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九十四話 想いで切り拓く道

「ヴォルテス、あなたの思い通りになんか……

 絶対にならないんだから」


 アリスはヴォルテスを鋭く睨みつけた。


 しかし、その瞳に宿る光は弱く、足は小さく震えていた。

 立っているだけでも、限界に近いのだろう。


「ふははははは!

 魔女よ……その様で、まだ抗うか!」


 嘲笑ちょうしょうが響く。


 そして、ノイスから赤黒い魔素が噴き出した。


 ――ドドドドドドドッ!


 暴走するように撒き散らされる魔素が、空間を軋ませる。


 ノイスの身体は、不安定に揺れていた。


「いいぞ……!

 始祖オリジン!」


 ヴォルテスの顔が、歓喜に歪む。


「すべてを壊し尽くせ!!」


 ノイスは魔素を撒き散らしたまま、ゆっくりと地上へ降り立った。


「アリスさん……」


 ミリアは胸の前で手を強く握りしめる。


「ノイス君……

 すごく苦しそうにしてる……」


 その声は震えていた。


「僕、助けてあげたい……」


 ミリアはこの危機においても、ノイスの身を案じていた。


「……そうね。

 みんなの呼びかけのおかげで、ノイスの心は揺らいでいるわ」


 アリスは目を逸らさず、静かに言う。


「戻りかけていたノイスに、慌てたヴォルテスが無理に出力を上げたせいで、暴走している」


 かすかに息を吐く。


「これは、きっと最終手段。

 ヴォルテスも、余裕がないはずだわ……」


 視線の先で、ヴォルテスの表情は明らかに崩れていた。


「あと一歩よ……」


 アリスの声が低くなる。


「ノイスの中にある……

 いちばん強い感情を引き出せればきっと!」


「でも、これじゃ近づけねぇ!」


 ロウが歯を食いしばる。


 ノイスは禍々しい魔素を撒き散らしていて、とても近づけるような状態ではない。


「俺たちも……

 もう魔素も体力も限界だ!」


 撒き散らされている赤黒い魔素。


 細かく飛び散ってはいるが、その性質は間違いなく――


 禁術ラグナロク


 触れれば、ただでは済まない。


「……それでもやるしかないのよ」


 アリスは静かに言った。


「もう一度……みんなで、力を合わせるの。

 それしかないわ」


 全員が顔を見合わせた。


 傷だらけのまま。


 息を切らしたまま。


 それでも、その瞳から諦めの色は消えていなかった。


「これが……

 きっと最後のチャンスになるわ」


 アリスの声が、強く響く。


「泣いても、笑っても……

 これが最後よ」


 一拍の静寂。


 そして――


「いくわよ」


 その一言を合図に、七人は一斉に地を蹴った。


 ふらつきながらも、それでも前へ進んでいく。


 魔素は、もう底をつきかけている。


 それでも、誰一人として迷わない。


 ただひとつ――

 ノイスへ、想いを届けるために。


「おおおおおっ!!」


 ロウが先頭を切るように駆ける。


 その横を、風鳥に乗ったルーシーが滑るように飛ぶ。


 ミレイユは雷を纏って一直線に。


 ユミナは風を纏い、空気を蹴るように。


 駆け出すミリアの装備型魔道具フルドライブは、もう左手のパーツしか残っていない。


 それでも、その青い光は消えていなかった。


 アリスもフルートを握りしめ、血を流しながらも足を止めない。


 そして最後尾から、ルキウスが光を纏って全体を見据えていた。


 七人が一斉に迫る中、ノイスの瞳が鋭く揺れた。


 迫り来るアリスたちを視界に捉えた瞬間、ノイスの両手に膨大な魔素が収束する。


「……っ!」


 空気が焦げる。


 熱が膨れ上がる。


 それが放たれれば、七人まとめて焼き払われる。


「まずいっ……!」


 アリスが目を見開く。


 そして、ノイスの両手から極太の熱線が解き放たれた。


 ――ドゴォォォォォォンッ!!


