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強化倍率∞ ~最弱スキル《装備超強化》だけで異界を統べた男~  作者: 伝説の男前


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第7章:異界進出編(後編)

### 第59話 並行世界の影


 異界の民から語られた「複数の世界」という伝承は、単なる昔話では済まされないものだった。


「この世界のさらに外側に、幾つもの並行する世界が存在する――そういった記述が、古い神殿の遺跡に残されているのです」


 異界側の学者が、古びた石板をハルトたちの前に示した。石板に刻まれた文様は、ドルシスの故郷の技術とも、ノアの持つ世界樹の記録とも、微妙に異なる体系を示していた。


「もし本当に、無数の世界が存在するのだとしたら……」


 ヴェルミナが、慎重に言葉を選びながら呟いた。


「その中には、この大陸や、この異界を脅かすほどの力を持つ世界があっても、おかしくはないわね」


 その予感は、程なくして現実のものとなった。異界の国境付近で、これまで見たこともない、異質な気配を纏った軍勢の目撃情報が、次々と報告され始めたのだ。


「――どうやら、のんびりしている暇はなさそうだな」


 グレンが、剣の柄に手をかけながら、静かにそう呟いた。


---


### 第60話 盟約連邦構想


 新たな脅威の気配を前に、ヴェルミナは一つの構想を打ち出した。


「大陸側の同盟と、この異界の勢力とを、正式な盟約のもとに統合しましょう。互いに独立を保ったまま、共通の脅威に対しては、一致して立ち向かえる体制を」


 それは、単なる軍事同盟にとどまらない、大陸と異界を跨いだ、新たな統治の枠組みの提案だった。


「盟約連邦、か。悪くない話だ」


 グレンが、異界側の有力者たちとの橋渡し役を買って出た。異界の統治者たちの中には、大陸からの介入に難色を示す者も少なくなかったが、迫りくる未知の脅威という共通の危機感が、最終的に交渉を後押しすることになった。


「ハルト殿の強化技術は、我々異界の民にとっても、既に欠かせないものとなっております」


 異界の技術者長が、そう述べたことも、交渉の大きな追い風となった。


 こうして、大陸五勢力と異界諸国とを結ぶ、「盟約連邦」の構想が、正式に動き出すことになった。


---


### 第61話 内部の軋轢


 だが、盟約連邦の樹立に向けた交渉は、決して平坦な道のりではなかった。


 大陸側の各勢力――王国、帝国、神族、竜族――は、それぞれ異なる思惑を抱えており、異界との統合における発言権や利権を巡って、水面下での駆け引きが繰り広げられていた。


「王国としては、盟約連邦における主導権を、譲るつもりはありませんぞ」


「あちきら竜族は、そもそも人の営みに深く関わる気はありんせん」


 シズカと紅蓮を交えた協議の場で、意見の対立が表面化することもあった。ヴェルミナは、その都度、粘り強く各勢力の利害を調整していった。


「今、私たちが結束を欠けば、迫りくる脅威に、まともに立ち向かうことすらできなくなるわ」


 ヴェルミナの言葉に、次第に各勢力も、大局を見据えた妥協点を探るようになっていった。


 この一連の交渉の中で、ハルトもまた、単なる技術者としてだけでなく、各勢力の橋渡し役としての役割を、少しずつ担うようになっていった。


「あなたの強化した武具は、種族や国家の垣根を越えて、皆に必要とされている。それは、あなたにしかできない役割よ」


 ヴェルミナの言葉が、ハルトの中に、静かな自覚を芽生えさせていた。


---


### 第62話 侵略者の影


 盟約連邦の交渉が大詰めを迎えた頃、異界の国境地帯に、ついに未知の侵略者の姿が現れた。


 禍々しい紫の甲冑を纏い、統率の取れた動きで進軍してくる軍勢――のちに「深淵軍」と呼ばれることになる、別の並行世界からの侵略者だった。


「あの甲冑……これまで見てきたどの技術体系とも違うわ」


 ヴェルミナが、斥候の報告書を検分しながら、険しい表情を見せた。深淵軍は、この大陸の魔法とも、異界の技術とも異なる、独自の「侵蝕」と呼ばれる力を操るという。


「侵蝕された土地は、次第に深淵軍の支配領域に変質していくらしい。もし放置すれば、この異界全土が、遠からず飲み込まれることになるだろう」


 グレンの言葉に、居並ぶ盟約連邦の代表たちの間に、緊張が走った。


「悠長に交渉している場合ではなくなったわね」


 ヴェルミナの一言で、盟約連邦の樹立は、これまでにない速さで最終合意へと進むことになった。共通の脅威を前に、大陸と異界の勢力は、ついに一つの旗のもとに結束することになったのだった。


---


### 第63話 総力戦、開戦


 盟約連邦軍として初めての大規模作戦――それは、深淵軍の進軍を食い止める、大陸と異界にまたがる総力戦となった。


 ハルトはこれまでの経験を総動員し、盟約連邦に集った、あらゆる勢力の武具と兵器の強化に取り組んだ。王国の剣、帝国の魔導兵器、竜族の力を宿した得物、神族の宝具、そして異界の技術による兵装――理解すべき対象は、これまでにない規模と多様性を誇っていた。


