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強化倍率∞ ~最弱スキル《装備超強化》だけで異界を統べた男~  作者: 伝説の男前


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第5章:大陸統一編

### 第39話 王国からの使者


 辺境騎士団への帰還からひと月と経たないうちに、砦に王国からの使者が訪れた。


「――相楽ハルト殿。国王陛下より、王都への召喚状をお預かりして参りました」


 仰々しい口上とともに差し出された書状には、王国騎士団への正式な招聘を告げる文言が並んでいた。かつて召喚の儀式で「鈍らを研ぐくらいはできよう」と切り捨てられた男に対する扱いとは、まるで別人へのもののようだった。


「今更、都合が良すぎませんか」


 オルグレンが、隠しきれない皮肉を滲ませながら呟いた。使者は気まずそうに視線を逸らす。


「陛下も、当時の鑑定結果を軽んじたことを悔いておられます。何卒、王都へお越しいただければと」


 ハルトは、その場で即答することはしなかった。辺境騎士団への恩義もある。だが、レムアルドでの一件以来、自分のスキルが大陸全体の勢力図に影響を及ぼしかねないことを、身をもって理解し始めてもいた。


「――少し、考える時間をください」


 その夜、ヴェルミナと二人で今後について話し合った。


「王都に行けば、より大規模な軍備に関わることになるでしょうね。でも、それは同時に、あなたのスキルの可能性を、さらに大きく広げる機会でもある」


 ヴェルミナの言葉に、ハルトは静かに頷いた。


---


### 第40話 王都にて


 王都に着いたハルトを待っていたのは、かつて自分を切り捨てた、あの大鑑定官その人だった。


「……すまなかった、と言うべきなのだろうな」


 白髭の老人は、決まりの悪そうな顔でそう切り出した。


「儂の鑑定眼も、まだまだ甘かったということじゃ」


 ハルトは、特に恨み言を口にするつもりはなかった。ただ、静かに頭を下げた。


「今は、それより、王国騎士団の武具を見せていただけますか」


 案内された王国騎士団の武具庫は、辺境やレムアルドとは比較にならないほど、質の高い装備で埋め尽くされていた。だが、その分、一振り一振りの構造は複雑で、理解に要する時間も膨大だった。


 ここでも、ハルトのやり方は変わらなかった。地道に、一つずつ観察し、理解を積み重ねていく。数週間かけて、王国騎士団の主力装備の底上げが進むにつれ、周囲の騎士たちの目も、徐々に敬意を帯びたものへと変わっていった。


 だが同時に、王国内の一部の貴族や騎士たちからは、成り上がりの召喚者に対する、隠しきれない反発の声も聞こえ始めていた。


---


### 第41話 帝国からの接触


 王国での滞在が落ち着いた頃、思いがけない相手からの接触があった。ヴェルミナのかつての所属先――帝国からの使者だった。


「ヴェルミナ・ロークハルト殿。帝国軍として、正式な協力関係を結びたいとの意向です」


 使者の言葉に、ヴェルミナの表情が一瞬、複雑な色を見せた。


「……帝国が、今更何の用かしら」


 その夜、ヴェルミナは珍しく、自分の過去について語り始めた。


「私はもともと、帝国軍の魔導参謀だった。だけど、上層部の腐敗した権力争いに嫌気が差して、辺境へと身を退いたのよ」


 帝国という国が抱える複雑な内情、そしてヴェルミナ自身がそこから離れた経緯を聞き、ハルトは初めて、この聡明な参謀の抱える背景の一端に触れた気がした。


「帝国との協力は、大陸の平和のためには必要かもしれない。でも、あなたを、あの権力争いの道具にはさせない」


 ヴェルミナの言葉には、これまでにない強い意志が込められていた。ハルトは、その言葉に静かに頷いた。


---


### 第42話 三国同盟


 帝国との交渉は、ヴェルミナの主導のもと、慎重に進められた。


 王国、帝国、そしてレムアルドを含む周辺小国――大陸東部の主要勢力による、対魔王軍を見据えた同盟が、少しずつ形になっていった。ハルトの強化技術は、その同盟の象徴的な存在として、各国の軍備底上げに活用されることになった。


「これだけの規模の装備強化を、一人でこなすなんて……正気の沙汰じゃないわね」


 帝国軍の技師長が、呆れと感嘆の入り混じった声を漏らした。


 ハルトは、以前にも増して多忙な日々を送るようになっていた。それでも、理解を積み重ねるほどに強化の精度が上がっていく実感は、彼にとって、単調な作業を続ける原動力になっていた。


