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彼の未来

「新曲の件なんだけど」


伸之のぶゆきの声がうわずっている。

まだ完全ではないと言っているが、自信があるようだ。

「聞かせてよ」

「おぉ」

まだ大枠だけだけどなと言いつつ、伸之はギターを握った。


今回はバラードではなくポップな曲だ。

カラフルな音のイメージが浮かんでくる。

目を閉じると、青空とキラキラ靡く海が浮かぶ。

どこまでも続き、綺麗で輝く世界だ。


「今回は未来をテーマに考えて作ってみたんだ」


弾き終えると、満足気に伸之がへへと笑った。

普段はクールな表情が多いのに、音楽のこととなると少年のような笑顔を見せる。

(その笑顔も悪くない)

何考えてるんだ、私は。


「明るくて覚えやすいメロディーだね」


私は誤魔化すように感想を述べた。


「覚えやすくを意識したからな」

伸之は頷いて、口角が上げた。

褒められたいポイントだったようだ。


「まぁこのままでも悪くはないけどさ、アレンジを美由紀にお願いしたいんだけどいいか?」


「私?」


「前の曲も美由紀みゆきのおかげでかなりいい曲になったしな。俺はもう少し歌詞を練らないといけないし」


「・・・わかった。やってみるよ」


美由紀は曲を楽譜に起こすと、家へ持ち帰った。

家に帰るとすぐにキーボードの前に座った。

ヘッドホンをつけ、キーボードに手を置く。


(いい作品に出来るように力を貸してね)


一音目の音を出す、この瞬間が一番緊張するし、わくわくする瞬間でもある。

美由紀の手は動き出した。

書かれた楽譜に沿って、指は元気に、時には落ち着くように跳ねた。

全てを弾き終わると、ふぅーっと息を吐いた。


「やっぱ、結構いい曲かも」


いい曲であるからこそ、アレンジするのは少し緊張する。

中途半端ではだめだ。


「どういう歌詞になるかにもよるな」


どういう曲にしたいかでアレンジも変わるだろう。


「未来か」

伸之は未来をテーマに考えたと話していた。

ここから先の自分の未来はどうなっていくのだろうか。

大学を卒業して、どこかで就職して、結婚して、子供を産んで歳を重ねていくのだろうか。

「未来とかわからないよ」

美由紀は、キーボードから手を離すと、ベッドにごろんと横になった。


両親に、結婚して子供産んで主婦になる未来が一番幸せなのだと子供の頃から聞かせられてきた。

でも心のどこかで本当にそれが幸せなのだろうかと疑問に思っていた。

特にピアノを本格的にやり始めてからは、どんどんその思いは膨らんでいった。

でも結局大学へ行き、夢を諦めた。


でも伸之は音楽を作り、ライブをし、いつかは有名になって、たくさんの人に曲を届ける、というのを夢に向かって努力をしている。

すごく素敵な夢だが、叶う可能性があるかと問われれば、自信を頷くことはできないだろう。

アーティストとして有名になるというのは、ほんの一握りの人間だけなのだ。


でも、伸之は未来をテーマにした曲で、こんなに明るくポップな曲調にしてきた。


伸之には、この曲のように明るい未来が伸之には見えているということなのだろうか。


「羨ましいな・・・」

思わず本音がこぼれた。


◇◆◇


「美由紀!」

翌日美由紀が大学の食堂でぼんやりとうどんを食べていると、結子ゆうこが走ってきた。


「結子?どうしたの?」

「あんた坂東先輩振ったの?」

「・・・まぁそうなるのかなぁ」

「何呑気な声出してんのよ」

「でもどうしてそのことを知ってるの?」

「坂東先輩、他の女の子と手をつないでたのよ。美由紀に告白して返事待ちだったはずなのに他の女といるってことは、美由紀が断ったんだなって思って」

「断ったって言うか・・・まぁなんていうか」

「どうして断ったのよ?言ったでしょ、あんな優良物件はないって」

「まぁ、そうかもしれないけどさ」

「ま、でも振られてすぐ他の女になびくような男は、断って正解かもだけど」

結子はそこまで言うと、「私もお昼買ってくる」と買いに行ってしまった。


ふと窓の外を見ると、たくさんの大学生が行き来している。

前は坂東先輩がよく外から手を振ってくれた。

でももう新しい人がいるのなら、私に手を振ってくれることはない。

なぜだかほんの少し寂しい気がして、自分ってずるいなとため息をついた。


美由紀はその日を境になんだかサークルに顔を出すのが気まずくて、ほとんど行かなくなった。

その分空いた時間はアルバイトと音楽に時間を割いた。

それは寂しい時間ではなく、夢に向かって歩いているような、かけがえのない時間だった。

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