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006話 フードコートの灯り


 商業ギルドを出て街を歩きながら、悠馬は落ち着かない気分になっていた。

 頭の中では、ずっとあの言葉が回っている。


 フードコート区画。


 一部設備利用可能。


 つまり、ただ商品を売る段階から、店を営業する段階へ進み始めたということだ。


「……本当に動くのか?」


「何がだ?」


 隣を歩くレティシアが聞いてくる。


「いや、独り言」


 俺たちは街に一泊するために、簡単な宿をとっていた。

 一泊銅貨八枚。


 日本円だと安く感じるが、この世界では決して安宿ではないらしい。

 レティシアが「随分まともな宿を選ぶな」といっていたので、相場より上なのだろう。


 宿へ向かう途中、悠馬は街の飲食店を観察していた。


 焼いた肉。

 煮込み。

 黒パン。

 スープ。


 どれも悪くはない。

 ただ、圧倒的に種類が少ない。

 それに調理速度も遅い。

 一皿作るのに時間がかかる。


「回転率低いな……」


「カイテン?」


「一度にどれだけ客を捌けるか」


 レティシアは考え込む。


「確かに、昼時はどこも混むな」


 悠真は小さく頷いた。


 フードコートが強い理由の一つはそこだ。

 大量の客を一気に処理できる。


 しかも、


「料理の種類が増えたら、たぶんこの世界かなり変わる」


「大げさでは?」


「いや本当に」


 この世界の食事は、良くも悪くも”生きるため”のものだ。


 保存性。

 栄養。

 腹持ち。


 そこが優先されている。

 現代日本みたいな”選ぶ楽しさ”が存在しない。


「……試すか」


「何をだ?」


「店」


 レティシアが足を止めた。


「まさか街でやる気か?」


「いや、ショッピングモールの方」


 正直、街中でやるには危険が多すぎる。

 設備もないし、衛生管理も難しい。


 それに、今の注目度で変に動けば、商業ギルドに目をつけられる。

 なら、最初は”向こう”で試す方がいい。


 レティシアは少し黙ってから言った。


「……私も行く」


「え?」


「一人であの場所へ戻る気か?」


 それは確かに怖い。

 盗賊の件もある。

 しかも今は、”価値ある商品を持っている”と知られてしまった。


「護衛代わりだ」


「助かる」


 レティシアはふん、と鼻を鳴らした。


「勘違いするな。あの焼きそばの借りを返しているだけだ」


 絶対ちょっと気に入ってるな、と悠真は思った。




 翌朝。

 二人は街を出た。

 馬車を借りる金は惜しかったので徒歩だ。


「問いな……」


「だから言った」


 街道を進みながら、悠真は何度も周囲を見回す。

 異世界の景色にはまだ慣れない。


 二つの月。

 見たこともない鳥。

 巨大な木々。

 ゲームなら感動する景色だ。


 だが実際に歩くと普通に疲れる。


「文明って偉大だったんだな」


「よくわからんことを言うな」


 数時間後。

 草原の向こうに、巨大な建物が見えてきた。


 ショッピングモール。

 異世界の中では、あまりにも異質な存在。

 レティシアが改めて息を吐く。


「何度見ても異様だな」


「俺もそう思う」


 自動ドアは相変わらず沈黙したままだった。

 二人は中へ入る。


 静かだ。

 閉店後の空気が、そのまま止まっている。

 だが、


「……明るい?」


 レティシアが呟く。


 前より照明が増えていた。

 通路の一部に灯りが戻っている。


 悠真は急いでフードコートへ向かう。

 シャッターが半分開いていた。


「おお……」


 思わず声が漏れる。


 照明。

 客席。

 厨房。


 レティシアが警戒した顔で周囲を見る。


「本当に動いているのか……」


 悠真は近くの店舗へ入った。


 うどんチェーン店。

 厨房の電源表示が点いている。


「マジか」


 冷蔵庫も一部だけ稼働していた。

 ただし、


「食材は死んでるな……」


 さすがに時間が経ちすぎている。

 生ものは使えない。

 だが、


「乾麺はいける」


 レトルト。

 調味料。

 保存食。


 使えるものは多い。

 その時だった。


 ピコン。


『フードコート設備の稼働を確認』


『簡易営業モードへ移行します』


 目の前の厨房照明が、さらに明るくなる。


『営業可能店舗:ー』


「営業可能?」


 悠真は周囲を見回す。

 一店舗だけ。

 つまり、まだ全部は使えない。


 だが、逆に言えば、


「……店、出せるのか」


 レティシアが怪訝そうに近づいてくる。


「何をぶつぶつ言っている」


「いや」


 悠真はゆっくり厨房を見る。


 現代設備。

 調理器具。

 衛生環境。


 この世界では存在しないレベルの環境だ。

 もしここで料理を出したら、

 ほかの店とは比べ物にならない。


「レティシア」


「ちょっと、試食してくれないか?」


「またか?」


 嫌そうにいいながらも、完全には断らない。

 悠真は小さく笑った。


「今回は焼きそばじゃない」


「……何を作る気だ?」


 悠真はうどんチェーン店の看板を見上げる。


「たぶん、この世界にまだない食べ物」


 そう言いながら、乾麺の入ったケースを取り出した。


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