表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方  作者: 筑紫隼人
第1章:倒産危機と「PMO(プロジェクト管理)」導入

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

第4話:人的資本(社員)の全回収

1. バランスシートの惨状


 土浦城の執務室。

 政貞は、かき集めた数少ない帳簿と、逃げ延びてきた文官たちの証言をもとに、小田家の「現状アズ・イズ」を紙に書き出していた。


「……ひどいな。想像を絶する債務超過だ」


 政貞のペンが止まる。


 数日前までの小田家は、常陸南部に強固なネットワークを持つ中堅企業(大名)だった。

 だが、上杉謙信という巨大外資による強硬なM&A(落城)の結果――


 本社ビル(小田城)は灰燼に帰し、

 主要な仕入れ先(領民)との接点は遮断され、

 何より「社員(家臣)」の八割が離職(離散・降伏)していた。


 現在、手元に残ったリソースは――


 土浦城に逃げ込んだ数百の敗残兵と、

 鼻水を垂らして震えている社長・氏治のみ。


「菅谷様……。各支城からの連絡も途絶えました。佐竹義重の調略に応じた者も多いと聞きます。もはや、我らに付き従う者は……」


 老文官が、震える声で報告を締めくくった。


 政貞は、書き殴った現状分析を眺めながら、不敵に口角を上げる。


「いいえ。むしろ好都合です」


「今の小田家には、やる気のない窓際族や、しがらみだけの天下り役員は必要ない」


「我々に必要なのは――この絶望的な『ベンチャー環境』で、もう一度一山当ててやろうという野心あるプロフェッショナルだけだ」


「プロ……? 何を仰せか分かりませぬが、人は石垣、人は城。人がいなければ戦はできませぬぞ」


「その通り」


「だからこそ、今から――『全社員・再雇用キャンペーン』を開始します」



2. 再雇用ボーナスという劇薬


 政貞は、土浦城のわずかな蔵を開けさせた。


 そこにあるのは――

 前任者がコツコツと貯めていた予備費としての金銀、

 そして氏治の個人的なコレクションである茶器や宝物の類だ。


「殿。この蔵にある動産(宝物)をすべて現金化し、再雇用のための『サインオン・ボーナス(契約一時金)』に充てます」


 氏治は飛び上がった。


「な、何を言うか政貞! あれはわしが大事にしていた先祖伝来の……!」


「死んだ資産を持っていても、腹は膨らみません」


 政貞は、淡々と言い切る。


「いいですか殿。今の我々に必要なのは――『先祖の思い出』ではなく『明日の戦力』です」


「逃げた家臣たちに、こう触れ回るのです」


 ――土浦にて、再雇用の受付を開始した。

 ――今戻れば、未払い給与の清算に加え、特別再雇用手当を支給する。


「そんなことをすれば、蔵が空になってしまうではないか!」


「空にしていいんです。むしろ空にしなければ、新しい風は入りません」


 政貞は、氏治の目をまっすぐ見据えた。


「家臣が逃げたのは、彼らが不忠だからではない」


「彼らにとって、小田家という会社に『将来性』が感じられなくなったからです」


「ならば、まずは『キャッシュ』でその不安を拭い――次に『ビジョン』で縛り付ける」


「これが、人事戦略の基本です」



3. リクルーティング・キャラバンの始動


 政貞は、逃げ延びた数少ない側近たちを集め、特殊な任務を命じた。


「お前たちは、近隣の村々や、佐竹の陣、あるいは上杉の影に隠れている家臣たちのもとを回れ」


「そして、刀を抜けと言うのではなく――こう囁くんだ」


 ――小田氏は死んでいない。

 ――土浦で、かつてない大規模な事業拡大を計画している。


「事業拡大……? 城を失ったばかりなのにですか?」


「そうだ。失ったからこそ、新しいスキーム(仕組み)が組める」


「政宗や氏治という古い看板に、俺のロジックという最新のエンジンを積むんだ」


 そして、政貞は一枚の紙を差し出した。


「……あと、これを持っていけ」


