105 バカ野郎
エルフの里に戻り数日が経った。
エルフの里に悪霊は現れず、北の森も調査したが悪霊の姿は無かった。
どうやらやはり何者かが持ち去った何かが悪霊の発生源だったようだな。
「皆さんどうもありがとうございました。これでこの地で世界樹様と共に暮らしていけます」
最初頃の冷たい感じが信じられないぐらい優しい微笑みでアメリアさんが言葉をかけてくれる。
「いえ。自分達の為でもありましたから。もしまた悪霊が出ることがあったら呼んでくださいね」
「はい。その時はよろしくお願いいたします。…そしてジュリア。貴女もたまには里に顔を出しなさい。この先直ぐに全ての人を信じることは出来ないかもしれませんが、私達も善処しますからね」
「…はい。長…いえ母上。私は種族間のしがらみを少しでも無くしていきたい。ですので世界を回ります。この里にも必ず…」
「えぇ。待ってますよ」
どうやらこの親子も少し打ち解けてくれたようだ。
「次は神器だったよね?何処にあるのかな?」
「2人もよく知ってるところだぞ」
ハルの呟きにジュリアさんが答えてくれる。
「ん?俺達も知ってるところ?」
「えー。じゃあ行ったことある所ってことー?」
俺達がこの世界で行ったのは…
タリス、ラキア、エルバ、魔力のダンジョン、精霊の住まう地、後ここエルフの里…
「それっぽい所なんてあったかな?」
「フフフ。ユウキの察しの良さに勝った気がしてちょっと嬉しいな」
ジュリアさんがいたずらっぽく笑っている。
んー。なんか悔しいな…。
えーとどこだ?
「あ!分かったかも!」
俺の横で悩んでいたハルが突然声をあげる。
「え?まじか?」
「うんー!…神殿でしょ!」
あ。そーか。この世界で最初の場所。
完全に頭から抜けていたな。
確かにそれっぽい場所だ。
「正解だ。ハルの勝ちだな」
「いぇーい!ユウキに勝ったよ!」
ハルが俺の方へむきドヤ顔をしている。
…何この可愛いドヤ顔。
全然悔しくならないぞ。
「じゃあ神殿へ向かうか。ここからだと…」
「船を使って行くのが早いだろうな。神殿の近くにも船着場はあるからな」
ゼノンが教えてくれる。
船かぁ。まぁ精霊の力のお陰で揺れないし船酔いは大丈夫か。
「よし。じゃあ出発は…すぐでいいのか?ジュリアさん何かあるか?」
この里に何かあるとすればジュリアさんかなと。
「いや、大丈夫だ。それでは母上行ってまいります」
「えぇ。愛しい我が娘よ。旅の無事を祈ってますね」
そうして俺達はエルフの里を後にした。
~~~
船着場から船に乗り海を進んでいく。
船首付近で俺は風を受けていた。
あー気持ちいいなコレ。
「相変わらず精霊の力を使うと快適な船旅になるな」
後ろからゼノンが声を掛けてくる。
「もう精霊無しじゃ船旅出来なくなっちゃうな」
「全くだ。お前らと一緒じゃないとダメだな」
ハハハと二人で笑い合う。
「ユウキ…。少しだけ真面目な話していいか?」
「どうした急に。別に構わないけども」
ゼノンが真面目な顔になる。
「ミナトの事なんだがな。俺がアイツを止めたいんだ。元仲間として。でも俺の力じゃ届かないかもしれない」
「ゼノン…」
「きっとお前達に頼っちまうんだろうなと。…それ自体はまぁいいんだ。どちらかと言うとな、止められなかった時…要は…」
「ミナトを殺さなきゃいけなくなった時か」
ゼノンの言葉を遮って俺が伝える。
「あぁ。色々聞いたがお前らの世界では人を殺す事なんて無かったんだろ?」
「そうだな。人殺しは犯罪だったからな」
もちろん戦争とかそういったものが無いわけでは無いけど一般人が人殺しなんて無かった世界。
「この世界は人を殺す事もある。俺も何人も切っている。初めて殺めたのはもう200年近く前だけどな。今でもその時のことを忘れられないんだよ」
戦いが日常にあるこの世界においても…か。
「俺はお前らにその感覚を味合わせたく無いんだよ…。だから…」
本当にゼノンは良い奴なんだよな。
この世界出会った中でトップクラスに良い奴だ。
「ゼノン。気にするな…とは言わない。けどその役目は俺がやる。俺もハルにそれはやらせたくない。俺かハルの力でないとダメなら俺がやる」
「ユウキ…すまん」
「大丈夫だ。それにミナトはもう人ではないんじゃないか?魔王というか、なんて言えばいいかわからないけど」
前回戦った時も攻撃を受けたところから出血などは無かった。
そもそもゼノンと一緒に旅してたのは100年以上前だったはず。
来訪者である以上エルフとか竜人族のような長命種でも無いだろう。
「それはそう…かもな。確かにあいつは人を止めてるだろうな」
「だから人殺しじゃないよ。そうであったとしても大丈夫だ。俺は覚悟がある」
もっとデカイ覚悟がそもそもあるしな。
仮に人殺しの意識があったとしても。
ラスボスとしての結末を考えれば小さな事だ。
「わかった。すまんな。変なことを言った。…変なことを言ったついでだ。もう1つ言わせてくれ」
「気にすんな。ってなんだ改まって?」
ゼノンが俺の隣にまで近づいて来る。
「ユウキ。お前が背負ってるものはなんだ?それは俺達…いや俺が一緒に背負ってやる事はできないものか?」
ゼノンが今までで1番と言っていいほど真剣な声で聞いてくる。
「俺の背負ってるもの…か。ゼノンその気持ちは嬉しいよ。俺はゼノンの事信頼できる仲間だと思ってる。でも…それをお願いする事はできない」
「ハルも知らないんだろ?でもあの子何か勘づいてるんじゃないのか?」
ハルが…?
俺の全てを知ってるのはアクア…ルーナさん…。
「最近のハルを見てるとな…ユウキの事を失うのを恐れてるように見えるぞ。何となくだけどな」
「そうか?まぁ最近距離近いなとは思うけど…」
「それが不安の現れなんじゃないのか?俺の気にしすぎならいいが…。話せないならこれ以上は聞かん。だけど思い当たる節があるなら…ハルを泣かせるんじゃねーぞ?」
「…善処するよ。ありがとうゼノン。でも俺は…ハルの為に行動してるよ」
ゼノンの言葉に返す俺。
「それならさっさとちゃんと告白してやれよ。中途半端にしてんだろ?好きなんだろ?」
おっと。そう来るか。まぁゼノン達は全部見てるもんなぁ。
でもダメなんだ。それをしたら俺はラスボスとしての覚悟が揺らいでしまう。
俺はハルを元の世界に帰らせると決めたんだ。
「…それはハルが元の世界に帰る時だ」
そう言って俺は船室へ向かう。
船首に残されたゼノン。
「ユウキ…。何となくだが読めたぞ。バカ野郎…一緒じゃなきゃダメだろうお前らは…」
その声は俺には届かなかった。




