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強化倍率∞ ~最弱スキル《装備超強化》だけで異界を統べた男~  作者: 伝説の男前


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第3章:小国戦争編(前編)

### 第21話 小国レムアルド


 街道を十日ほど進んだ先に、小国レムアルドの国境はあった。


 辺境騎士団の砦とは比べ物にならないほど古びた城壁と、明らかに数の足りていない守備兵。国境門をくぐった瞬間から、ハルトたちはこの国が置かれている厳しい状況を、肌で感じ取ることになった。


「よくぞ参られました、辺境騎士団の方々」


 出迎えたのは、レムアルド国王の名代を務める老臣だった。深く刻まれた皺の奥に、隠しきれない疲労の色が滲んでいる。


「大国ガルドニアの侵攻軍が、すでに国境から三日の距離まで迫っております。このままでは、我が国は……」


 言葉を濁す老臣に、ヴェルミナが地図を広げながら尋ねた。


「敵の兵力は? 装備の質は?」


「歩兵およそ三千。加えて、攻城兵器を多数携えているとの報告が」


 ヴェルミナの表情が、わずかに険しくなった。レムアルド軍の総兵力は、守備兵を含めてもわずか八百程度。数の上では、圧倒的な劣勢だった。


「レティシア、ガイウス。あなたたちの実力だけでは、この数の差は覆せない」


 ヴェルミナの視線が、自然とハルトへと向く。


「ハルト、ここからが本番よ。レムアルド軍が今持っている武具を、片端から見せてもらいましょう」


 案内された兵器庫には、年季の入った武具が並んでいた。国力の乏しさを物語るような、決して質の良いとは言えない装備の数々。だが、ハルトにとってそれは、絶望的な光景ではなかった。理解し、強化する対象が、そこに山ほどあるという事実だけが、静かな闘志を掻き立てていた。


---


### 第22話 国力差という現実


 兵器庫を検分したハルトは、その日のうちに、想像していた以上に深刻な現実を突きつけられることになった。


「これは……酷いな」


 多くの剣は刃こぼれだらけで、鎧は継ぎ接ぎだらけ。中には、農具を無理やり武器に転用したような代物すらあった。国庫の乏しさが、装備の質にそのまま表れている。


「恥ずかしながら、我が国には、まともな鍛冶師を雇う余力もございません」


 案内役の兵士が、申し訳なさそうに肩を落とした。


 だが、ハルトはむしろ、この状況にこそ自分のスキルの真価があるはずだと考え始めていた。


「――質の悪さは、理解のしやすさでもある」


 単純な構造の武具ほど、理解に要する時間は短くて済む。逆に、複雑な魔導兵器などは、理解に膨大な時間がかかる。今、レムアルド軍に必要なのは、限られた時間の中で、いかに多くの武具を底上げできるかだった。


「ヴェルミナさん、優先順位をつけたいです。数がどれだけ揃うか、質がどれだけ上がるか、両方のバランスを見て」


「いいわね。私が兵站表を作るわ。あなたは強化に専念して」


 その日から、ハルトは寝る間を惜しんで、レムアルド軍の武具を片端から強化していく作業に没頭した。理解度が浅くとも、数を揃えることに意味がある。それが、この戦況を覆すための、唯一の現実的な手段だった。


---


### 第23話 攻城兵器の強化


 武具の底上げと並行して、ハルトはもう一つの課題に取り組んでいた。レムアルド城壁に設置された、老朽化した投石機と防御用の弩砲だ。


 これまで扱ってきた個人用の武具とは規模が違う。理解すべき構造も、単純な刃物とは比較にならないほど複雑だった。


「投石機の腕の長さ、支柱の強度、巻き上げ機構の歯車の噛み合わせ……」


 ハルトは図面を引っ張り出し、レムアルドの老技師に話を聞きながら、一つ一つの部品の役割を丹念に読み解いていった。理解が及ばない部分については、実際に投石機を分解し、組み立て直す作業を何度も繰り返した。


