表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方【完結済/続編有/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第4章:FIREへのエグジット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/41

第30話:領土放棄という最大のエグジット ―― 城(土地)を捨て、地位(株)を得る。「地主から顧問へ」。

1. 「サンクコスト」の呪縛を解く


天正十八年(1590年)七月。


小田原城が開城し、北条氏政が切腹を遂げたことで、四百年続いた東国の旧秩序は、音を立てて崩壊した。


焼け跡に立つ大名たちの顔には、一様に悲壮感が漂っていた。


領地を削られ、あるいは見知らぬ土地へ転封(強制移転)を命じられ、彼らは「失ったもの」の大きさに打ち震えていた。


しかし、小田軍の陣屋だけは、まるで「上場企業の創業者利益の確定」を祝うかのような、不思議な活気に満ちていた。


「……さて、殿。いよいよ『クロージング』の時間です。この『領土返上届』を秀吉公に提出した瞬間、殿は世界で最も自由な貴族になれます」


政貞(佐藤)は、和紙に書かれた最終的な資産移転契約書を、氏治の前に広げた。


そこには、小田家が代々血を流して守り、九度奪われては十度取り返してきた常陸・土浦、並びに小田城のすべての支配権を放棄する旨が記されている。


「政貞、本当によいのだな? 先祖代々の土地を捨てるというのは、普通は『滅亡』と言うのではないか? 信太や菅谷の家臣たちも、泣きはしないか?」


氏治が、筆を握る手を少し震わせながら尋ねる。


政貞は、かつての社畜時代に手がけた「不採算部門の切り離し」の光景を思い出しながら、力強く頷いた。


「殿。それは『サンクコスト(埋没費用)』という名の呪いです。……過去にどれだけ血を流したかは、未来の収益性には関係ありません。……土浦は、これからの豊臣・徳川体制下では、常に最前線の警備を強いられる『高リスク・低リターン』な物件になります。……土地という名の『負債』を秀吉公に引き取ってもらい、代わりに『高家ステータス』という名の『優先株』を手に入れる。……これこそが、資本主義の極意です」


「……しゅんく……こすと? 相変わらず何を言っているか分からんが、お前が『これが一番楽に生きられる道だ』と言うなら、わしは信じるよ」


氏治は、迷いを断ち切るように、力強く自らの印を突いた。


2. 領土返上の儀:周囲の嘲笑と、政貞の確信


翌日、小田原城内の広間にて。


秀吉への「領土返上」の儀式が行われた。


周囲を囲むのは、領地を増やすために必死に秀吉に媚びを売る大名たちである。


彼らの目には、自ら土地を差し出す氏治の姿は、正気を失った敗北者に映っていた。


「……見ろ、小田の阿呆だ。戦わずに城を捨て、あろうことか自ら先祖の地を返上しおったぞ」


「家名を残すためとはいえ、プライドも何もないのか。あれではただのホームレスではないか」


嘲笑のさざ波が広がる中、氏治は政貞に教え込まれた通りのプレゼンを、秀吉の前で行った。


「関白殿下。……私、小田氏治。……身の丈に合わぬ土地の支配という重荷を、すべて殿下に返上し奉ります。……これからは、一介の風流人として、殿下の天下の隅で、茶を点て、連歌を詠み、太平の世を寿ぐ『文化の番人』として生きてゆきたく存じます」


秀吉は、その宣言を、愉快そうに、しかしどこか試すような目で見守っていた。


「……氏治。本当によいのだな? 土地を持たぬ大名など、根無し草と同じ。……わしが『辞めろ』と言えば、お前には何も残らぬぞ」


「……いいえ、殿下。……私には、殿下から賜る『信頼』と、政貞が積み上げた『知恵』がございます。……形ある城はいつか壊れますが、殿下の組織における『私の地位』という形なき城は、殿下が滅びぬ限り、永遠に不落にございます」


氏吉の言葉(政貞が昨夜一晩かけて暗記させたもの)に、秀吉は声を上げて笑った。


「……面白い! ……土地を奪われることに怯える小心者ばかりの中で、これほど清々しくエグジット(あがり)を決めた奴は初めてだ! ……よし、小田氏治! お前の『領土放棄』、受理してやる。……代わりに、徳川殿の治める江戸の街において、最高級の邸宅と、生活に困らぬ永久年金(知行)を与えよう。……お前は今日から、土地を耕す『地主』ではなく、天下を導く『顧問アドバイザー』だ!」


3. 地主から顧問へ:ポートフォリオの劇的な変換


陣屋に戻った政貞は、すぐさま家臣団を集め、大規模な「組織再編」の通告を行った。


「……皆、よく聞け。小田家は本日をもって、大名という事業を廃業した。……これからは、『株式会社・小田総合研究所』として再スタートする!」


家臣たちは、茫然自失としていた。


長年守ってきた土地を失うのだから当然である。


だが、政貞が提示した「新しい雇用条件」は、彼らの想像を絶するものだった。


「……信太殿、菅谷殿。貴殿らには、徳川家康殿の配下として、江戸の都市開発を担当する『特別出向役員』のポストを用意した。……これまでの『土地を守る戦い』はもうない。これからは『街を造る実務』で、幕府から多額の手当を貰うのだ。……身分は武士のまま、仕事はホワイトな官僚だ。……どうだ、悪い話ではないだろう?」


政貞は、北条から引き抜いた技術者たちと小田の旧家臣たちを組み合わせ、日本初の「都市開発コンサルタント集団」を作り上げた。


彼らはもはや、一つの城に縛られる必要はない。


徳川家という巨大な元請けから、江戸の街造りという「公共事業」を請け負う。


小田家はその中核として、情報のハブ(拠点)となり、配当を得る。


「……土地を持つと、一揆を鎮めたり、検地をしたり、常に管理コスト(オーバーヘッド)がかかる。……だが、我々のように『技術と地位』だけを持てば、それらのコストはすべて幕府が持ってくれる。……これこそが、究極のアセットライト経営だ」


