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2人でライブ

新曲を歌い上げ、ライブが終わると、拍手に包まれた。

自分が携わった曲が皆に受け入れられてると思うと、胸が熱くなってくる。

すぐに声をかけたい気持ちを抑え、お客さんがいなくなった後、美由紀みゆき伸之のぶゆきに駆け寄った。


「ねぇ、今日はいつものお客さんだけじゃなくて、5人も立ち止まってくれてたね。clearいい曲だもんね」


なんだかしばらくライブを見守っていたせいか、お客さんが増えたことも自分のことのように嬉しい。


「あぁ」


「今日は平均して15人くらい聞いてくれてたから、来週は20人が目標だね」


「そんなトントンと拍子にお客が増えればいいけどなぁ・・・そう簡単には・・・」


「どうしたの?」


伸之の表情が曇っている。


「何か納得いかないとこでもあったの?私はすごい良かったと思ったけど」


「なんかやっぱり足りない気がしたんだよな」


「何か足りない・・・か」


美由紀は今日の演奏を思い浮かべながら、片づけを手伝うが答えは出そうにない。

新曲もみんな拍手してくれたし、実際に自分もいい曲だと感じた。

それでも足りない何かってなんだ?と思いながら、美由紀は小さな声ででclearを歌っていると、伸之の手が止まった。


「美由紀」

驚いた顔でこちらを見ている。

「な、何?」


「美由紀、ちょっと歌ってみてくれよ」


「え?」


「簡単にでいいから、歌ってみてくれ」

「簡単って言われても、困るよ。私は歌とか自信ないから恥ずかしいし」

「いいから、頼む」


伸之に必死に拝まれると断り切れない。

仕方なく、美由紀は腹をくくると、clearを歌った。

伸之は途中からギターを演奏しながら、一緒にハモっていく。

最初は嫌々だったのに、ハモリで綺麗に音が重なって一つの曲になっていくのが気持ちいい。

歌い終わると、気づかぬうちに周りに数人立っていて拍手されてしまった。

恥ずかしくてぺこぺこ頭を下げると、「良かったよ」「頑張ってね」とお客さんに言われてしまった。


「美由紀って歌上手かったんだな」

「いや、上手くはないよ。普通じゃないかな?ピアノのおかげで耳はいいから、音合わせるのは得意かもしれないけど」


「あのさ」


伸之が真剣な顔で美由紀を見た。

この後に言われることが美由紀は予想できた。

言われて頼まれたら断れないから、言われたくない。

そう思いながらも、静かに伸之の言葉を待った。


「俺と一緒にやらないか?」


◇◆◇


美由紀は押し入れから出したキーボードに手を置いた。

ヘッドホンを耳に着けて、演奏を始める。

長年ちゃんと弾かなかったせいで指は固いが、感覚が覚えている。

なんとか楽譜通りには演奏できるが、人前で演奏できるレベルではない。


(これは相当練習しなきゃだぞ)


美由紀は腹をくくると、袖をまくった。



「お腹痛い…」

美由紀はキーボードを準備しながら、真っ白な顔で嘆いた。

伸之は面倒くさそうに「便所行ってこい」とこちらを見ずに言ってくる。


「そういうのじゃないから!緊張してるの!」

相変わらずのデリカシーのなさに呆れる。


「緊張か、俺も最初は緊張したなぁ」


今日は初めて一緒に路上ライブで演奏する。

キーボードの演奏は慣れているので、そこまで緊張はない。

ただ歌に関しては、人前で披露するのは音楽会で歌った以来だ。

メインボーカルは伸之で、美由紀は一部コーラスでハモるくらいだがそれでも人前で歌うのは恥ずかしい。

失敗したらと考えるだけで、お腹がキューっと痛く締め付けられる。

高校の時も軽音部で過信した結果ミスをしてしまい、伸之に助られた経験がある。

でもワクワクしているのも事実で、今日も断ったり、逃げることも出来るのに、ここに来ている。


「色々考えずに楽しめばいい」

「そんなの緊張してるのに無理だよ」

「無理にでも楽しもうとすればいいんだ。こっちが楽しく歌って演奏すれば、それが相手にも伝わるんだから」

「楽しむ・・か」

美由紀はひと呼吸して、鍵盤に手をそっと重ねる。


(これからまたよらしくね)


キーボードに願掛けをする。

これはピアノをやってる時からの習慣だ。

発表会などの人前で発表する時は、ミスしないように心の中で祈っていた。

軽く自分の好きな曲を弾くと、心が落ち着いてくる。

大丈夫だよ、とキーボードが言ってくれてるような気がしてくる。


「いいじゃん」

「・・・当り前じゃん」


いつもの時間になると、固定のお客さん達が並び始めた。

手に汗をかいてくる。

初めてピアノの発表会に出た時くらい緊張しているのが自分でもわかる。

あの時はミスしても自分自身の評価に関わるだけで、他人に迷惑をかけることはなかった。でも今回は伸之の評価にも関わってくると思うと、プレッシャーに手が震える。


「皆さん、今日は新しいメンバーを紹介します」

そう言われて、美由紀はキーボードの前に立つと顔を上げお客さんと目を合わせる。


「キーボードを担当してくれる美由紀です」


紹介してくれる伸之に合わせて、ぺこりと頭を下げる。

その時、パチパチと拍手が鳴ったが、音は大きくはない。

顔を上げると、いつもライブを聞きにきている女子高生が、値踏みするように頭からつま先まで見て、認めないというように睨んでくる。


「じゃあ、まずは一曲目」と伸之の声で、キーボードに手を重ねる。


突然新メンバーなんて納得できないのもわかる。

こういう時に納得してもらうには、演奏で見返すしかない。

いけるか?と伸之から視線が送られてくる。


(やってやるわよ)


美由紀は小さく頷いた。


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