 五日目の夜、ようやく最初の一台に文字盤が浮かんだ。


【対象:レムアルド城壁・投石機(一号機)/理解度:45%/強化倍率:上限×950】


 試射のために積み込まれた石塊が、これまでの倍以上の速度で射出される。着弾地点には、これまでの投石機では考えられないほどの深いクレーターが刻まれた。


「……こんな威力の投石機、王国軍でも見たことがないぞ」


 立ち会った老技師が、震える声で呟いた。ハルトはまだ、他の投石機や弩砲にも同じ強化を施していかなければならない。時間との勝負が続いていた。


---


### 第24話 飛竜との遭遇


 武具の強化が進む一方、レムアルド国境付近の空に、思いがけない存在が現れた。


「――飛竜だ! 飛竜が飛んでる!」


 見張り台からの叫びに、ハルトたちは慌てて外に飛び出した。空を見上げると、翼を広げた飛竜の群れが、国境の山脈を越えて飛来してくるのが見えた。


「敵の増援か!?」


 緊張が走る中、レムアルドの老臣が首を振った。


「いえ……あれは、この地に古くから棲む野生の飛竜たちです。人には懐かず、危険な存在として扱われてきました」


 だが、その飛竜たちの様子を観察していたヴェルミナが、ふと目を留めた。


「待って。あの群れ、明らかに何かに追われている動きをしているわ」


 よく見ると、飛竜たちの後方から、ガルドニア軍のものと思われる魔導兵器が、飛竜を追い立てるように攻撃を仕掛けていた。おそらく、ガルドニア軍が飛竜の縄張りを刺激し、こちらへと追いやってきたのだろう。


「このままだと、飛竜たちが我が国に被害を及ぼす恐れが……」


 老臣の懸念に、ハルトはふと、ある考えを思いついた。


「――もし、あの飛竜たちと、敵対せずに済む方法があったら」


 その一言に、ヴェルミナの目が鋭く光った。


---


### 第25話 飛竜との対話


 ハルトの提案は、突拍子もないものだった。


「飛竜の装具――もし彼らが身につけているものがあれば、それを強化して、敵意ではなく協力を引き出せないか」


「装具って、野生の飛竜に何もつけていないでしょう」


 レティシアが訝しむと、老臣が意外な事実を口にした。


「実は……この地の飛竜の一部には、古くからの言い伝えで、始祖の飛竜が身につけていたとされる、古い首輪の遺物が残っていると聞いたことがあります」


 案内された洞窟の奥、飛竜たちの巣に近い場所に、確かに古びた首輪が祀られていた。長年放置され、装飾としての価値以外、何の力も残っていないように見える代物だった。


 ハルトはその首輪に触れ、じっと目を閉じた。かつての飛竜と人との関係、始祖の飛竜がどのような存在だったのか、老臣から伝え聞いた伝承を頭の中で丁寧になぞっていく。


【対象:始祖飛竜の首輪(伝承遺物)/理解度:61%/強化倍率:上限×2200】


 文字盤が浮かぶと同時に、首輪がぼんやりとした金色の光を纏った。それを飛竜の縄張りの入り口に置いた瞬間、上空を旋回していた飛竜の群れの動きが、明らかに変わった。


 一頭の、ひときわ大きな飛竜が舞い降りてくる。威嚇するでも、襲いかかるでもなく、ただ首輪の光をじっと見つめていた。


「……この子、まるで何かを思い出しているみたい」


 レティシアが、息を呑みながら呟いた。


---


### 第26話 飛竜騎兵隊、誕生


 始祖の首輪に導かれるように、飛竜の群れは徐々に警戒を解いていった。


 完全に人に懐いたわけではない。だが、少なくとも敵対はしない――そんな、微妙な均衡が保たれるようになった。


「これなら、いけるかもしれません」


 ハルトは、老臣やヴェルミナと相談を重ね、一つの作戦を提案した。飛竜たちの協力を得て、即席の飛竜騎兵隊を編成するという、レムアルド軍にとっても前例のない試みだった。


 もちろん、簡単な話ではない。飛竜に騎乗するための鞍や手綱も、一から作り直す必要があった。ハルトはこれまでの経験を総動員し、飛竜の生態と、乗り手となる騎士たちの身体的特徴の双方を理解しながら、専用の騎乗具を強化していった。


「レティシア、乗り手をお願いできますか」


「望むところよ」


 初めて飛竜に跨ったレティシアは、最初こそ緊張の面持ちを見せていたが、強化された鞍と手綱の安定感に、すぐに表情を和らげた。


「――これなら、御せる!」


 空を舞う飛竜の背で、レティシアが快哉を上げる。地上からその姿を見上げていたハルトは、自分の理解が、また一つ新しい可能性を切り開いたことを実感していた。


 こうして、レムアルド軍は、開戦を目前にして、思いがけない切り札を手に入れることになった。


---


### 第27話 開戦前夜


 ガルドニア軍の侵攻が、いよいよ翌日に迫っていた。


 レムアルド城内では、慌ただしい最終準備が進められていた。強化された武具を配備し直し、投石機と弩砲の照準を調整し、飛竜騎兵隊の編成を確定させる――やるべきことは山積みだった。


