第四章 第二十三話 「実地調査」
今日まで夜勤ばかりだった。遅くなりすみませんでした。
翌日、朝食を終え部屋でくつろいでいた颯天達の耳に部屋をノックする音がして。
「すまない、私なんだが今は大丈夫だろうか?」
「ああ、大丈夫だ」
念のため同じ部屋の伏見達にも視線で尋ねて了承を得たうえでそう答え、そう返事を返すと部屋のドアが開けてアイスが部屋の中へと入ってきた。
「どうやら問題なく眠れたみたいだな」
「ああ。ベットも寝心地がよかったし朝食も美味しかったぞ」
「それはよかった。私としても貴方たちの存在と力は大いに心強いからな」
「そいつは良かった。けどそう言うならあんたの方こそ昨日と比べて気が活発化してるようだが、良い事でもあったか?」
「さて、なぁ?」
何がとは言わなかった颯天の言葉にアイスは何も言わずただ笑うだけで。しかしその笑顔はこれ以上の踏み込みを許さない笑みで、流石に相手方の情事に関して首を突っ込むつもりはなかった颯天は話題を変えることにした。
「それで、ただ顔を見に来たというわけじゃないんだろ?」
「ああ、お前たちに見せておきたいものがあってな」
構わないか? と言ってきたアイスの提案に颯天はもう一度周りを見るも誰一人として首を横に振るものはおらず、颯天の答えも決まっていた。
「お、来たわね」
「予想はしていたが、クラウディアも一緒か」
「何よ、私が一緒に行くのが不満だっていうの?」
通路で待っていたクラウディアは自然な感じで頬を膨らませる様子はどことなくぶりっ子のように思わせる行動も、しかし見ていて不思議と不快と感じさせないそれはおそらく何処か猫を思わせるクラウディアの自然体とあっているからなのだろう。
「いや、そういうわけじゃない。単に指揮官が二人揃って向かっても問題ないのかと思ってな」
「ああ、それなら大丈夫よ。まだ目覚めてはいないから」
「…心中、察するよ」
「はははっ、もう慣れたことさ」
そう言い踵を返し先頭を歩き始めたクラウディアの背を見ながら颯天はアイスをねぎらうと困ったものさと笑いながらその背中を追うように歩き始め、そんな二人についていくように颯天達も歩き始める。
「それにしても、入った時から思っていたんだがこの城砦も城と同じように生きているのか?」
「ん? ああ、そうだ。というよりこの辺りでは城砦や城として使われているのはすべて生きているんだ」
「相利共生というやつか」
「颯天さん、それってどういう意味ですか?」
「ん?それはだな」
興味深そうに聞いてきたニアへの説明をしているとそれを伏見は興味深そうに聞き耳を立てて、そんな様子に白夜は楽しそうに笑みを浮かべながら何度か巡回の兵士たちとすれ違い、さらにサウザーランド王国に来た時に使った水鏡を何度か潜りながら颯天達は城砦の奥へと進んでいくと徐々に空気、いや腕輪のおかげで感じなかった水が重たいと感じながら歩みを止めず進んでいく。
「あれで最後だ」
そう言うアイスの言葉の通り、視線の先に水鏡があったが。姿すら見えていないというのに鏡から漏れ出る気配は凶悪というにほかになく。自然と伏見とニアの二人は颯天の隣に来ており白夜の表情も何処か緊張を孕んだものに変わっていた。
「まだ姿が見えていないのにこれほどか。なるほど、確かにこれは凶悪だ」
「どうする、今ならまだ引き返せるわよ?」
クラウディアはまるで挑発するかのように颯天に言うがその表情は先程までとは打って変わり張り詰めたものに変わっており、アイスも表情に変化はないように見えるが瞳にはわずかだが怯えの色が見えた、ような気がした。
「問題ない、それに放っておいていい問題じゃないんだろ?」
「ああ、残された時間はあまりにも少ない」
