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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方【完結済/続編有/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第4章:FIREへのエグジット

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第28話:氏治、最後の大失態 ―― 土壇場でやらかす社長。「親父殿、これだけは計算外だ!」

1. 絶望の「ガバナンス」崩壊


天正十八年(1590年)六月、小田原。


梅雨の湿り気を帯びた夜気が、小田軍の陣屋を重苦しく包んでいた。


しかし、その内部だけは、異常な熱気と、それ以上に異常な「冷気」が同居していた。


「……ほう。このわしに、酒を飲めと。……北条の『残党』を囲い込み、宴に興じているこの真っ只中に、わしを誘うと申すか。……小田氏治」


豊臣秀吉の声は、地を這うような低音だった。


黄金の陣羽織が、揺れる松明の火に照らされて不気味に光る。


背後に控える石田三成は、すでに刀の柄に手をかけ、政貞を殺さんばかりの眼光で睨みつけていた。


政貞(佐藤)は、額から滝のような汗を流しながら、脳内の「リスク管理シミュレーター」をフル稼働させていた。


(……最悪だ。……救出した北条の技術者たちは、秀吉にとっては『没収すべき戦利品』であり、勝手に連れ出す行為は『横領』に等しい。……その証拠物件と酒を飲んでいる現場を抑えられるとは。……私のコンサル人生、ここで強制終了(物理)か……!?)


だが、その絶望的な沈黙を破ったのは、やはり、この男だった。


「……何を仰いますか、秀吉様! 秀吉様は、天下の主。この者たちは、私が秀吉様のために『選りすぐった』、新しい日本を造るための名工たちにございます! ……さあさあ、三成殿も。そんな怖い顔をせず、この堺の銘酒を一杯!」


氏治は、秀吉の肩に手を回さんばかりの勢いで、黄金の盃を差し出した。


泥酔しているわけではない。


彼は本気で、これが「正しい接待」だと信じ込んでいるのだ。


その瞳には一点の曇りもなく、秀吉という絶対強者に対する恐怖すら、その「天然の善意」で塗りつぶされていた。


政貞は、心の中で絶叫した。


(……計算外だ! ……親父殿、これだけは私の計算式に入っていなかった! ……秀吉公相手に『物理的な距離の詰め方』を間違えるなんて、どんなマナー違反だよ!)


2. 「背任罪」の宣告


秀吉は、氏治が差し出した盃を、静かに手で押し戻した。


「……三成」


「はっ」


三成が、一歩前に出る。


その手には、一枚の書状――「小田家・軍規違反報告書」が握られていた。


「小田氏治、並びに菅谷政貞。……関白殿下の命に背き、敵方・北条の家臣を独断で連れ出し、隠匿した罪。これは明らかな『反逆』であり、戦時における利敵行為である。……小田家、本日をもって改易。……並びに、主従ともに小田原の露と消えていただく」


三成の声が、陣屋内に冷たく響く。


救出されたばかりの山崎ら北条の工匠たちは、顔を伏せ、ガタガタと震え出した。


自分たちのせいで、恩人が死ぬ。


その罪悪感が、場をさらに重くする。


「……待ってください!」


政貞が、地面に額を擦り付けるようにして叫んだ。


「殿下、三成殿! これは……これは『人材の救済』にございます! 北条という沈む船の中で、彼らのような稀代の技術者が死ぬことは、天下を統一される殿下にとって、数万石の損失に等しい。……私は、殿下の財産を『保全』しに行ったのです!」


「……保全、だと?」


秀吉が、冷ややかに政貞を見下ろした。


「左様です! ……殿下は、小田原を落とした後、この東国をどうされるおつもりですか? ……荒れた大地を、誰が耕し、誰が水を引くのですか? ……北条という組織は潰しても、彼らの持つ『技術ナレッジ』は潰してはならない。……私は、殿下のために、彼らを『先行投資』として確保したのです!」


政貞は、必死でロジックを紡いだ。


だが、秀吉の怒りは、論理で解けるほど単純なものではなかった。


「……政貞。お前の口の巧さは知っている。……だが、わしが許せないのは、その『理屈』ではない。……わしの頭を飛び越えて、勝手に物事を進めたその『傲慢』だ。……組織に二つの頭はいらぬ。わしがルールだ。……それを乱す者は、たとえどんなに有能でも、わしの世界には必要ない」


