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冬の思い出

「冬の祭りって服装に迷うなぁ」


美由紀みゆきは白のニットワンピースを着てみるが、丈が短くて神社に行くには向いていないかもしれない。


神社は少し離れた小さな山の中腹にある。そこまでは緩やかな坂道と階段が続いているので、動きやすい服装の方がいいかもしれない。

鏡の前でくるくるまわって何度も着替えて、何とか服装を決めると美由紀は家を出た。


外に出ると一段と今日は風が冷たい。

ニットワンピを着なくて正解だ。

伸之のぶゆきとは神社のある山のふもとで待ち合わせをしていた。

待ち合わせの場所に近づく頃には、日が傾きはじめ、辺りをうっすらと夕日のオレンジと夜がかった紫が覆って始めていた。


「美由紀」

呼ばれて振り返ると、伸之もちょうど待ち合わせの場所に着いたところの様だった。

「寒いねぇ」

美由紀はちらりと伸之の手を見た。

大きくて硬そうな手は、触れられそうなくらい傍にある。

「あぁ。日が傾くとほんとに冷えるな」

伸之はそういうと、ポケットに手を突っ込んだ。


「美由紀、なんでそんな眉間に皺を寄せてるんだ?」

「・・・別に」


素直に言えない自分が悪いとは思うが、少しは察してほしい。

そんな気持ちで膨れていたが、たくさんの出店を見ると一気に忘れてしまった。


「すごい!たくさん出てるね」

夏祭りで出店は見たことはあるが、ここまでたくさんの出店は見たことがないし、この町内にこんなに人がいたのかと思うほど人がたくさん集まっている。


「美由紀は、星夜祭に来るのは初めて?」

「うん。初めて」


両親から夜に出歩くことは固く禁止されていたので、夜にある星夜祭なんてもちろん参加できるはずもなかった。

今日も高校の友達の家で勉強すると言って強引に家を出てきたのだ。

おかげで祭りに必要のない教科書が鞄に入っている。


「ねぇ、たこ焼きと焼きトウモロコシとベビーカステラ食べたい」

美由紀がそういうと「色気ねぇな」と伸之はクスクス笑った。


「いいじゃない!美味しい物、好きなんだもん」

「俺も好きだよ」


伸之はそう言って笑うと、美由紀のワガママに付き合ってくれた。

出店で買う食べ物は、いつもと違ってより美味しく感じる。

この祭りの雰囲気がそうさせるのかもしれない。


「このたこ焼き美味しい」

伸之は優しく目を細めながら、「そうだな」と言って伸之も一口頬張った。


「そろそろ時間だな」

伸之が時計を見てそう言うと、一斉に出店の明かりが消えた。


「え?なんで?」

美由紀が驚いていると、「しっ」と伸之は口に指をあてると、そっと上を指差した。


空を見上げて、美由紀は思わず息を飲んだ。

この世のどの宝石でも勝てないくらい、満点の星空がキラキラと輝いていた。


「すごい・・・」

「星夜祭は21時になると、30分だけ電気を消すんだ。星が綺麗に見えるだろ?」


囁くような声で伸之が耳元で説明してくれる。

星と月の明かりで伸之の横顔が見えた。

なんだか恥ずかしくて、星を見つめていると、ふと手が温かくなった。

ぎゅっと握られた手から体温が伝わって来る。

心臓が飛び出るほどドキドキするというのはこういうことかと美由紀は思わず片方の手を胸に手を当てた。


ドクドク・・・


(もう少し、もう少しこのままでいたいな)

美由紀は星に小さく祈った。



◇◆◇


「おい、お前ぼんやりしたと思ったら、何で顔赤いの?」

ギターを持った伸之が不思議そうな顔でこちらを見ている。


「な、何よ!」

「何よ、じゃないから。曲作ろうって言ってるのに、赤くなって、変な奴」

「ちょっと、何よ。その言い方!」

「はいはい、とりあえず曲作るぞ」


伸之はあの日のことを覚えていないのだろうか。


あの日、一緒に笑い合ったこと、星が綺麗だったこと、初めて手をつないだこと―


私の中には全部残っている。

どれも綺麗で、儚くて、切ない。

思い出は綺麗であればあるほど、楽しければ楽しいほど、終わってしまうと胸を苦しくさせる。

美由紀は胸に手を当てた。


ドクドク・・・


確かに心臓は脈を打ち、あの時とは同じ音が響いていた。


曲作りは順調に進んだ。

ペンションに来て2日目には、大体のメロディーも伸之が早々に作りあげ、美由紀はアレンジに取り組み、伸之は歌詞を考えるのに没頭していた。


「もう4日目か~」


美由紀はあっという間だなと思いながら、オーナーに頼まれた買い物帰りに海を眺めた。


冬の海というのも悪くない。


夜の海は飲み込まれそうで怖いが、昼間見れば夏も冬も反射する水面が美しい。


(星夜祭でライブか…)


星夜祭のテーマソングを作って歌うことが出来たら、いいきっかけになるかもしれない。

伸之は将来シンガーソングライターとしてメジャーデビューを目標にしている。

このことで、何かいい影響があれば・・・と考えて、ふと我に返った。


「私はどうするんだろう」


伸之がデビューして売れたとして、自分はどうしたいんだろう。


一緒にデビューする―


すぐに恐ろしい顔の両親が頭に浮かんだ。

許してくれるはずがない。


(私の人生なんだし…)


じゃあ両親の反対を押し切って、家を出て・・・なんて思うが、それがどれだけ高いリスクを背負うことになるのか十分に理解できてしまう。


こういう時、中途半端な人間は良くないと美由紀はいつも思う。

天才は困ったことや選択を迫られた時、頭を使って上手く切り抜けられる。

バカは困ったことや選択を迫られた時、リスクなんて考えずに自分のしたいことを信じて進める。

中途半端な人間は、どちらにもなれずに、選択も出来ず、悩んでばかりになってしまうのだ。


いつかは伸之と離れて、別々の道を歩まないといけない日がくる。

その時私はちゃんと自分の足で歩けるだろうか。

胸がざわつき、なんだかイライラしてくる。

美由紀は防波堤に上がると、辺りを見回して大きく息を吸った。


「うわあああああああ!」


海に向かって大きな声で叫んだ。

悩みも不安も打ち消すように、波が美由紀の叫び声をかき消していった。


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