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中年の刑事

 ある日、バイトの休日に二人の刑事が家に来た。


 ぶっかけ妻が彼を刺し殺したらしい。


「私と関係ありますか」

 真顔で答えた私の顔を見て刑事達が引いた。何でよ。

 中年の刑事に警察に来るように言われたので翌日出かけた。任意だけどまあいいか。

 殺人の動機は彼が娘の友達の母親と関係を持った為らしい。

 多分私と似た女だろうと察した。

 それから彼との関係を根掘り葉掘り訊かれて素直に答えた。

 別に恥ずかしがる必要はない。

 目の前の中年の刑事は少し肥満気味で無精髭を生やしている。

 厳しさと無邪気さを感じる目つき。おじさん体形だけど嫌いではない。

 容疑者はわかっているので聴取は世間話も交えた。

 その刑事はバツイチ。警察の仕事が大変だからすれ違ったのか。

 何となく好きになった。


 何となく会って食事して男と女の関係になるまでそんなに時間はかからなかった。

 ホテルで彼は騎乗位を望む。私が上になる。前の彼ほど優しくない。

 乳房を下から揉まれると痛い。下から突かれる痛みと肌が合わさっている時は割と平気だが、彼が果てて外に出すと胸の痛みがぶり返す。

 彼の体についた体液をティッシュで拭いて彼に覆いかぶさって髪の毛を撫でる。

 こんな仕草、どこで覚えたのだろう。なぜかそうしたくなる。


「つまらないセックスだろ」

 彼の口癖。


 この人はそうなんだと思う。何がそうなのか分からないが、自信がないのだろう。

「そんな事ないけどそんな風に言われたらいい気分になれないわ」

 彼の髪を優しく撫でる。なぜだろう。上から目線で言っている自分が嫌になる。


 いかにも中年の男な体つき。もっちりとした肌が温かい。肌を合わせて温もりを感じる男が好きなのか。

 熱めのシャワーを浴びてベッドで休む。彼は仕事で先に出た。一人で広いベッドで眠るのは退屈だが心地よい。


 しばらくして自動車販売会社で事務をやる事になった。

 前任者が辞めて急募。意外と忙しい。電話がよく鳴る。

 刑事の彼とはたまに会う。週に一度あるかないか。ホテルで騎乗位のセックス。つまらないセックス? 彼は何を私に求めているのか。

「誰か好きな人がいるの?」

「どうして?」

「滅多に会わないし」

「忙しくてな。ごめん」

 彼の頭を撫でて私は右手でチンポを入れる。

「悪い。まだ無理」

 彼はうつむいて言う。私は入れるのをやめる。

「気にしないで。焦らせた私が悪いから」

 私が言うと彼は黙って天井を見た。

 さりげなく私は彼のチンポを触る。

 仮性だけど気にならないのは前の彼もそうだったからか。

 二度目が終わって彼は服を着て先に出る。

 似合わない柄のネクタイ。知らない女から私宛てのメッセージか。

 無精髭を生やしたおじさんだけどもてない訳がない。別れが突然訪れても納得するだろう。


 自動車販売会社に前の会社のクソ上司が来た。

 営業の社員と商談していた。別に隠れる必要はないから紙コップにコーヒーを入れて差し出す。目が合って男の顔が一瞬曇る。

「久しぶりだな。元気にしていたか」

 屈託のない営業スマイルに変わって話しかけてきた。

「まあ、私如きも何とかやっています」

 軽く言い返す。営業スマイルを崩さないのは流石ね。

「大変だったね。あんな男に騙されて」

 騙されていた訳じゃないしここで言う事かと思ったが、細い目で頬骨が高いトカゲ顔の男らしい言い草だなと軽蔑しながら満面の微笑みを浮かべる。

「早く新しい彼氏が出来るといいな」

 何時代のハラスメントワードだよと心で呟いて呆れる。

「ええ。刑事の彼とよろしくやっていますのでお気遣いなく」

 よろしくやってるって私もオジサン言葉使っちゃった。いやだわ。なぜか営業の人が気まずい顔になっている。

