客室の灯り
扉を出ると、廊下には神殿の世話係が静かに控えていた。
リアはその場で足を止める。
「私は、明日の準備について確認してきます」
そう言って、世話係へ目を向けた。
「お二人を客室へお願いします」
「かしこまりました」
世話係は静かに一礼する。
リアはレイとミラへ向き直った。
「何かありましたら、世話係へ声をかけてください」
「ありがとう、リア」
レイが言うと、リアは小さく頷いた。
「はい。また後ほど」
リアは一礼し、別の回廊へ歩いていった。
世話係に案内された客室は、神殿の奥まった一角にあった。
部屋は二つ並んでいて、その手前に小さな控えの間がある。
白い石壁に囲まれた空間だったが、神官長の間ほど張り詰めてはいなかった。
丸い木の卓と簡素な椅子が置かれ、窓辺にはルミナスの花が一輪、静かに飾られていた。
「こちらをお使いください」
世話係が二人を振り返る。
「レイ様はこちらのお部屋を。ミラ様は隣を」
そう告げて一礼すると、世話係は静かに廊下へ出ていった。
扉が閉まると、控えの間に小さな静けさが残る。
ミラは椅子に腰を下ろし、肩の力を抜いた。
「……すごいことになったねぇ」
レイも向かいに座る。
「うん。神官長様に会って、禁書庫の話を聞いて、明日は光承の儀って……正直、まだ頭が追いついてない」
「でも、レイ、なんか楽しそう」
ミラがそう言うと、レイはすぐには否定できなかった。
「……うん。正直、すごく楽しみ」
言葉にすると、胸の奥が一気に熱くなる。
「禁書庫って、すごそうだろ。星刻文明の記録があって、この石のことも分かるかもしれないんだ」
レイは思わず身を乗り出していた。
「何があるのか、見てみたい」
ミラはその顔を見て、小さく笑った。
「うん。そういうところ、レイらしいと思う」
「そうかな」
「うん。知らないものを知ろうって、ちゃんと向かっていけるところ」
ミラはレイの顔をじっと見つめた。
「ちょっと、私に似てるかも」
レイは少し驚いて、それから照れたように笑った。
「それ、なんか嬉しいな」
ミラは少しだけ笑った。
「なら、よかった」
「あー……でも、先に光承の儀があるんだった」
ミラが、ふふっと小さく笑う。
「まずは光承の儀を越えてからだね」
「うん」
レイは頷いた。
「でも、光承の儀って何をするんだろうな」
言葉にした途端、また胸の奥が少し熱くなる。
「それはそれで、ちょっと楽しみかもしれない」
言ってから、レイは少しだけ照れた。
リアの前では、こんなふうには言えなかったかもしれない。
心配をかけたくなくて、きっともう少し落ち着いた顔をしていただろう。
けれど、ミラの前では不思議と隠さなくてよかった。
禁書庫が気になること。
光承の儀が少し楽しみなこと。
知らないものを見に行きたいと思っていること。
そういう気持ちを、そのまま言葉にできた。
ミラは、レイの高揚を笑わなかった。
むしろ、少し嬉しそうに見ている。
「うん。やっぱりレイらしい」
「そうかな」
「そうだよ」
ミラは腰のポーチに軽く手を添えた。
その中には、ガイの手帳がある。
「私も、そういう気持ちは分かるから」
「俺も知りたい。ガイが追っていたものが、何だったのか」
「うん」
「だから、明日」
ミラはまっすぐレイを見た。
「頑張ってね」
レイは小さく頷いた。
「うん。頑張る」
外の廊下から、遠く鐘の音が聞こえた。
神殿の奥へ、静かに響いていく。
窓辺のルミナスの花が、淡く揺れていた。
明日。
その先に、光承の儀が待っている。