「ハルト、少し休んだ方がいいわ」


 夜遅くまで作業を続けるハルトを見かねて、ヴェルミナが声をかけてきた。


「……すみません、あと少しだけ」


「無理をしすぎよ。あなたが倒れたら、元も子もないでしょう」


 ヴェルミナの言葉に、ハルトはようやく手を止めた。窓の外には、静まり返ったレムアルドの夜空が広がっている。明日には、この静けさが戦火に包まれるのだと思うと、胸の奥がざわついた。


「――怖い?」


 ふいに尋ねられ、ハルトは正直に頷いた。


「はい。俺は、剣も振れない。もし何かあっても、自分の身を守ることすらできません」


「それでも、あなたは逃げなかった」


 ヴェルミナの声は、静かだが確かな重みを持っていた。


「戦えないことと、戦いに関わらないことは、違う。あなたが強化した武具は、明日、多くの命を守ることになる。それは、剣を振るうのと同じくらい、いいえ、それ以上に価値のあることよ」


 その言葉に、ハルトは深く息を吐いた。恐怖は消えない。それでも、自分にできることをやり抜こうという決意だけは、確かに固まっていた。


---


### 第28話 開戦


 夜明けとともに、ガルドニア軍の侵攻が始まった。


 地平線を埋め尽くすほどの歩兵の列。その後方には、複数の攻城兵器が続いている。レムアルド軍の兵士たちの間に、隠しきれない緊張が走った。


「投石機、弩砲、射程内に入り次第、全力で応戦!」


 ヴェルミナの号令が響き渡る。ハルトが強化した投石機が、次々と巨大な石塊を敵陣に叩き込んでいく。これまでの老朽兵器からは考えられない威力に、ガルドニア軍の前線が、一瞬にして混乱に陥った。


「城壁の守りは、私たちに任せて」


 強化された胸当てと長剣を身につけたレティシアが、城壁の上から敵の様子を見据えていた。ガイウスもまた、剣を構えながら、不敵な笑みを浮かべている。


「――行くぞ!」


 上空から、飛竜騎兵隊が舞い降りてくる。始祖の首輪に導かれた飛竜たちが、レティシアたちを乗せて、ガルドニア軍の側面へと襲いかかっていった。


 地上からの投石と弩砲、そして空からの奇襲。数の上では圧倒的に不利だったはずのレムアルド軍が、想像以上の反撃を見せ始めていた。


 城壁の内側で戦況を見守るハルトの手には、休む間もなく次の強化対象――予備の武具の山が積まれていた。


---


### 第29話 最初の勝利


 激戦は、丸一日続いた。


 ガルドニア軍は、想定外の反撃に体勢を立て直せないまま、次第に後退を余儀なくされていった。飛竜騎兵隊による側面攻撃と、強化された投石機による正確な砲撃が、数の差を埋める決定打となった。


 夕刻、ガルドニア軍の撤退が確認されると、レムアルド城内には、堰を切ったような歓声が沸き起こった。


「勝った……! 本当に、勝ったんだ!」


 レムアルドの兵士たちが、抱き合って喜びを分かち合っている。老臣は、涙を浮かべながらヴェルミナたちに深く頭を下げた。


「辺境騎士団の皆様、そして――」


 老臣の視線が、ハルトへと向く。


「あなたのおかげで、我が国は救われました。この御恩、決して忘れません」


 周囲の兵士たちからも、次々と感謝の言葉が向けられる。だが、ハルトはその輪の中心にいながら、どこか居心地の悪さを感じていた。


(俺は、何もしていない。ただ、理解して、強化しただけだ)


 剣を振るったわけでも、飛竜に乗って戦ったわけでもない。それでも、多くの命が救われた事実は、確かにそこにあった。


 英雄視される自分と、後方でただ手を動かしていただけの自分――その間に横たわる奇妙な乖離を、ハルトはこのとき、初めてはっきりと自覚することになった。


**(第3章・前編/全90話中29話)**


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