 それは、氏治の直筆による一筆箋だった。


『お前がいないと寂しい。飯を食わせてやるから、早く戻ってこい。 氏治』


「殿のブランド力(愛されキャラ)を最大活用します」


「論理で動かない人間も、このエモーショナルな訴求には弱い」



4. 人的資本の回収と「評価制度」の導入


 数日後。


 土浦城の門前には、驚くべき光景が広がっていた。


 一度は逃げ出し、農民の格好に身をやつしていた武士たち。

 他家に仕官しようとしていた元家臣たち。


 彼らが、続々と集まり始めたのだ。


「殿! 申し訳ございませぬ、それがし、上杉の勢いに恐れをなし……!」


 泥まみれで平伏する家臣。


 氏治は、政貞に教えられた通り――大げさに涙を流し、抱きしめた。


「おお、よく戻ってくれた! お前がいれば百人力じゃ!」


 その光景を、政貞は冷徹な「人事部長」の目で観察していた。


「……さて、再雇用は完了した。だが、ここからが本番だ」


「ただ人を集めるだけでは、また次の危機で離散する」


「必要なのは、成果主義に基づく『新しい評価制度』の導入だ」


 政貞は、集まった家臣たちの前で宣言する。


「諸君。小田家は本日、生まれ変わった」


「これまでの身分や門閥はすべてリセットする」


「評価の基準はただ一つ――『小田家の再建バリューアップにどれだけ貢献したか』だ」


「領地を失った今、我々が配当できるのは、これから奪い返す『未来の利権』のみ」


「つまり、君たちは小田家のストックオプション(新株予約権)を手に入れたも同然だ」


 家臣たちは、聞いたこともない言葉に困惑しながらも――

 政貞が放つ「稼げる組織」の熱量に圧倒されていた。


「これより、全社員を能力別に再編成する」


「軍事部門、調達部門、外交部門、そして――霞ヶ浦を活用した物流部門」


「お前たちの適性を俺がプロファイリング(分析)し、最適配置アサインする」


「拒否権はない。だが――」


「結果を出せば、小田城を奪還した暁には、旧来の十倍の報酬を約束しよう」



5. 人的資源の保全


 その夜。


 政貞は、再び氏治の部屋を訪れた。


 氏治は、戻ってきた家臣たちとの宴で疲れ果て――満足げに寝息を立てている。


 政貞は、窓の外へと視線を向けた。


 松明を掲げ、見張りに立つ家臣たち。


(……人的資本の回収は成功だ)


(だが、このリソースを維持するには――一刻も早く『稼げる構造』を作らねばならない)


(再雇用ボーナスで蔵は空だ。来月には、給与の支払いが滞る……)


 その脳内ではすでに、霞ヶ浦の漁業権と水運を組み合わせた――


「水上物流プラットフォーム」の収益モデルが完成しつつあった。


 土地(城)を失い、身軽になったからこそ――

 彼らは「水」の上で戦うことができる。


「……いいか、諸君」


「お前たちはもう、ただの侍じゃない」


「小田再建という名のスタートアップ企業の――『創業メンバー』だ」


「過労死するまで働いてもらうぞ」


 政貞の瞳には――


 燃える小田城の残り火よりも熱く、

 そして冷静な「事業欲」が宿っていた。


 九度落ちた城を、十度目に奪還するための――


 「最強のチーム」が、今。


 土浦という泥の中から、立ち上がろうとしていた。



第4話・ステータス報告


・ステータス:

 人的資源(離散家臣団)の約六割を回収。


・財務状況:

 キャッシュ(現金・宝物)はほぼゼロ。来月より深刻な運転資金不足の予想。


・新規導入:

 能力主義に基づく「再雇用プログラム」および

 「将来の領土分配約束ストックオプション」。


・政貞のメモ:

「エモーショナル(氏治の情)とロジカル(俺の金・ビジョン)の組み合わせは最強だ。さて、次は空の金庫をどう埋めるかだ」



【次号:第5話:常陸マーケットのデューデリジェンス】


「佐竹義重の弱点? ……あいつ、固定費(兵数)をかけすぎて、利益率(実質支配)がボロボロじゃないか」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