「あなた、最近また少し変わったわね」


 ある夜、レティシアがふとそう漏らした。


「変わった、ですか?」


「前より、堂々としてきたというか……。まだ自分を勇者だとは思っていないでしょうけど、少なくとも、逃げようとはしなくなった」


 その指摘に、ハルトは少し照れくさそうに笑った。理解を積み上げることでしか強くなれない自分にも、確かに前進していると言える部分があるのかもしれない――そんな実感が、静かに芽生え始めていた。


---


### 第43話 魔王軍の影


 三国同盟の足並みが揃い始めた矢先、大陸北方から、魔王軍侵攻の報せが届いた。


「魔王ザガレス率いる軍勢が、国境の砦をいくつも陥落させたとの報告です」


 緊急招集された軍議の場に、緊張が走った。魔王軍は、これまで戦ってきたガルドニア軍とは、規模も質も次元が違う相手だった。


「魔王軍の兵は、弱者を切り捨てる効率主義で知られているわ。犠牲を厭わない分、その進軍速度は恐ろしく速い」


 ヴェルミナの説明に、居並ぶ将官たちの顔が青ざめた。


「ハルト、今回は今までとは規模が違う。同盟軍全体の装備を、可能な限り底上げする必要がある」


「……やります」


 迷いはあったが、これまで積み上げてきた理解が、今まさに試されるときが来たのだと、ハルトは静かに覚悟を決めていた。


 同盟軍の武具庫が、かつてないほどの規模で、ハルトのもとに開かれることになった。


---


### 第44話 老鍛冶師ドルシス


 同盟軍の武具強化を進める中、ハルトはひとりの老鍛冶師と出会うことになった。


 名を、ドルシス・ヴァイエルンという。帝国軍の御用達として知られる伝説の鍛冶師で、その打つ武具は、他のどの職人とも一線を画す精緻さを誇っていた。


「儂の打った剣を、さらに『強化』できるというのかね」


 初対面のドルシスは、値踏みするような目でハルトを見た。ハルトは緊張しながらも、ドルシスが打った一振りの剣を手に取り、丁寧に検分した。


 驚いたのは、その理解のしやすさだった。ドルシスの剣は、まるで最初から「理解されること」を前提に作られたかのように、無駄のない、極めて明快な構造をしていた。


「……この剣、まるで教科書みたいに理解しやすいです」


 思わず漏らした感想に、ドルシスは片眉を上げた。


「ほう。儂の剣を、そう評した者は初めてじゃな」


 ハルトが実際に剣を強化してみせると、ドルシスはしばらく無言でその出来栄えを検分した後、初めて表情を緩めた。


「――面白い。お前、儂の弟子にならんか」


 思いがけない申し出に、ハルトは戸惑いながらも、深く頭を下げた。


---


### 第45話 神族の巫女長


 魔王軍との緊張が高まる中、大陸南方に住まうという神族から、同盟への参加を打診する使者が訪れた。


 応対に現れたのは、神族の巫女長を名乗る女性――シズカだった。


「はんなり、ようおこしやす。此度は、大陸の危機に際し、我ら神族もお力添えできればと思いまして」


 柔らかな京言葉で語るシズカは、しかしその双眸に、只者ではない威厳を湛えていた。神族は、古くから独自の秩序を保ち、他勢力とは一線を画してきた存在だという。


「神族の宝具、いくつかお預けしてもよろしいでしょうか。あなたさまの強化とやら、拝見したく存じます」


 差し出された宝具の数々は、これまで扱ってきたどの武具とも異なる、独特の神聖な気配を纏っていた。理解に要する時間は、これまで以上にかかりそうだった。


 それでも、ハルトは一つ一つ丁寧に向き合い、神族の伝承や宝具に込められた意味を読み解いていった。シズカもまた、外交役としての手腕を発揮し、同盟内での神族の立場を、着実に固めていった。


「あなたさまなら、きっと。この大陸の均衡を、正しく保ってくれはるはずどす」


 シズカの言葉には、単なる社交辞令以上の、静かな信頼の色が滲んでいた。


---


### 第46話 竜族の長・紅蓮


 最後に接触することになったのは、大陸西方の山岳地帯に棲まう竜族だった。


 竜族の長は、紅蓮べにはすという名の、人の姿を取ることのできる古の竜だった。だが、その第一印象は、これまでの誰よりも冷ややかなものだった。


「人の子が、竜族の力を借りに来たか。虫のいい話じゃ」


 花魁言葉めいた独特の口調で、紅蓮はハルトたちを睥睨した。竜族はかつて、人間側との戦で多くの同胞を失った過去を持ち、人への不信が根強く残っているという。


「あちきらは、これ以上人の争いに巻き込まれる気はありんせん」


 交渉は難航した。だが、ヴェルミナが粘り強く対話を重ねる中で、紅蓮が抱える過去――かつて人間側の裏切りによって、伴侶を失ったという悲しい経緯が、少しずつ明らかになっていった。


