21 クリスマス
「クリスマスはどうする?」
クリスマスシーズンが近づき、街はイルミネーションできらめき始めた。そんなある土曜日の夜。
リビングのソファでミユちゃんがぬいぐるみ用の新しい服を手縫いで作っていたところにクリスマスの予定を訊いてみた俺。
「クリスマスはレイドがあるので」
はっ! ゲームのレイドバトル!
「聖夜にゲームで戦いを……」
オタクらしい返事に俺は思わず笑った。まぁ、クリスチャンじゃないから別にいいんだけど。
「でもチキンとケーキを食べる時間くらいはあるのでそれは食べたい!」
そうだよね、多くの日本人にとってはクリスマスはチキンとケーキとプレゼントの日。
「それは良かった! じゃあ、チキンとケーキは俺が用意するよ」
俺がウキウキしつつそんな提案をすると、
「お金半分出します」
と、クールな返答が。素直に甘えて欲しかったが、これが契約結婚の壁!
「いいよ、そんなの、俺が食いたいだけだし」
「私も食べるし」
「じゃあ、クリスマスっぽいアイテムでも用意してくれたらそれで」
「ふーん? クリスマスリースとかでもいいの?」
「うん! いいね、リース」
ミユちゃんは握り拳を作って、ふんす! といった感じで気合いを入れた。
リースを買うのにそんなに気合いがいるのかな?
かわいいからいいけど。
とにかく飾り物のリースならば食い物と違い、彼女からは、形として残る物が貰えるってもんだ。
◆◆◆
そしてクリスマスの三日前。リビングのテーブルで、ミユちゃんは真剣な顔で作業をしていた。
「よし……ここはワイヤーで固定して……あ、葉っぱにグルーが!……花で隠すか」
眼鏡をかけ、髪を無造作に一つにまとめたミユちゃんが、グルーガン片手に松ぼっくりや赤い実と花とリボンを組み合わせている。
ビニール手袋の指先には接着剤の跡が少しついていて、頰にはうっすらと汗。
まさか、リースを手作りするとは!
100均にもあるだろうに。
「ミユちゃん、手作りだったのか……」
「せっかくだしね!」
照れくさそうに笑う彼女の横には、すでに完成間近のクリスマスリースがあった。市販品より少し不格好だけど、温かみがあって可愛い。
「買うかと思ってた」
「市販の方が良かった?」
「手が込んでなきゃくれって言いやすいかなと」
「こんなんで良ければあげるよ、もちろん」
ミユちゃんはそう言って、
「さあ、ユウジ君、好きなところに飾って」
俺は彼女から完成したリースを受け取り、壁に飾った。赤と緑の組み合わせが、部屋を一気にクリスマス仕様にする。
――そして、クリスマス当日。
イベントの合間に彼女は夕方から俺と一緒に過ごしてくれた。
テーブルには俺がオーブンで焼いたチキンと買ってきたブッシュ・ド・ノエルのケーキとポテトとピザ、そして壁には手作りのリース。
当然のように彼女はぬいぐるみやアクスタを取り出し、それらと共に撮影もしてくれた。
彼女の推しと撮って貰えるとは、誉れである!
「ユウジ君、このチキンうまいね……。やっぱり温かい作りたては最高、皮がパリッとして、中はふっくら」
ミユちゃんはフォークを口に運びながら、チキンの感想を言ってくれた。
「ありがとう、流石にケーキは市販のものだけど」
俺はケーキを切り分けながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「十分だよー」
ゲームの話で盛り上がり、美味しいものを食べ、最近見たアニメの感想を熱く語り、夜はふけていく。
「最高のクリスマスだ、酒も料理も美味いし隣には美女も居て」
「……美女!?」
「ミユちゃんは美女だと思う」
「褒めても何も出ないからねー」
「あはは、リースは俺が貰うからいいよ」
ミユちゃんは耳まで赤くして、照れ隠しみたいにポテトを食らう。
でも、口元が緩んでいるのが見えた。かわいい。
ツリーとキャンドルの灯りの側で、彼女の美しい黒髪と金箔の舞うシャンパンが輝く。
今夜はレストランで豪華なディナーとか出来なかったし、2人でイルミネーションの輝く街に繰り出したりもしなかったが、好きな人とクリスマスを同じ家で過ごせて幸せだ。
幸せを噛み締めていると、ミユちゃんがやおらソファから立ち上がり、
「レイドあるからお先にお風呂入らせて貰うね」
と、言った。
「うん、どーぞ、ごゆっくり」
「レイドあるからなるはやで済ますけどね!」
「はーい、湯冷めしないようにな」
「冬の祭典も控えてるしね! 風邪はひいてらんない!」
今年の冬の祭典も夏同様、彼女は買う側らしい。昔はドールやぬいぐるみの服を作って売ったりすることもあったとか。
俺は年末にある冬の祭典ではコスプレして彼女の友人のスペースで売り子の手伝いだ。
彼女のメンツを潰さないよう、頑張ろう。
そしてミユちゃんがお風呂に入ってる隙に、彼女のベッドの枕元にプレゼント用の新品のふわふわの靴下を置き、右足用と左足用の両方の中にガチャ用の1万円課金カードを入れておいた。
本当はせっかくのクリスマスだし、アクセサリーとか贈りたいけど、指輪を渡したばかりだし、契約結婚だしあまり重く感じられたらいけないので、使うと消えるものにした。
彼女がいいカードが引けますように。と、そっと願いをかけて、俺は自分の部屋に戻った。
しばらくすると、お風呂いいよー!って声がかかった。
「はーい!」
俺が次に風呂に入り、ついでに歯磨をしている時に、
「あーーっ! 靴下にクリスマスプレゼントが! 課金カードが!」
という、ミユちゃんの叫び声が聞こえた。
お風呂から上がった後でスマホを見ると、デジタルのクリスマスカードが俺に届いていて、
『サンタさん、素敵なプレゼントをありがとう!おかげ様でクリスマスガチャで大勝利しました!』
と、書いてあった。良かった。
彼女が幸せなら、俺も幸せだ。
俺はリビングの壁から移動させた彼女の手作りリースを自室の壁に飾って、その夜は幸せな眠りについた。