秀吉が、右手を上げた。


それは、処刑を命じる合図だった。


3. 氏治の「最後の大失態」


三成が刀を抜こうとした、その瞬間。


氏治が、信じられない行動に出た。


「……あ、あった、あった! これだ、これですよ秀吉様!」


氏治が、陣屋の奥に積まれていた荷物をひっくり返し、一つの「古びた木箱」を秀吉の足元に差し出した。


「……何だ、それは」


秀吉が、不審そうに目を細める。


「……これは、わが小田家に代々伝わる……えーと、なんだっけ。……とにかく、凄いお宝です! ……秀吉様、この者たちの命、この『お宝』と交換してくれませんか?」


政貞は、目を見開いた。


(……お宝? 小田家にそんな大層な名器なんて残っていないはずだ。……まさか、あの『九度落城』の際に、土に埋めて隠していたという伝説の……!?)


政貞の脳裏に、わずかな希望が走る。


もし、千利休も驚くような伝説の茶器や、歴史を変えるような古文書であれば、秀吉の機嫌を直せるかもしれない。


秀吉は、疑い深い表情のまま、三成に箱を開けさせた。


中から出てきたのは――


「……何だ、これは。……ただの『石』ではないか」


三成が呆れたように言った。


箱の中に入っていたのは、何の変哲もない、少し丸みを帯びた河原の石。


それが一つ、恭しく布に包まれているだけだった。


「……は? 石?」


政貞も、言葉を失った。


「……そうです! これは、わしが子供の頃、川で拾った……『絶対に沈まない石』なんです! ……わしは、九度も城を奪われましたが、そのたびにこの石を見て、『次は沈まないぞ』と自分を励ましてきました! ……天下の秀吉様にこそ、この『不沈の石』が相応しい!」


氏治は、満面の笑みで、その「ただの石」を秀吉に差し出した。


政貞は、膝から崩れ落ちた。


(……終わった。……よりによって、この土壇場で、ただの石を天下人にプレゼントするなんて。……これ以上ない『大失態』だ。……不敬罪のトリプル役満だよ!)


陣屋の中が、死のような静寂に包まれる。


秀吉の顔は、怒りを通り越して、無表情になっていた。


「……小田氏治。……お前は、このわしを、そこまでコケにするか」


秀吉の指が、ピクリと動く。


三成の刀が、鞘から数センチ走った。


4. 逆転の予兆:秀吉の変節


だが。


その「石」をじっと見つめていた秀吉が、不意に、肩を震わせ始めた。


「……ク……ククク……」


三成が驚いて、動きを止める。


「……殿下?」


「……ハハ……ハハハハハ! ……不沈の石だと!? ……九度も城を落とされた阿呆が、このわしに、自分を励ました石を贈るというのか! ……ワッハッハッハ!」


秀吉が、腹を抱えて笑い出した。


それは、これまで政貞が見たことのない、狂気と邪気の入り混じった、だがどこか「人間」を感じさせる笑いだった。


「……面白い! ……あまりに阿呆すぎて、怒る気も失せたわ! ……政貞、見ろ。お前の主君は、天才か、それとも救いようのない真の馬鹿か、どちらかだ!」


秀吉は、その「ただの石」をひょいと掴み上げ、まじまじと眺めた。


「……いいだろう。この『不沈の石』の価値、わしが認めてやる。……ただし! ……ただで彼らを許すわけにはいかん」


秀吉は、鋭い視線を政貞に向けた。


「政貞。……明日、わしの本陣に来い。……お前が先ほど言った『先行投資』とやらが、いかにしてわしの天下を潤すのか。……もし、わしを心底納得させる『説明ピッチ』ができなければ、その時は……お前と、その北条の連中をまとめて、小田原の海へ沈めてやる」


秀吉は、それだけ言い残すと、石を懐に入れ、笑いながら陣屋を去っていった。


三成は、忌々しそうに刀を納め、政貞に吐き捨てた。


「……運のいい奴め。……だが、殿下の『納得』を得るのは、千の首を獲るより難しいぞ。……覚悟しておくことだ」


5. 親父殿、これだけは計算外だ!


