23 売り子とコスプレ
ついに衣装も届いて冬の祭典当日が来た。
と言っても、初日ではなく、俺達は二日目に参加する。
冬の祭典には初めて来たが、逆三角形の独特な形の建物が近付く。
会場までミユちゃんと並んで歩いているが、本当にめちゃくちゃ人が多い。二日で30万人くらい来るんだっけか?
「でも実は同人誌とか売る会場はあの変わった形のところではないよ。東展示棟や西展示棟や南展示棟と呼ばれる平らな建物」
ミユちゃんが会場の説明をしてくれた。
「あ、そうなんだ」
「そんで今日は女性向けの西に行くからね」
「はーい」
そして売り子の俺はサークルチケットで入れたので、一般入場より早く会場入り出来た。
受け付けなどを済ませて更衣室でコス衣装に着替えてスペースに戻ると、俺がお手伝いするサークルのテーブルには既に布がかけられ、新刊と既刊が並んでいて、サークル主のレイコさんはポスターを手にしていた。
両隣りサークルが壁にポスターを貼ってるから、彼女も壁に貼るのだろう。
「着替えから戻りました、レイコさん、本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします! てか、ユウジさん、超かっこいいですね! 筋肉もあるし、ほんとにヒナタ兄さんコスが似合ってる!」
「ありがとうございます。ポスター貼り、手伝いましょうか?」
俺の方が背が高いので。
「あ、ありがとうございます! じゃあ私がポスターを押さえてますからテープを貼ってください」
俺はポスターを固定するためにテープを貼ったが、押さえてる人と自然に距離が近くなってしまう。
「貼れました」
そして速やかに女性から離れる。
「ありがとうございます、みゆちの旦那さん、柑橘系の凄くいい匂いしますね! ヒナタ兄さんとキャラ解釈一致!」
か、香ってしまいましたか!
「あ、ありがとうございます」
照れる。ミユさんがヒナタ兄さんコスなら柑橘系の香水が合う!と言って香水を軽くかけてくれたのだ。
「すみません、キモイですね、私」
ミユちゃんのお友達は嗅いでしまった事を気にしてるようだ。
「いえ、ミユちゃんがシュッとスプレーしてくれたんですよ、この香水。キツくない程度だと思うんですが、大丈夫ですか?」
「はい、至近距離だったので分かっただけなんで!」
「あはは! 臭くないならそれで大丈夫」
「ところで、涙袋のメイクは自分でされたんですか?」
「いえ、これはミユちゃんがやってくれました」
「みゆち、グッジョブすぎー! あ、麦茶とカロリーメイトはここにあるんで好きなタイミングでどぞ」
補給物資がスペース裏のキャリーの上に置いてあった。
「ありがとうございます」
俺と彼女の間にダンボールが置かれ、その上にプラスチックの道具箱みたいなのが用意されている。
「そんでお釣りはこのケースで、見本の手前に値札がついてますが、価格表もこちらに」
透明で硬質なプラスチックっぽいケースに紙が入ってて、それに本のタイトルと価格が書いてあった。
「あざす」
「それと、偽の硬貨に気をつけてください。日本のものじゃない500円玉に似たやつがあるので」
「はい」
「キャー! あそこのサークルに激ビジュのヒナタ兄さんいる!」
「ほんとだー! かっこいい!! 筋肉もすごい!素晴らしい再現率!」
「涙袋まであるー」
俺の方を見て知らない女性達が騒いでる。そこへミユちゃんも来た。
「モテてますねー、ヒナタ兄さん」
「みゆち! 旦那さんの兄さん再現度が素晴らしい!」
「ミユちゃん、おつかれー」
「あははは、涙袋上手く描けてるでしょ」
「うん! 天才!!」
地図を手にしたミユちゃんが他のサークル挨拶から戻って来たのだ。
サーチケくれた所に先に設営のお手伝いをしてたっぽい。
「おつかれは早いな、まぁだ、戦いはこれからよ」
「そうだね」
そして、全ての準備が整った頃、開催のアナウンスと拍手が会場に響き、開場となった。
スペース前には結構な列が出来て、最後尾の人は札も持ってるし、本は飛ぶように売れるし、冬なのにすごい熱気を感じる。
本も五百円と千円とかで計算しやすい価格設定になっているものが多い。
「あのー、兄さん、握手して貰っても?」
ホンモノではなく、ただのコスプレイヤーなんだが、ヒナタ兄さんのファンなんだろうな。
おれがチラリと隣のレイコさんを見ると、お好きにどうぞと言うので。
「では、俺で良けれは」
「キャー! ありがとうございます!」
新刊と既刊を全部買ってくれたことだし、握手もした。
たまにお宝ゲットを頑張りつつもミユちゃんが様子見に来てくれて、その隙にトイレに行かせて貰ったりした。
そして本が完売したので、コスプレゾーンに移動し、めっちゃ撮影された。
すんごい女性に囲まれたけど、男性もちらほら寄ってくる。
腐男子さんかな?
「ヒナタ兄さんかっけー! 筋肉すごいですね!」
男性も褒めてくれた。キャラ名も知ってるから、やはりキャラのファンだ。男性も乙女ゲームやるし、何もおかしくない。
「あのー、寒くなければ一瞬だけ腕まくりお願いしてもいいですか?」
「大丈夫ですよ」
女性がおずおずと、俺に腕まくりをお願いしてきた。今日はあんまり寒くないし大丈夫だ。
「男性の腕の筋肉が好きですみません! ありがとうございます! ありがとうございます!」
そんな2回もありがとうを。
「あはは、女性は男の手とか腕好きですよね」
「そうなんですよ!」
「あのー、ヒナタ兄さん、妹です! 一瞬だけ抱きついて写真撮らせて貰ってもいいですか?」
ヒナタ兄さんの妹コスの人が来て、俺にそう言った。
近くにいたミユちゃんも、(契約結婚に過ぎない為)当然ダメとはいわないので、
「あはは、妹に言われては断れないな」
「ありがとうございます!」
会場からホテルに向かう帰りに、大きなトートバッグを肩にかけてるミユちゃんに声をかけた。
「荷物持つよ」
「大丈夫だよ、本はほとんど会場から送ったし」
でも、数冊はホテルで読む用の本が入ってる気がする。夏コミで後悔してたし。
「動き回って疲れたろ、少しでも身軽になりな」
「……ありがとう」
俺は何故か、はにかむミユちゃんからトートバッグを受け取った。
このように和やかに過ごし、特にアクシデントもなく、楽しいイベント参加だった。




