あっさりした終わり
それからまたファストフードでバイトを始めた。
転職サイトにエントリーしたものの試験で落ちる日々。落胆する。
彼からの連絡は来ない。それは寧ろいい気分になる。
刑事の彼女が職無しなんて恥ずかしいだろう。
前の奥さんと仲良くやっていたらいいじゃない。自分に言い聞かせる。
休日の夕方、商店街を歩いていると彼が見えた。そばに中年の女が歩いていた。
近すぎる間隔。前の奥さんかな。知らんふりしよう。
脇道に入って彼が通り過ぎるのを待つ。
気まずいからとは言い切れない。邪魔したくないから。何様気取りではない。後ろめたさも底意地の悪さも否定しない。私、つまらない女かな。
まるで鼻歌を歌うみたいに変なフレーズを思いつく。結局は言い訳ね。つまらない女の言い訳。
スーパーで総菜と弁当を買ってカフェに寄る。
メールは迷惑メールでいっぱい。本当、送って来る奴をぶっ殺したくなる。荒れた気持ちになっているのはあの二人を見たからか。妬ましいのか。
ため息をついてカフェラテを飲み干して店を出て帰宅する。
翌日、バイト先で自動車販売会社の営業の人と会った。
「大変だね」
「まあ何とかやっています」
型通りの言葉を交わす。席にハンバーガーセットを持っていく。
「あの人に車買ってもらいましたか」
私が訊くと、
「駄目だったよ。見に来ただけだったのかな」
と答えた。
「そうですか。では」
「刑事の彼とはうまくいっているの」
咄嗟に訊いた感覚。私に何を求めているの。
「ええ。まあ」
あっさり答えてレジカウンターに戻る。大きなお世話。ちょっとイラッ。
久しぶりの彼の誘い。夕食は騒がしい居酒屋。なぜか表情が柔らかい。
「いい事あったの」
「仕事がひと区切り付いたんだ」
「そう。良かったね。お疲れ様」
二人で乾杯。のんびりと食事しながら話す。
「えっ、札幌に転勤!」
思わず驚く。一息ついて、
「そうなんだ……」
その先の言葉が思い浮かばない。咄嗟に思いついた言葉が、
「前の奥さんとどうするの」
私、何言っているの。何よそれ? いやいや違うだろと自分自身にツッコミを入れる。
「あいつは福岡にいるけど」
彼が不審な表情に変わる。あの時の女は誰と言えない。
「私とは終わり?」
やっと訊けた。
「終わった方がいいかな。俺となんか」
「自信がないのはバツイチだから? 結婚して失敗した人なんて世の中に沢山いるでしょ」
ちょっと言い方がきつくなった。
「そうじゃない」
彼は話した。
捕まえた半グレの仲間に娘を殺されて妻と破局──
刑事だからこういう事があると言う彼の口調に割り切りを全く感じない。
空っぽのワンボックスカーに乗った時の違和感はそうだったのかと納得した。
「私では慰められないの? 不倫した男を殺された女とじゃ無理なの」
「そういう訳じゃない。怖いんだ。失うのが。おかしいだろ。そういう男なんだよ」
弱々しく言う彼に少し苛立つ。
「じゃあ、商店街で一緒にいた女の人は誰なの」
あっ、勢いで訊いてしまった。
「商店街? あれは同僚。聞き込みしていたんだ。いたのか」
急に口調が変わった。微妙におかしくなった。今までのは芝居かと疑いたくなる。
「たまたまね。札幌か……体に気をつけてね」
穏やかに言ったものの納得していない。
都合の良い女に落ちぶれた気分。
前の不倫の代償なら仕方ないか。全てが繋がった流れで今があるから。
食事を済ませて帰宅。やかましいテレビはつけないでスマホでニュースを見る。
クソ上司が誰かに刺された事件が載っていた。
私、呪われているのかしら。何でもいいわ。酔ったせいか眠い。眠い……
翌朝、インターホンが鳴る。モニターに映る彼の顔。一人だ。
エントランスのドアを開けて一分も経たない内に部屋のチャイム。ドアを開ける。
「また事情聴取ですか」
よそよそしく言う。彼は気まずい顔。部屋に入れる。
「いつも事件に巻き込まれる二時間ドラマの主人公な気分だわ」
リビングに座った彼に緑茶を差し出す。ペットボトルから注いだだけ。
「そう言うな。恨んでいる奴を知らないか」
手帳を開いてがさつに訊く彼は刑事の顔。この仕事が合っているのね。
「わ、た、し。疑っているから来たんでしょ」
気だるく答える。
「時間がはっきりしないから仕方ないんだ。まだ意識が戻っていないからな」
「転勤が決まったのに働かせるなんて警察って結構ブラックね」
「そう思っているなら協力してくれよ。人手不足なんだからさ」
子供みたいな愚痴にちょっと笑って知っている事は話した。
「ありがとう。それじゃ」
彼は部屋を出ていった。そしてそれっきり。
すぐにクソ上司の弟が捕まった。
ニュースを見て呆れながら半笑い。
身内に嫌われた男は誰からも嫌われて生きるのか。
『私如き』が思うのもどうかだけど。
結局、仕事が見つからず実家に帰った。




