16 栗ご飯とオタ活
朝の柔らかな光が、カーテンの隙間からそっと部屋に差し込んでいた。
俺はベッドの中で静かに目を開けた。スマホの時間を確認すれば、今は朝の6時。
引き戸の向こうの部屋では、まだミユちゃんが寝てるだろう。
昨日、アパートの住人さんからもらった栗……アク抜きが必要だから、早朝に仕込もうって話だったよな。
俺は音を立てないようにベッドを抜け出し、キッチンへ。
冷蔵庫から昨夜の下処理をした栗を取り出す。皮を剥いたあと、丁寧に水に晒してアクを抜いたやつだ。
白く艶やかな実が、朝の光にキラキラと輝いている。
といだ米を炊飯ジャーに入れ、栗を散らすようにのせていく。
少し多めに塩と酒を加えて、軽く混ぜる。
蓋を閉めて炊飯予約ボタンを押す。
そして、洗面所へ行き、顔を洗ったり歯磨き。
それが終わるとお吸い物の準備。
昆布と鰹節で取った出汁に麩とねぎのお吸い物。
炊飯ジャーから「ぷしゅーっ」という蒸気の音が聞こえ始めた頃、寝室の方から小さな物音がした。
「ゆーじくん……?」
まだ眠そうな声。ミユちゃんが、サラサラの髪をかきあげながらキッチンの入り口に立っていた。
パジャマ姿のまま目をこすっている姿が可愛すぎて、俺は思わず胸が熱くなった。
「おはよ、ミユちゃん。ごめん、起こしちゃったかな?」
「ううん……なんか、いい匂いがして……顔洗ってくるー」
「はい」
ややして顔を洗って歯磨きも終えたらしきミユちゃんが戻ってきた。胸の上になんか白いものがついてる。
俺はすぐにキッチンペーパーに手をのばしてそれをちぎって渡す。
ミユちゃんはキッチンペーパーを、軽く水に濡らしてそれで胸の上の汚れを拭ったりトントンしてる。
「ありがとう、歯磨き粉、うっかりパジャマに落としたのー」
おっぱいの大きい人ってたいていなんかこぼすと胸の上らしい。
「お吸い物もできてるよ」
「あ、昨夜言ってた栗ご飯のお供だねー」
「そう」
ちょうど炊き上がりの合図が鳴る。
「楽しみー、あ……! 栗ご飯もできた」
蓋を開けた瞬間、湯気とともに甘く香ばしい栗の匂いが部屋中に広がった。
つやつやに炊き上がった白米の中に、ほくほくの栗が散らばっている。
ミユちゃんの目がキラキラと輝いた。
俺は戸棚から、新品で洗っておいたお茶碗をミユちゃんに手渡す。しゃもじと共に。
「はい、お茶碗、好きなだけついで」
「ありがとう。秋の味覚だ……美味しそう……」
ミユちゃんは猫柄の茶碗に栗ご飯を盛った。
その隙に冷蔵庫からたくあんを出す。
「家賃と一緒に栗をもらったからね。山まで行ったらしい」
俺は自分の分の栗ご飯をお茶碗によそい、お吸い物を椀に注いだ。
湯気が立ち上るお吸い物は、澄んだ出汁の香りが食欲をそそる。
リビングのテーブルに並べると、ミユちゃんはすぐに手を合わせて、
「いただきます」と涼やかに言った。
一口目を口に運んだ瞬間、彼女の頰がほのかに赤くなる。
「……栗、ほくほくで甘い……お米もふっくらしてて、塩加減もいいし、美味しくできてるね」
「それはよかった」
俺も食べてみる。栗の自然な甘さと、ほどよい塩気がご飯に染み込んで、最高のハーモニーだ。お吸い物の優しい味わいが、朝の体にじんわりと染み渡る。
そして漬物も口に入れて咀嚼するとポリポリとこ気味良い音が鳴るし、味も美味い。
ミユちゃんは幸せそうに目を細めながら、栗ご飯をもう一口。
「ユウジくんが早起きして作ってくれたんだよね……? 私、ギリギリまで寝ててごめんね」
「大丈夫、俺、早起きは得意なんだ」
朝の時間に好きな人がいて、更に朝ごはんを一緒に食べてくれるだけでガチで幸せなんだ。
「……あ、写真撮る前に食べちゃった」
SNSに載せるやつかな?
「まだ栗残ってるからお弁当にも入れる?」
「そうだ! そっちを撮ろう」
ミユちゃんは栗ご飯と漬物とパック詰めのミートボールを湯煎して温め、ブロッコリーをシリコン容器に入れてレンチンし、それらも弁当箱に詰め、アクスタを持ってきて側に置いて撮影してる。
「シルヴァン、栗ご飯弁当だよー」
などと声をかけて撮影してる。教えてあげてるのか、食べさせてあげる気持ちで声掛けしてるのかのどちらかだろう。オタクなので。
俺が微笑ましくて思わず笑うとミユちゃんは照れくさそうに「オタクですみません」と言った。
「可愛いなと思っただけで、オタクなのはお互い様なんで」
「あ、あざす」
彼女はそう言って照れくさそうにスマホをいじりだした。俺のズボンのポケットが振動したので、ミユちが写真をSNSに投稿したっぽいことが分かる。
ミユちゃんのアカウントが更新されると通知が来るのだ。俺、キモイか? マナーモードにしてるから大丈夫か?
「なんかブーブー言ってますよ」
ギクッ!! マナーモードでも普通にバレる!
「あー! ただのアラームです、朝に連絡入れるとこあったんだよなー」
と誤魔化しつつ、テーブルとリビングから離脱した。
廊下でミユちゃんの先程の投稿を眺めてから俺は何食わぬ顔でリビングにもどった。
ミユちゃんはアクスタをぬいぐるみに変更してそっちも撮影してた。
そしてぬいぐるみの服が新作になってる。さすがだ、推し活に余念がない。
──今日は平和で最高の朝だな。




