がってオーバーなくらい拍手をされたのがなんだか恥ずかしかったが。


「おじいちゃん、いいよね?この曲」


亜由美が甘えるようにそういうと「もちろん」と吉田さんは頷いた。

孫には甘いようで、何でもOKにしちゃうようだ。

他の役員の人たちも、町会長が良いというならOKというスタンスらしく、あっさりテーマソングとして認められることになった。


「こんなにあっさり決まるとはな」

毎年星夜祭には、何百という人がやって来る。

その人たちの前で演奏し、歌をうたう―。

今から想像するだけで美由紀は胃が痛くなってくる。

横の伸之を見ると、わくわくが勝っているようで「楽しみだ」と呟いていた。


「そんなに楽しみなの?」

帰って行った実行委員の人たちのカップを下げながら、伸之の方を見ると嬉しそうにギターを握っている。

「当り前だ。これから事務所とかに売り込むときの強力な材料になるからな」

「売り込み?」

「そうだ。何かしらこういう経験があれば、事務所のオーディションとかに合格できる可能性も高くなるだろ」

「オーディション受けるの?」

「当り前だ。メジャーデビューするのが今の目標なんだからな。まずは事務所に入らないとな」


伸之は音楽で食べていく気なのだ。

でもその決意は美由紀にはまだ出来ていない。

そんな中でメジャーデビューなんてことになったら困ってしまう。

取らぬ狸の皮算用

まだ決まってもないことで悩む必要はない。

気持ちを切り替えると、伸之に向き直った。


「ねぇ、伸之」

「なんだ?」


嬉しそうに伸之が笑っている。

高校生の時に見せてくれていたあどけない笑顔をこちらに向けている。


今更これからも音楽続けるか悩んでいます、なんて言えそうにない。

本心では自分はどうしたいのだろう。

いや、本当はどうしたいか答えが出ている。

ただ周りから色々言われそうで、それを理由に自分で出した結論から目を背けているだけだ。


「・・・私、頑張るよ!」

「おぅ」

その後は、マスターからお祝いで喫茶店のケーキを奢ってもらった。

そのケーキは甘くておいしいはずなのに、美由紀は心にかかるもやを晴らせずにいた。

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