嵐が去った後の陣屋。


政貞は、腰が抜けたまま、しばらく立ち上がることができなかった。


「……あー、怖かった! でも、秀吉様もあの石を気に入ってくれたみたいで、良かったなぁ、政貞!」


氏治が、ケロリとした顔で酒を煽っている。


政貞は、震える手で氏治の襟首を掴みたかった。


だが、その力すら残っていなかった。


「……殿。……親父殿。……これだけは、これだけは私の計算外でした。……あの石、本当にただの石なんですよね?」


「ん? ああ、そうだよ。昨日、その辺の川で拾ったんだ。……『不沈』っていうのは、今思いついた」


「…………」


政貞は、天を仰いだ。


コンサルタントとして、MBA(経営学修士)並みの知識を駆使し、あらゆるリスクをヘッジしてきたつもりだった。


だが、結局自分たちの命を救ったのは、主君の放った「究極のデタラメ」だったのだ。


だが、安堵している暇はない。


明日の朝には、天下人・豊臣秀吉への「最終プレゼン」が控えている。


成功すれば、真のエグジット。


失敗すれば、文字通りの破滅。


政貞は、急いで筆と紙を取り出した。


(……ロジックだ。……あの石のデタラメを、秀吉公が『納得』するだけの、強固なビジネスモデルに変換しなければならない。……『九度落ちた男の生存戦略』。……それを、天下統一のラストピースとして売り込む!)


政貞の指先が、火を噴くような勢いで筆を走らせる。


「……山崎殿! 寝ている場合ではありません! 貴殿の持っている江戸周辺の地形図、すべて出してください! ……これから、朝までに『新・関東開発計画書』を書き上げます!」


小田軍の陣屋に、再び緊張の火が灯る。


一方その頃。


石垣山一夜城の本陣で、秀吉は一人、懐からあの「ただの石」を取り出し、月の光に透かしていた。


「……不沈、か。……クク……。……あのアホ主従。……明日の朝、どんな『嘘』を並べ立てるか、見ものよな」


秀吉の口元に、冷酷な、しかし期待に満ちた笑みが浮かぶ。


さて、まず最初にやるべきことは――。


第28話・ステータス報告


・ステータス: 改易・処刑の危機を、氏治の「不沈の石」で一時回避。


・主要成果: 秀吉への「最終プレゼン(ピッチ)」の機会を獲得。


・KPI: 生存確率:15% → 40%(微増)。精神的疲労度:測定不能。


・政貞のメモ:


「戦略は、常に現場で書き換えられる。……私は『理論』で勝とうとしたが、殿は『共感(あるいは困惑)』で秀吉公の懐に潜り込んだ。……だが、ここからが本当の勝負だ。……秀吉公は、面白がっているだけではない。……彼は、小田家を利用する価値があるかどうか、その『最終試験』を課したのだ。……一晩で、この戦国を終わらせる『最強の事業計画』を仕上げてみせる」


【次号:第29話:秀吉へのプレゼン(ピッチ) ―― 「小田家を生かしておくメリット」を関白にロジカルに提案。】


―― 運命の朝。


石垣山一夜城にて、政貞の「命がけのプレゼン」が始まる。


地図、統計、そして未来予測。


秀吉という巨大な投資家を唸らせる、政貞の「関東再生スキーム」とは何か。


小田家のFIREが、今、現実味を帯びる!

本日も最後までお読みいただきありがとうございます!


本作「小田家V字回復」は、著者の【コンサル戦国転生シリーズ】第2弾として執筆しております。

実は、このシリーズの原点となる第1弾「過労死コンサル、足利義昭に転生す。」は、すでに完結まで公開済みです。


「小田」の泥臭い経営再建を楽しんでいただけている方なら、第1弾の「室町幕府ホワイト化計画」も必ずニヤリとしていただけるはず。


「まずは完結済みの義昭でスカッとして、連載中の小田でじっくり再建を見守る」

そんな楽しみ方をしていただけると、作者としてこれほど嬉しいことはありません。


ぜひ、シリーズ両作品へのブックマークと評価で応援いただければ幸いです!


▼【シリーズ第1弾・完結済】はこちら

過労死コンサル、足利義昭に転生す。ホワイトな信長を魔王にプロデュースして今度こそFIREを目指します

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


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