「侵蝕への耐性を、武具に付与できないかしら」


 ヴェルミナの提案に、ハルトは深淵軍から回収した侵蝕の残滓を、慎重に分析していった。未知の力への理解は困難を極めたが、ノアの持つ世界樹由来の知識と、ドルシスの異界技術の知見を借りながら、少しずつ突破口を見出していった。


【対象:盟約連邦軍・主力武具群/理解度:58%/強化倍率:上限×22000(侵蝕耐性付与)】


 強化された武具を手にした盟約連邦軍は、深淵軍の前線と、ついに正面から激突することになった。


---


### 第64話 激戦の果てに


 戦いは、これまでのどの戦闘よりも苛烈なものになった。


 深淵軍の兵は、侵蝕の力によって、傷を負ってもなお止まることなく進軍を続けてくる。だが、ハルトが施した侵蝕耐性は、盟約連邦軍の兵たちを、着実に守り抜いていった。


「レティシア、右翼が崩れかけている!」


「任せて!」


 強化された長剣を手に、レティシアが戦線を支える。ガイウスとグレン、二人の剣才が並び立つ光景は、盟約連邦軍の士気を大きく押し上げていた。空からは飛竜騎兵隊が、地上からは神族の結界術と竜族の咆哮が、深淵軍の陣形を切り崩していく。


「――ここが正念場よ!」


 ヴェルミナの号令のもと、盟約連邦軍は、三日にわたる激戦の末、ついに深淵軍の指揮系統を寸断することに成功した。統率を失った深淵軍は、次第に侵蝕領域を放棄し、撤退を余儀なくされていった。


 戦場に静寂が戻ったとき、誰もが疲労困憊しながらも、確かな勝利の実感を噛みしめていた。


---


### 第65話 盟約連邦、建国


 深淵軍の撃退から数ヶ月後、大陸と異界を跨いだ「盟約連邦」の建国が、正式に宣言されることになった。


 王国、帝国、レムアルドを含む小国群、神族、竜族、そして異界の諸国――かつて互いに独立し、時に反目し合ってきた勢力が、共通の秩序のもとに結ばれる、前例のない試みだった。


「この連邦の礎には、間違いなく、あなたの存在があるわ」


 建国の式典の場で、ヴェルミナがそっとハルトに囁いた。


「俺は、ただ理解して、強化しただけです」


「それが、どれほど多くの人々の命を守ってきたか。もう、あなた自身が一番よく分かっているはずよ」


 式典には、王国の国王、帝国の使節、シズカ、紅蓮、グレン、そして異界の統治者たちが一堂に会していた。かつて追放され、たった一人で森を彷徨っていた男が、今や大陸と異界を結ぶ、盟約連邦という新たな秩序の中心に立っている――その事実に、ハルト自身、未だに実感が追いついていなかった。


---


### 第66話 違和感の種


 建国から間もないある夜、ヴェルミナが一人、ハルトのもとを訪れた。


「ハルト、少し気になることがあるの」


 彼女の手には、これまでのハルトの強化記録――理解度と強化倍率の対応を、事細かに書き記した大量の羊皮紙が抱えられていた。


「あなたのスキル、他のどんな加護やスキルとも、決定的に違う点がある」


「違う点、ですか」


「他の勇者たちのスキルには、必ず何かしらの上限がある。《剣聖の資質》にも、《雷神の加護》にも、《不死身の肉体》にすら、いずれ届かない限界がある。……でも、あなたのスキルだけ、理論上、上限が存在しない」


 ヴェルミナの声には、これまでにない緊張が滲んでいた。


「これは、あくまで仮説だけれど……もしかしたら、あなたのスキルは、他の勇者たちとは、根本的に『出自』が違うのかもしれない」


 その言葉に、ハルトは背筋に、うっすらとした冷たさを感じた。


「出自が違う……?」


「ええ。誰が、何のために、あなたにこの力を与えたのか。それを知る必要があるかもしれないわね」


 ドルシスの故郷、ノアの由来、そして世界樹――これまで積み上げてきた様々な出来事の断片が、この夜、初めて一つの疑問へと収束し始めていた。


---


### 第67話 次なる深淵へ


 ヴェルミナの指摘をきっかけに、ハルトたちは改めて、《装備超強化》というスキルの正体について、調査を進めることになった。


「儂の故郷にも、似たような伝承があったのう」


 ドルシスが、記憶を辿るように語り始めた。


「世界の均衡を保つため、時折、特別な『権限』を宿した者が生まれる、という話じゃ。もしお前のスキルが、その類のものだとしたら……」


「わたくしの記憶にも、断片的に、その話が残っておりますわ」


 ノアもまた、静かにそう付け加えた。


「世界樹様は、世界の魔力循環の均衡を保つため、時に特別な意志を、人の子に宿すことがある、と」


 これらの証言が指し示す先には、この大陸の中心にそびえる、世界樹の存在があった。


「大陸に戻って、世界樹そのものと向き合う必要があるようね」


 ヴェルミナの言葉に、一同は静かに頷いた。大陸統一、そして盟約連邦の建国という、大きな事業を成し遂げてなお、ハルトの旅路には、まだ見ぬ真実へと続く道が、確かに残されていた。


 剣も魔法も持たぬ最弱の召喚者が、自らのスキルの根源と向き合う――その最終章への幕が、静かに上がろうとしていた。


**(第7章・完/全90話中67話/異界進出編・完)**


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