表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/78

七十四話 非道教師の教え

 スコルドの熱を帯びた言葉に、リオとレオの瞳がほんのわずかに揺らいだ。

 

「スコルド先生の言葉は理解不能です」

「僕たちは、殲滅対象を排除する。それだけです」


「……そうか」


 スコルドは短く言った。


「お前たちは、まだ俺の生徒ではないが……

 特別授業をしてやろう」


 スコルドは静かに杖を構えた。


「授業料はサービスだ」


 熱を帯びた魔素が、杖の先で渦を巻く。


「放て、爆炎弾。

 《ブレイズ・ボール》」


 爆炎弾が、双子めがけて一直線に放たれた。


 ――バァン!


 間一髪で爆炎弾をかわした二人は、即座に杖を構えた。


「正面からの力押しでは、こちらが不利と判断します」

「これまでの分析結果をもとに、スコルド先生の弱点を突きます」


 二人は顔を見合わせる。


 次の瞬間、レオの姿が掻き消えた。


「瞬間移動は見切って――」


 スコルドが移動先へ杖を向けようとした、その時。


 ぴたりと、その手が止まった。


 レオが現れたのは、ミレイユの背後だった。


 このまま魔法を放てば、ミレイユを巻き込む。


「動かないでください、先生」


 レオは一瞬でミレイユの手首を掴み、そのまま背後から拘束した。


「動けば、この方が死ぬことになります」


「っ……!」


 スコルドが杖に込めていた魔素を沈めた。


「先生! ……あたしのことは――」


 ミレイユは暴れるが、レオの拘束から逃れられない。


「大人しくしていてください。

 怪我だけでは済みませんよ?」


 スコルドが魔法を中断した隙を逃さず、リオが魔法を放つ。


「凍てつく氷よ、槍となれ。

 《アイス・ランス》」


 ――ズガッ!


 氷槍がスコルドの右肩を貫き、鮮血が飛び散った。


「先生!!

 なんて卑怯な真似するっしょ!」


 飛び出しかけたユミナへ、レオが鋭く視線を向ける。


「あなたも動かないでください」


 同時に、リオがユミナへ杖を向けた。


「おい」


 スコルドの低い声が、広間に落ちる。


「生徒には手を出すな」


 右肩から血を流しながらも、その目だけは冷え切っていた。


「俺の前で、次に生徒を傷つけてみろ」


 その声は静かだった。


 だが、静かだからこそ、底知れない怒りが滲んでいた。


「命はないと思え」


 スコルドの眼光に射抜かれ、リオの頬を冷や汗が伝う。


 ほんのわずかに、リオの足が後ろへ下がった。


「……スコルド先生は、非合理的です」


 リオが強がるように小さく呟く。


「先にスコルド先生を排除してから、

 お二人を殺せば済むことです」


 レオも、感情を押し殺した声で続けた。


 リオの杖先に冷たい魔素が集まり始める。


「次は、しっかり急所を射抜きます。

 凍てつく氷よ、槍となれ――」


「先生っ!」


 ミレイユが叫ぶ。


 だが、スコルドは動かない。


 いや――動けないのだ。


 ここで自分が動けば、ミレイユを危険に晒すかもしれない。


 ミレイユは歯を食いしばった。


(先生……あたしたちを守ることばっか考えてる……!)


 だったら。


 これ以上、先生の足枷になるわけにはいかない。


 ユミナへ視線で必死に合図を送ると、

 ユミナも小さく頷いた。


「ユミナァ!」


「わかってるっしょ!」


 ミレイユは拘束されたまま無理やり足を振り上げ、全身で体勢を崩した。


「……っ?」


 レオの拘束は外れない。


 だが、支えを失ったレオの体がわずかに傾ぐ。


「いくら暴れようと無駄です」


 けれど、ミレイユの狙いは逃げることではない。


 ユミナに詠唱の隙を作ることだった。


「突風よ! ミレイユたちを跳ばせ!

