↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が彼を魔王と呼ぶまで  作者: ぶん吉
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/60

第053話 友達

 山を下り始めた頃には、すでに昼を少し回っていた。


 朝よりも日差しは強くなっていたが、木々の間を抜ける風は心地よかった。祭りの日に山へ入った時とは違い、足元にまとわりつくような重さもない。


 ハミルは何度か振り返ったが、もう沢は見えなかった。


「そんな気になるか?」


 前を歩いていたソルガルトが振り返る。ハミルが足を緩めると、隣のレグルも歩調を合わせた。


「一応ね。何かまた穢れが溜まってきたら嫌だし」


「大丈夫だって言ってたじゃねえか、本人が」


「うん。本人も大丈夫だって言ってたしね」


「なら、あんまり心配すんなよ」


 横でレグルが小さく笑った。


 少し先を歩いていたエルガも会話が聞こえたのか、振り返る。


「山の精霊は、以前より安定していました。しばらくは問題ないかと」


「ほら、エルガも言ってる」


 ソルガルトが得意げに胸を張る。


「だから心配いらねえって」


 大きな声が山道に響き、鳥が一羽、驚いたように枝から飛び立った。


 その様子を見て、ハミルは少し笑った。


 山の精霊とソルガルトのやり取りも、昔からあんな感じだったのだろうか。


 何となくそう思ってから、ふと気づく。


「そういえばさ。ソルガルトって、あの精霊とも知り合いだったんだよね」


「ああ」


「他にもいるの?」


 ソルガルトが足を止め、怪訝そうに振り返る。


「何が」


「知り合い」


「いるに決まってんだろ。お前、俺を何だと思ってんだ」


「いや、別に」


 ハミルは少し考える。


 イルはずっと昔からソルガルトを知っている。山の精霊とも気安く話していた。レグルが生まれた頃のことも知っているらしい。


 それなのに、ソルガルト自身の昔の話はほとんど聞いたことがない。


「友達、多いの?」


「多いぞ」


 即答だった。


 ハミルが思わず笑うと、ソルガルトが眉を寄せる。


「何だよ」


「即答だね」


「当たり前だろ」


 レグルまで面白がるように口元を上げた。


「ずいぶん自信があるんだな」


「そりゃあるさ」


「ソルガルト様でしたら、各地にお知り合いはいらっしゃいます」


 エルガが助け舟を出す。


「ほら見ろ!」


「へえ、さすがだね」


「だろ?」


 また声が響く。


 ハミルは笑いながら歩き出した。


 山を下りれば、いったん祭りの村へ戻る。その後は南の街道を進むつもりだった。


 あの香辛料を村へ持ち込んだ商人は、次は大きな町へ向かうと話していたらしい。母親の話では、村を出て南の街道へ向かったという。まずはその道を辿り、商人の行き先を確かめたい。灰色の粒がどこで混じったのか、手掛かりが見つかるかもしれない。


「そういえば、南の街道沿いにも知り合いいる?」


「いるぞ」


 今度はソルガルトもすぐに答えた。


 エルガが横から補足する。


「何人かいらっしゃるはずです。人間も含めれば」


 ハミルは思わずソルガルトを見る。


「人間の友達もいるんだ」


「なんだその言い方」


「精霊の知り合いばっかりかと思ってた」


 ソルガルトは鼻を鳴らした。


「人間の方が多い時期だってあったぞ」


 それは少し意外だった。


 ソルガルトが人間を嫌っていないのは知っている。むしろ食堂や酒場では、誰よりも人間の輪へ入り込んでいた。


 けれど、それが今に始まったことではないらしい。


「その人たち、まだその辺りにいるの?」


「たぶんな。しばらく行ってねえから」


 嫌な予感がして、ハミルは横目で見る。


「しばらくって、どれくらい?」


「人間の方は、十年も空いてねえと思うぞ」


「それは思ったより最近だね」


「精霊の方は……数十年くらいか?」


 今度こそ、ハミルは足を止めた。


「それ、久しぶりって言わない?」


「精霊ならそんなもんだろ」


「俺に聞かれても」


 レグルも肩をすくめる。


 エルガだけは当然のように頷いていた。


「ソルガルト様は各地を巡られますので、同じ場所へ戻るまで時間が空くことは珍しくありません」


「そうなんだ」


 ハミルは少し考えてから、前を向いた。


「じゃあ、商人を探すついでに会っていけばいいんじゃない?」


「誰に」


「さっき言ってた知り合い。近くを通るなら、久しぶりに会ってもいいんじゃない?」


 ソルガルトが目を瞬く。珍しく、すぐには返事が来なかった。


「急に行ってもいるか分かんねえぞ」


「いなかったら仕方ないじゃん」


「そりゃそうだが」


 ハミルが横から顔を覗くと、ソルガルトは少しだけ視線を逸らした。


「嫌なの?」


「嫌じゃねえよ」


 今度は即答だった。


 そのまま少し黙って歩いたあと、ソルガルトが前を向いたまま言う。


「……まあ、顔くらい見てくか」


「うん」


「ついでだからな」


「分かった分かった」


「何だその返事」


 また始まったやり取りに、レグルがため息混じりに笑う。


 山道を下りきると、先ほど上から見えていた祭りの村が近づいてきた。村へ続く道は、その先で南の街道へとつながっている。


 宿へ戻って荷物をまとめれば、今日のうちに少しは進めるだろう。


 ハミルは隣を歩くソルガルトを横目で見た。


 いつもと変わらない。声は大きく、歩幅も広い。エルガへ何か言っては淡々と返され、レグルにはからかわれている。


 その身体に見える穢れも、以前ハミルが引いたあとから大きく変わったようには見えなかった。


 だから、その時は何も気に留めなかった。


 南の街道を進む目的は、あくまで香辛料を運んだ商人の足取りを追うことだ。


 ただそこに、ソルガルトの昔の知り合いに会うという楽しみが、一つ増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。