4. 江戸への出発:旧体制との決別


七月の末。


小田原を後にする小田家の一行は、他家のような重苦しい移動ではなかった。


荷物の中身は、武器や防具ではなく、江戸での新生活のための家具や、政貞が収集した膨大な「データ和紙」である。


馬に乗る氏治は、これまでにないほど晴れやかな顔をしていた。


「……政貞。わしはな、今初めて、城を枕に死ななくていいのだと、心の底から思えたよ。……今までは、城を守らねば先祖に申し訳ないと思っていたが、こうして手放してみると、風が気持ちいい。……わし、本当は戦なんて、大嫌いだったんだ」


「……殿。……その言葉を聞けただけで、私のこれまでの苦労は報われました」


政貞は、馬を並べながら答えた。


(……佐藤。お前が広告代理店の地下室で、死んだ魚のような目でエクセルを叩いていたあの日。……いつかこんな、誰かの人生を本気で自由にする仕事ができると、信じていたか?)


政貞は、自らの中の「佐藤」という魂が、ゆっくりと癒えていくのを感じていた。


これは、氏治の救済であると同時に、彼自身の「社畜からの救済」でもあったのだ。


5. 江戸・入府:新市場の最前線


数日の旅を経て、一行はついに「江戸」へと辿り着いた。


当時の江戸は、まだ秀吉の命を受けた家康が、荒れ地を開拓し始めたばかりの殺風景な場所であった。


だが、政貞の目には、そこが将来、数百万人が行き交う世界最大のメトロポリスになる光景が、AR(拡張現実)のように重なって見えていた。


「……ここです。殿。ここに、我々の『FIREの拠点』を構えます」


政貞が指し示したのは、後に日本橋と呼ばれる場所に近い、物流の要衝となる一等地であった。


家康から「顧問料」として与えられたこの地は、もはや「防衛のための城」ではなく、「収益のためのオフィス兼邸宅」として設計されることになる。


「……菅谷殿。お待ちしておりましたぞ」


出迎えたのは、徳川家の重臣・本多正信であった。


彼もまた、政貞の持つ「北条の技術」と「未来予測の知恵」を、喉から手が出るほど欲しがっている一人だった。


「……さあ、早速ですが会議を始めましょう。江戸の水路設計、並びに貨幣の流通スキーム。……関白殿下が飽きる前に、実績トラックレコードを作らねばなりませんからな」


政貞は、正信の言葉に不敵な笑みを返した。


「……もちろんです、正信殿。……ただし、小田家のコンサルティング料は、通常の三倍はいただきますよ。……我々はもう、ボランティアで働く大名ではないのですから」


6. 想定外の「来訪者」


江戸での生活が始まって数週間。


屋敷の建設が進み、氏治が近所の川で「釣り」を楽しみ、政貞が幕府の官僚たちと深夜まで「都市計画」のホワイトボード(のような木板)を囲んでいた、ある夜のこと。


小田家の門を、激しく叩く者がいた。


「……菅谷政貞殿! おられるか! ……緊急事態だ!」


飛び込んできたのは、堺の豪商・今井宗久の使いの者だった。


政貞は、嫌な予感を抱きながら彼を迎えた。


「……宗久殿の使いが、江戸まで何用だ? 秀吉公の『唐入り(朝鮮出兵)』の準備なら、もう小田家は免除されているはずだが」


使いの者は、震える声で言った。


「……違います! ……秀吉様が、あろうことか……『小田氏治の知恵に惚れ込んだ。江戸の顧問だけでは勿体ない。京へ呼び寄せ、わしの直属の軍師として、唐入りの総指揮を執らせる』と言い出したのです!」


政貞は、手に持っていた筆を、ボキリと折った。


「……な……んだと? ……せっかくエグジットしたのに、まさかの『再雇用』、それも最悪の『海外プロジェクトの責任者』だと……!?」


広間の奥では、そんな事態も露知らず、氏治が「明日は大きなハゼを釣るぞ!」と笑いながら、釣竿の手入れをしている。


政貞は、膝を突き、天を仰いだ。


(……秀吉公! ……あんた、どこまでブラックなCEOなんだ! ……顧問という名の『優先株』が、いつのまにか『労働集約型の実務担当』に書き換えられている……!)


さて、まず最初にやるべきことは――。


第30話・ステータス報告


・ステータス: 領土返上エグジット完了。江戸での顧問生活開始。


・主要成果: 常陸・土浦の放棄。徳川幕府における「高家・顧問」の地位確立。アセットライト経営への移行成功。


・KPI: 自由時間:90%向上したはずだった。資産流動性:MAX。秀吉からの「執着度」:測定不能(危険域)。


・政貞のメモ:


「領土という鎖を断ち切った。……これで私は、佐藤として、そして政貞として、本当の安息を手に入れたはずだった。……だが、秀吉という男は、有能な社員(あるいは面白い玩具)を、決して引退させない。……『再雇用』という名の強制連行。……これをどう断るか、あるいはどう『高値で売り抜ける』か。……私の本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない」


【次号:第31話:江戸幕府の「顧問(高家)」内定 ―― 領主から「文化の守護者」への業態転換に成功。】


―― 京からの召喚状を、政貞はどう「交渉ディール」の材料に変えるのか。


秀吉を納得させつつ、江戸に残り続けるための、極めて高度な「二重契約」スキームとは。


小田家、真のFIREへの最終防衛線!

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