「――魔王軍は、竜族の縄張りにも手を伸ばしてきています。このままでは、あなた方の同胞も、無事では済まないかもしれません」


 ヴェルミナの指摘に、紅蓮の表情がわずかに揺れた。


「……しばし、考えさせてもらいんす」


 即座の同盟締結には至らなかったが、対話の扉は、確かに開かれ始めていた。


---


### 第47話 竜族との和解


 数日後、紅蓮は自ら同盟の陣営を訪れた。


「あちきの牙、一本くれてやりんす。強化とやら、試してみやしゃんせ」


 差し出されたのは、紅蓮自身の抜け牙だった。竜族にとって、自らの身の一部を他者に預けるということは、並々ならぬ信頼の証だという。


 ハルトは、その牙に込められた竜族の歴史、紅蓮自身が背負ってきた悲しみを、丁寧に理解していった。文字盤が浮かんだとき、その理解度の高さに、ハルト自身も驚かされた。


【対象:紅蓮の抜け牙/理解度:83%/強化倍率:上限×48000】


 強化された牙から作られた短剣を手にした紅蓮は、しばらくその輝きを見つめていた。


「……悪くありんせんね」


 ふっと、初めて柔らかな笑みを見せる。


「人の子にしては、竜の心をよう分かっとる。この牙に免じて、竜族は同盟に加わりんしょう」


 こうして、竜族もまた、対魔王軍同盟の一翼を担うことになった。ハルトが積み重ねてきた「理解」は、武具の性能を超えて、種族間の断絶をも埋める架け橋になり始めていた。


---


### 第48話 魔王ザガレスとの決戦


 王国、帝国、レムアルド、神族、竜族――五つの勢力が結集した同盟軍は、ついに魔王ザガレスの本隊と、大陸中央の平原で相まみえることになった。


「弱き者を守るために、強き者が集う――滑稽な話だ」


 魔王ザガレスは、同盟軍を睥睨しながら、そう言い放った。


「弱者は淘汰されるべきだ。それこそが、この世界の理というものよ」


 その言葉に呼応するように、魔王軍の大軍が動き出す。だが、同盟軍の陣営には、ハルトが半年以上かけて強化し続けてきた、あらゆる勢力の武具と兵器が揃っていた。王国の剣、帝国の魔導兵器、レムアルドの投石機、神族の宝具、そして竜族の力――それらすべてが、一つの意志のもとに連携する。


「ハルト、あなたの積み上げてきたものが、今この瞬間に結実するのよ」


 ヴェルミナの言葉に、ハルトは静かに頷いた。剣を振るうことはできない。それでも、この戦場に立つすべての者たちの力を、少しでも底上げすることならできる。


 激戦は、三日三晩に及んだ。そして最終的に、魔王ザガレス本人が、同盟軍の総力の前に膝をつくことになった。


---


### 第49話 大陸統一


 魔王ザガレスの敗北をもって、大陸東部を長く脅かしてきた争いは、ひとまずの終焉を迎えた。


 王国、帝国、レムアルドを含む小国群、神族、竜族――かつて互いに一線を画してきた五つの勢力は、同盟軍としての戦いを経て、緩やかな協調関係へと移行していった。大陸全土が、実質的に一つの秩序のもとに統一されたのだった。


 戦後処理のさなか、ドルシスがふと、これまで語ることのなかった自らの過去を口にした。


「儂はな、もともとこの世界の生まれではないのじゃ」


 驚くハルトに、ドルシスは静かに語り始めた。かつて自分が、先史文明と呼ばれる高度な工業技術を持つ異界から、この世界に漂着したのだということ。そして、その故郷は、対立構造の果てに、すでに失われてしまったのだということ。


「お前のスキルを見ていると、儂は思い出すのじゃ。理解の積み重ねこそが、真の力になるという、儂の故郷の教えをな」


 その言葉は、ハルトの中に、まだ見ぬ「異界」というものへの、漠然とした興味を芽生えさせた。


 大陸の統一という大事業を成し遂げてなお、ハルトの心の中には、決して消えることのない違和感――「後方で震える最弱の自分」と「英雄視される自分」との乖離が、依然として横たわっていた。


 それでも、確かに一つの時代が、幕を閉じようとしていた。そして、大陸の外に広がる、まだ見ぬ世界への扉が、静かに開かれ始めていた。


**(第5章・完/全90話中49話/大陸統一編・完)**


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