初出勤
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「緊張してるかい?」
「はい…とても…。」
今、私は、執務室の前におります。
誰の執務室かって?何と、王様の、です。
グレースさんの執務室は?と尋ねたら、あるにはあるけど、ほとんど王様の執務室で過ごすから、と言われ、今、ここにいる所存です、はい。
うぅ、緊張します。何と言ってもあの謁見の間以来ですから!
確かに最終的には謝ってくれたから、もしかしたらそんなに悪い方ではないのかもしれませんが、その前に剣を突き付けられているので、何とも言えません。
で、でも!私も、確かに間違ったことを言ったとは思っていませんし、後悔もしていませんが、一国の王様に対してなのだから、もう少し言い様があったかもしれません。
何にせよ、引き受けたお仕事には全力で取り組まなければ!
「大丈夫です!行きましょう!グレースさん!!」
「クスクス。わかりました。では。」
そう言ってグレースさんがドアをノックする。そして中から入室を許可する声が聞こえた。
グレースさんがドアを開けてくれて、中へと促してくださる。
「王様、お久し振りでございます。本日よりグレースさんの補佐として王宮で働くこととなりました。よろしくお願いします。」
そう言って、ドレスをつまみ、淑女の礼をとる。
「ああ。」
…………。
えっと…。
「グレースさん、私はまずなにをしたら良いでしょう?」
わかってはいましたが、王様、目を通していた書類から視線を離し、こちらに向けることさえありませんでした。
私は今、お茶を入れています。これが、初出勤の初仕事です…。やっていけるのでしょうか。
お茶を入れ終わり、王様、グレースさんの順でお持ちし、王様には無言、グレースさんにはありがとうというお言葉と、眩しいくらいの微笑みを頂き、最後に執務室の端にあるこじんまりとした、ソファーとテーブルが置いてある所に座り自分もお茶をいただく。
…初仕事の後、いきなり初休憩です。
そんなふうにちょっぴり落ち込みながら、ふと目の前のテーブルに目をむけると、絵本が置いてある。
「これ、は?」
恐る恐る声を発し、グレースさんを見ると、ただ、いつもの眩しい笑顔があり、王様の方を向いて見ると、相変わらず執務でペンを握った手を動かしながら、
「簡単な読み書きなら出来るようになったと聞いた。空いている時間はそこの棚の物も含めて自由に使え。」
と、王様とは思えないぶっきらぼうな声。
ソファーの横の棚を見ると、そこには絵本がぎっしりとつまっていた。テーブル絵本も良く見ると、その下に紙を束ねたノートのような物と、その横にはペンが置いてある。
自然と頬が緩む。
「王様。」
自然と口から言葉が紡がれる。
ここにきて、初めて王様が顔を上げて、私を見る。
「ありがとうございます。」
「…励め。」
そう言ってまた書類に目を通す。
心なしか耳が赤い。
この絵本で、早く読み書きを覚えよう、と思いました。