 赤白い閃光が、一直線に七人へ迫る。


「ここは、私がっ!」


 ルキウスが叫ぶ。


 光の速度で、みんなの前へ立ち塞がる。


 全身の光を一気に解放する。


「創世の閃光よ――

 私たちの未来を導き、守れ!」


 ルキウスの杖の先に、神々しい光が渦を巻く。


「《ジェネシス・フォトン・シールド》!!」


 巨大な光の盾が七人の前にそびえ立った。


 それはもはや盾というより、神殿の門のような威容だった。


 神々しい光が何重にも重なり、眩く世界を染め上げる。


 そこへ、ノイスの極太熱線が激突する。


 ――ギィィィィィィィッ!!


 耳をつんざくような轟音。


 熱線が光盾を削り、光盾が熱線を押し返す。


 空間が軋み、床が溶け、周囲の瓦礫が次々と吹き飛んでいく。


「ぐっ……!」


 ルキウスの足元が砕ける。


 それでも、退かない。


 杖を握る腕が震え、全身から血が滲んでも、なお光盾は崩れない。


「ルキウス様!」


 ルーシーが振り向く。


「振り向くな!」


 ルキウスが、歯を食いしばったまま叫ぶ。


「ここは私が抑える……!

 だから、君たちは行け!」


 熱線の向こうを睨みつけ、さらに吠える。


「伝えてくれ……

 彼に!!」


 その言葉に、六人の目が変わる。


「行くぞ!!」


 ロウが叫ぶ。


 ルキウスの光盾が熱線を食い止めるその脇を、六人は一気に駆け抜けた。


 そして、さらにノイスへと接近していく。


 ノイスは熱線を放ったまま、わずかに視線を大地へ落とした。


 すると、左右の瓦礫が唸りを上げる。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 瓦礫が固まり、巨大な石壁となり左右からせり上がる。


 そのまま六人を押し潰すように、凄まじい勢いで挟み込もうとしていた。


「間に合わねえ、潰される!」


 ロウが目を見開く。


 だが、その前にミレイユとユミナが視線を交わした。


 言葉はいらなかった。


 二人は同時に左右へ跳ぶ。


「大気を震わす雷よ――

 我が身に宿り、帯電せよ!

 《雷纏装ライトニング・ドレス》!」


 バチィッ――と雷が弾け、ミレイユの全身を雷の衣が包み込む。


「駆け抜ける爽風よ――

 我が手足に宿り、渦巻き、空を駆けよ!

 《サイクロン・アクセルステップ》!」


 ユミナの手首と足首に小さな竜巻が発生し、その身体を軽やかに浮かせた。


 ミレイユは左から迫る石壁へ。


 ユミナは右から押し寄せる石壁へ。


 それぞれ真正面から飛び込む。


「うおおおおおっ!!」


 ミレイユが雷を纏った両手で石壁を押し止める。


 ――バヂィィィッ!!


 雷が石壁を走り、破片が飛び散る。


「うりゃああああっ!!」


 ユミナも竜巻を唸らせながら、両手を突き出して石壁へ食らいついた。


 激しい風圧が石壁を削り、押し返そうとする。


「ミレイユさん! ユミナさん!」


 ルーシーが悲鳴のように叫ぶ。


「ノイスの本当の気持ちを引き出せるのは……

 きっと、あたしたちじゃない!!」


 ミレイユが歯を食いしばりながら叫ぶ。


 押し寄せる石壁の圧に、雷の衣がきしみを上げる。


「悔しいけど……

 ノイピから見たら、ここはあーしたちの出る幕じゃないっしょ!!」


 ユミナも風を爆ぜさせながら叫んだ。


 石壁はなおも、じわじわと二人を押し潰そうとしてくる。


「でも……

 長くはもたないよ!」


 ミレイユの口元から血が滲む。


「行きな!!」


「あーしの分も……

 ちゃんと伝えてきてほしいっしょ!!」


 ユミナの叫びが、強く響いた。


「……っ!」


 ルーシーが唇を噛む。


 その横で、ロウが拳を握りしめた。


「ありがとよ!」


 ロウ、ルーシー、ミリア、アリス。


 残された四人は、二人が命懸けでこじ開けた道を駆け抜ける。

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