そう言いながら緊張している伏見とニアの手に自分の手を重ねると過剰にこわばっていた二人の手から幾分か緊張が和らいだのが伝わってきた。
「なら、行こう」
短くそう答えた颯天。僅かな沈黙の後、クラウディアは今度こそ足を止めることなく水鏡を潜り続くようにアイスも通る。
「離すなよ…っと」
そう二人に言うと二人は今度はしっかりと颯天の握り、白夜はそのまま颯天の背中へと抱き着く。
「わしだけ仲間外れはズルいからの」
「ったく」
白夜の行動に苦笑を浮かべ、前を向いた颯天の表情は引き締まったものへと変わっており、颯天達は一塊になり水鏡をくぐった。
水鏡をくぐった先、そこにあったものを言葉で表すのであれば「獣」というほかなかった。繭に覆われた巨大な何か。だがその繭は崩れ去りその隙間から見えるそれはまるで漆黒に染まりつつあることを拒むかのように、悲鳴を上げていた。
本来であれば神聖さすら感じさせるであろう体毛や鱗、皮膚と左右一対の一対の黄金を思わせる角は脈動する泥によって浸食を受けたことに禍々しく変色しており、浸食されずに残っているのは全体の2割ほどで。それはもはや風前の灯火といえる状況だった。
「酷いものだろう、神獣と呼ばれる存在ですら一週間と立たずにこれほどまでに侵食が進行したんだ」
「神獣…。という事はあいつがクラーケンか?」
「クラーケン…?ああ、ネプチューン陛下の話を聞いていたんだったな。ではまず間違いを訂正することにしよう」
「間違い?」
「ああ、クラーケンというのは秘匿のために使われた偽りの名なんだ。かの存在の真の名は、ラドゥーンだ」
「ラドゥーン、か」
颯天はその名前を、図らずも地球における神話に登場するドラゴンの名前で知っていた。だが目の前に見える存在はドラゴンではなく、どちらかといえば亀のように見えた。だが、それ以上にラドゥーンを覆っている禍々しいものが気になった。
「アイス、あの禍々しいものは一体何なんだ?」
「…おそらく神呪だろう」
アイス曰く、泥のように見えるあれは触れたあらゆる生命を黒へと覆いつくし従属なる奴隷を作り出す最悪の毒。それこそが神呪と呼ばれるものだという事だった。
「それで、いったいどうするんだ?」
「あら? 私はてっきり無理だといわれるかと思ったんだけど」
「何の考えもなくただ一緒に戦う俺たちに状況を見せる、それだけじゃないだろう?」
「もちろん、そういった意味もあったがもう一つの意味がある」
「恐怖に飲み込まることがないか、か?」
「ああ。正直心苦しくはあったがね。だが話を聞くよりも実際に見たほうが理解を得られやすいのは事実だ」
毅然とした表情でそう言われてしまえば颯天としても言い返すことはない、そんな空気の中でクラウディアが口を開いた。
「さて、それじゃあさっさと戻りましょう、何時までもここに居ると気分が悪くなっちゃうわ」
「そうだな。残りの詰めは戻ってからにしよう」
そうして、颯天達は城砦へ戻ったのだが、まるで覚悟を決めるかのように神獣を見ていたクラウディアの様子にアイスだけは気づいていた。
誰もいなくなった、聖域で進む侵食。僅かずつだがしかし、その間も黒の侵食は進んでいく。そしてそれは戦いが目前に迫っていると静かに伝えていた。
いかがだったでしょうか? 唐突ですがクラウディアとアイスにはモデルになったキャラがあるのですが、最新話を待たれている間にそれがいったい誰なのか予想されてみてはいかがでしょうか?(まあ、そのキャラのファンを増やしたいだけですが)。
最新話ですが、本当は週1投稿が出来ればと思うのですが、思うように書けないので何事もなければマイペースで投稿していきたいと思います。
さて、では今回はこれに失礼します、また最新話を更新した際に楽しく読んでいただけると嬉しいです。




