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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方  作者: 筑紫隼人
第1章:倒産危機と「PMO(プロジェクト管理)」導入

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第3話:本社ビル(小田城)の損切り

1. 執着という名の不良債権


燃えている。


小田城が——燃えている。


だが、政貞はそれを見て、ただ一言だけ呟いた。


「……あれは資産じゃない。“負債”だ」


土浦城の夜は、霞ヶ浦から吹き付ける冷たい湿り気を帯びていた。


広間に集まった小田家の重臣たちは、誰もが通夜のような顔をしている。


彼らの視線の先、北の空は今も赤く染まっていた。


本拠地・小田城が燃えているのだ。


「政貞、やはり納得がいかぬ! 今すぐ兵をまとめ、夜陰に乗じて小田城へ切り込むべきだ。あそこには先祖代々の墓所も、蓄えた米も、すべてがあるのだぞ!」


沈黙を破ったのは、血気盛んな一門の武将だった。


その言葉に、他の家臣たちも「左様だ!」「土浦などという湿気た支城に閉じこもって何になる!」と同調し始める。


へたり込んでいた主君・小田氏治も、家臣たちの勢いに押されるように顔を上げた。


「……政貞。皆の言う通りかもしれぬ。わしも、あの城を枕に討ち死にする覚悟はできておる。今ならまだ、火が回らぬうちに奪い返せるのではないか?」


政貞は、広間の中心で腕を組み、冷徹な目で彼らを見下ろした。


その瞳には、燃える城への哀惜など欠片もなかった。


あるのは、冷酷なまでの「算盤勘定」だけだ。


「……話になりませんね」


静かに、しかしはっきりと切り捨てる。


「皆さんの言っていることは、要するにこうです。

『倒産確実な赤字部門に、残りの全資産を突っ込んで心中しよう』と」


広間が凍りついた。


「何だと!? 赤字部門とは、我らの誇り高き小田城のことか!」


「そうです」


一切の迷いなく、政貞は断言した。


「いいですか。現在、小田城を占拠しているのは、競合最大手の一角——上杉謙信の軍勢です。対して我々のリソース(兵力)は、小田城にいた頃の三割以下。この戦力差で正面から挑むのは、『投資』ではない。ただの『散財』です」


一拍。


「全滅という名の完全倒産を望むなら、止めませんがね」


誰も言い返せなかった。



2. 戦略的ダウンサイジングの宣言


政貞は、泥だらけの地図を広間に広げ、小田城と土浦城を指し示した。


「まず、認識をアップデートしてください」


指で小田城を叩く。


「これは確かに立派な本社ビルだった。だが今の我々には維持費(守備兵)が高すぎる。広すぎて守りきれず、敵に狙われやすい」


指を土浦へ移す。


「つまり、小田城は“身の丈に合わない過剰設備”です」


家臣たちが言葉を失う中、政貞は続けた。


「そこで——今回の判断です」


一拍置く。


「小田城は損切りする」


ざわめきが走る。


「我々は本日をもって、小田城という不採算の本社を切り離し、ここ土浦城に本社機能を全面移転する」


「そ、そんな……捨てると言うのか!」


「捨てる? 違います」


政貞は即座に否定した。


「“軽くする”んです。アセット・ライト化です」


視線が鋭くなる。


「あんな巨大資産を持っていれば、常に強者に狙われる。ならば——」


小さく笑う。


「管理コストごと、敵に押し付ければいい」


広間が静まり返る。


「謙信が小田城を維持するために割く兵力は、そのまま彼らのサンクコスト(埋没費用)になる」


そして、氏治を指差した。


「殿。あなたはこれから、この土浦という“コンパクトな旗艦店”で再起を図る」



3. 本社移転の電撃指揮


そこからの政貞は、鬼だった。


「泣いている暇はない! 全員動け!」


広間に怒号が飛ぶ。


「土浦城のストレージ(倉庫)を即時整理! 小田城から持ち出した貴重品、帳簿、職人名簿を全て洗い出せ!」


文官たちが慌てて動き出す。


「誰が生き残り、何が残っているのか——現状のバランスシート(残存戦力)を可視化しろ!」


政貞は一人ひとりに役割を振り分け、混乱を強制的に秩序へ変えていく。


「いいか、小田家の価値は城じゃない」


全員を見渡す。


「人間だ。氏治という社長と、ここにいるお前たちだ」


言い切る。


「人さえいれば、何度でもやり直せる」


一拍。


「だが、人を失えば、どんな城もただの廃墟だ」


その言葉に、家臣たちの表情がわずかに変わった。


深夜。


政貞は松明を手に、土浦城の防備を自ら確認して回った。


湿地帯に囲まれたこの城は、小田城に比べれば狭く、劣悪だ。


だが——


(守りやすい)


政貞は確信する。


「……ここを“稼げる拠点”に変える」


呟く。


「土地がないなら、水で稼ぐ」


霞ヶ浦を見据える。


「物流だ。水上ネットワークを作る」


静かに笑った。


「これが次のビジネスモデルだ」



4. 社長のメンタルケア


明け方。


城壁で震える氏治を見つけた。


「……政貞。情けない。先祖の城が燃えるのを、ただ見ているしかできぬとは」


政貞は隣に立ち、同じ方向を見る。


「殿」


静かに言う。


「経営で一番難しいのは“拡大”ではない。“縮小”です」


氏治が顔を上げる。


「今日、あなたは最も難しい決断をした」


一拍。


「過去を捨て、未来を選んだ」


「……それは、敗北ではないのか?」


「いいえ」


即答だった。


「再建の第一歩です」


煙の向こうを見据える。


「小田城は、いま謙信公に“貸している”だけです」


「貸す……?」


「ええ。利息付きで、いずれ回収する」


政貞は微笑む。


「それまでは、この土浦という小さなオフィスで、世界を驚かせましょう」


氏治は意味の半分も理解していなかった。


だが——


その言葉には、なぜか現実味があった。


「……わかった」


ゆっくり頷く。


「わしは、この土浦で再起する」



5. 第一四半期の目標設定


翌朝。


土浦城の門に、高札が掲げられた。


『小田家、土浦新本社にて営業再開。

旧社員(家臣・領民)は速やかに合流せよ。

新規採用(傭兵)も随時受付中』


集まった家臣たちを前に、政貞は宣言する。


「今期の目標は単純だ」


全員を見渡す。


「領土はいらない」


一拍。


「生き残れ」


ざわめき。


「そしてキャッシュ(兵糧と軍資金)を積み上げろ」


目が鋭く光る。


「城を失った分、我々は速くなった」


断言する。


「これからは、機敏に動く」


九度落ちても、十度這い上がる。


その裏には——


固定資産を捨て、組織を軽くし続けた、

狂気的な合理性があった。


小田城の炎が消える頃。


土浦という新しい本社では——


戦国史上例を見ない「逆転の事業計画」が、静かに動き始めていた。


---


第3話・ステータス報告


* ステータス: 小田城を放棄し、土浦城へ本社移転完了。

* 組織形態: 大規模領主から、機動性の高い「精鋭ベンチャー組織」へ移行。

* 政貞の評価: 「城への執着を捨てることで、ようやく戦いの土俵マーケットに乗った。次は資金調達だ」

* 氏治の様子: 「損切り」という言葉を覚え、少しだけ賢くなった気がしている(気のせい)。


【次号:第4話:人的資本(社員)の全回収】


「逃げた家臣に退職金……いや、再雇用ボーナスを出せだと!?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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