「どうぞごゆっくり」

 軽く会釈して奥の事務室に入る。

 クソ上司の安定ぶりに苛立ちと安心が同時に込み上げる。

 夕方、総務の上司に呼ばれた。つまらない説教か。クビ宣告か。

「しばらく休んでいいよ。有給扱いで給料は払うから」

 クソ上司が不倫をバラしたか。でも今は刑事の彼氏がいる。そこが落としどころってヤツね。どうせクソ上司の商談が成立するまでだ。承諾して休暇に入った。


 彼は滅多にメッセージを送って来ない。

 休んで三日目に食事とホテルの誘いが来た。

 パスタを食べてホテル。いつもの騎乗位からフィニッシュ。そして彼の頭を優しく撫でる。

「もしかして好きな人いる?」

 虚ろな目をした表情の彼に訊く。

「なぜだ」

 気だるい彼の口調。面倒くさい事を訊いたかな。

「ネクタイ。たまに派手なのを着けているね。誰かのプレゼント?」

「前の女房から。今でもたまにもらう」

 そうなんだ。夫婦解消で友達に戻るパターン。芸能人で時々いる。

 余計な詮索は終わり。彼のむっちりした体に乗って安らぎたい。何でかな。

「どこかドライブしたいな」

「海沿いを走るか」

 海の景色を思い浮かべる。

「海か……いいわね」

 なぜか自分の口調が甘くなる。少し酔っているのか。

「たまにはリードして」

 私が言うと彼は優しく抱き締めて私の体に乗る。

 彼との初めての正常位。腰を振る度に感じる痛み。短い時間で果てて私に覆いかぶさる。

「すまない。すぐ終わって」

「いいのよ。気にしないで」

 彼の後頭部を撫でる。

 取調室で私を厳しく見ていた彼の顔は目の前にない。

 性に臆病、いや性に傷ついたのかも。

 私に出来るのは彼の頭を撫でるだけかも知れない。それでもいいと思った。


 会社を休んで十日後、上司から呼ばれた。

「転職先は見つかったかな」

 いきなり言われて思わず「えっ?」と答える。

「それ以上は言わない。手続きをしてくれ」

 それは考えていなかった。自分自身に苛立った。

「理由は何ですか」

「会社都合にしておくよ。短い間だったけどご苦労だったね」

 仕方ない。諦めた。手続きを済ませて帰宅した。

 明細に『特別手当 三十万』が載っていた。

 恩着せがましい口止め料か。謝礼じゃないだろ。

 帰宅して缶ビールを飲む。ため息をついてスマホを持つ。


『クビになっちゃった。残念』

 彼にメッセージを送った。返事は期待していない。


 約束の日のドライブ。彼はノーネクタイで灰色のスーツ。

 ワンボックスカーでドライブ。家族の為に買ったのか。助手席の後ろはスカスカ。

 二人の口数は少ない。でも嬉しい。海が見える。あいにくの曇り空で私が想像した青空の下の海ではなかったけど今の虚しい気分に丁度良かった。

「飯食おうか。予約しておいた」

 海沿いのレストランに車を止めた。

 二人で食事。彼はステーキをバクバク食べる。私と行きたい訳じゃなく自分で行きたかったのかな。美味しいからいいか。

「仕事はどうするんだ」

 急に彼が訊いた。

「またバイトしながら探すわ」

 あっさり答える私を彼は刑事の目で見ている気がした。


 食事の後に近くの砂浜で座る。まるで一時期のドラマみたいな流れ。波が打ち寄せる。

「こんなので良かったのか」

「いいに決まっているじゃない。楽しいわ。この後がホテルなら尚更ね」

 素直に言ったけどまずかったか。軽い女と思われるかも。

「そうか……」

 彼の言葉に重さを感じた。

「もしかして嫌なの?」

 私の問いに彼は間を置いて、

「そういう訳じゃないが疲れているんだ」

 海を見てボソボソと言った。

「じゃあいいよ。無理しなくても」

「悪い」

 こうしてデートは終わった。何だろう。何もなかったかのような思い出になりそうだ。

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