 《サイクロン・リープ》!」


 短い詠唱とともに、爆ぜるような突風が巻き起こる。


 狙いはリオではない。

 ミレイユごとレオを巻き込み、体勢を崩したまま戦線の外へ弾き飛ばす――それがユミナの狙いだった。


「……っ!」


 突風に煽られ、ミレイユとレオの体がまとめて宙へ跳ね上がる。


「先生――今っ!!」


 ミレイユは空中で叫んだ。


「まったく……

 うちの生徒は無茶をする」


 スコルドは呆れたように吐き捨てながら、杖をリオへ向ける。


「もう遅いです」


 リオは勝ち誇ったように小さな笑みを浮かべた。


「スコルド先生が詠唱を終える前に、

 僕の氷槍の方が急所を貫きます」


 リオの氷槍がスコルドの背後へ転移する。


 死角に現れた氷槍がスコルドを貫こうとする直前。


「爆ぜろ、熱風。

 《ブレイズ・ファイア》」


 灼けつく熱風がリオへ向かって一直線に吹き荒れた。


「せめて、相打ちというわけですか」


「甘いな……」


 スコルドが低く呟く。


 熱風の余波がスコルドの背後まで吹き抜け、転移してきた氷槍を一瞬で溶かし崩した。


「ありえません……

 氷が一瞬で溶けるほどの高温の中で、平然と立っているなんて――」


 リオの言葉を最後まで待たず、熱風はそのままリオを正面から呑み込み、壁際まで吹き飛ばした。


 強く壁へ叩きつけられたリオは、そのままずるりと崩れ落ちた。


「氷は熱に弱い」


 スコルドは杖を下ろしもせず、淡々と言う。


「ちゃんと復習しておけ」



◇◇◇◇◇

 


「やってくれましたね」


 突風で巻き上げられたレオは、ミレイユの拘束を離し、空中で体勢を立て直す。


「もう好きにはさせないよ!」


 ミレイユが杖を構え、力強く詠唱する。


「大気を震わす雷よ――

 我が身に宿り、帯電せよ!」


「《雷纏装ライトニング・ドレス》!」


 ――バチィッ!


 雷の衣が再びミレイユの全身を包み込む。


 逆立つ髪。

 弾ける火花。

 消えかけていた光が、意地を見せるようにもう一度燃え上がった。


「まだそんな余力が……

 理解不能です」


 レオが淡々と呟く。


「当然っしょ!」


 ユミナが宙へ飛び上がる。


「駆け抜ける爽風よ――

 我が手足に宿り、渦巻き、空を駆けよ!

 《サイクロン・アクセルステップ》!」


 手首と足首に小さな竜巻を纏い、ユミナが軽やかに空中を駆けた。


「あーしらでケリつけるっしょ!」


「無駄です」


 レオの姿が掻き消え、ユミナの背後へ現れた。


「放て。雷撃スパーク


 だが、ユミナは踊るように体をひねり、雷撃は虚しく空を切る。


「……っち。

 すばしっこいですね、本当に」


 レオがわずかに苛立ちを滲ませた。


「ユミナ! 合わせるよ!」


「任せるっしょ!」


「雷よ! 射抜け!

 《サンダー・アロー》!」


「駆け抜ける爽風よ――

 《サイクロン・フィスト》!」


 レオは二人の魔法を避けようと、再び姿を消した。


 二人は魔法を手元に溜める。


「魔素の流れ……見えた!」

「移動先、そこっしょ!」


 ――シュン!


 レオが瞬間移動したその先には、すでに雷矢と風拳が待ち構えていた。


「そ、そんな――」


 ――バギィンッ!!


 雷矢と風拳が同時に叩き込み、レオの体は煙を上げながら、そのまま床へと激しく叩き落とされた。


「さっき先生から教わったんだよ!」


 ミレイユが息を切らしながら叫ぶ。


「魔素の動きを見れば、移動先はわかるって!」


「あーしたち舐めた罰っしょ!」


 ユミナも笑ってみせる。


 レオがそのまま床へ叩きつけられる――

 そう思った瞬間。


「吹けよ、風。

 《ウィンド》」


 スコルドの風がふわりと吹き、レオの体を優しく床へ転がした。


 気を失ったレオと、壁際で崩れ落ちたリオ。


 倒れた双影ツインズを見下ろし、スコルドは小さく鼻を鳴らす。


「まあ……

 及第点だ」


 ミレイユとユミナは身体を支え合いながら着地すると、その場にへたり込んだ。


「はぁ? どこみてんの?

 どう見ても満点はなまるっしょ!」


「そーだよ!

 こんだけ頑張ったんだから、もっと褒めろ!」


 二人は魔法を解き、精一杯強がってみせた。


 スコルドは小さく息を吐いた。


「調子に乗るな。

 連携は悪くなかったが、詰めが甘い」


「うわ、出た……」

「さすが非道のスコルド。厳しすぎっしょ……」


 ミレイユとユミナが揃って口を尖らせる。


 だが、次の瞬間。


 スコルドはふっと、わずかに表情を和らげた。


「……だが、よくやった」


 そう言って、これ以上ないほど優しい手つきで、二人の頭にぽんと手を置いた。


「……っ」

「えっ……」


 あまりにも不意打ちな優しさと、見慣れない柔らかな表情に、ミレイユとユミナは思わず目を丸くした。


 普段とのあまりのギャップに、二人の胸はとくんと高鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