閑話:公爵令嬢の日記2
今回は同時二話投稿です。前回の日記同様、短いので。
だんだん学ぶことが多くなってきました。
ついていけないことはないけれど、覚えることが多すぎて、正直戸惑います。
就寝時間も遅くなってきたけれど、日記だけは続けたいわ。
明日からはメストラーテ王国との貿易について、ティレット語ではなくメストラーテ語で学ぶことになるそうです。先生も新しくなるみたい。メストラーテ語は慣れてきたけれど、まだ流ちょうに操るほどではないから、心配です。
◇
昨夜は、王宮から帰れなかった。
王都邸に帰れないことで、誰かになにか噂されたら困るわ。ただ、勉強と最近任されるようになってきた公務が忙しかっただけなのに。
ああ、帰りたいなぁ。リディと一緒にゆっくり眠りたい。
◇
明日からはトルニテ王国へ行くそうです。
またしばらくここへは戻れなくなるから、日記をつけることもできません。
トルニテ王国に持って行ってもいいけれど、侍女の目があるところで日記を書くのは恥ずかしいし、やっぱりおいていこうと思います。
リディに守ってもらわなくちゃ。よろしくね、リディ。わたくしにはあなただけ。
◇
フィリップ殿下は、なんで責務を果たさないのかしら。以前は頑張っていらしたのに、最近はずっとわたくしに任せっぱなし。
信頼しているからとおっしゃっていたけれど……殿下のためにはならないと思うの。
王妃陛下に申し出てみようかしら。わたくしが肩代わりするには、ちょっと量が多すぎるわ。
◇
とうとう王都邸を出て、王宮に住むよう、王妃陛下から指示を賜りました。
私物を持っていくことは許されないのだそう。
だから、この日記を書くのも今日で最後です。
リディとも、お別れ。
さようなら、もう一人のわたくし。ハルベリー家のお母様からいただいた、大事なうさぎさん!
あなたがいたからわたくしはやってこれたの。
……王子妃になったら、迎えに来れるかしら。こっそり持ってきてもらえたら嬉しいけれど、この日記は無理ね。
誰の目にも見えない、書棚の隠しにしまっておきましょう。
◇
「お嬢様、他に持って行くものはございませんか?」
「いえ……このぬいぐるみだけ持って行くわ。ドレスももうすべて入らないでしょう? 後は処分してしまって」
輿入れのためにアークベリー公爵邸にあった私物の整理をしておりましたら、懐かしい日記帳が出てまいりました。古びたその表紙を撫でておりますと、衣装棚の衣服を取り出していた侍女たちから声がかかります。
「そちらもお持ちになりますか?」
「いえ、これは処分いたします。昔の、手習いなの。恥ずかしいから……燃してしまうわ」
「では、庭師に火を焚かせましょう」
侍女の言葉に、わたくしは頷きます。
そう。火にくべて、すべて終わりにいたしましょう。
リディア・アークベリーはいなくなるから、この日記帳ももういりません。
明日の式を終えれば、もうアークベリー公爵家にわたくしの場所はなくなるのだから。




