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六十五話 連携の綻び

 ――石造りの広間


 そこでは、双影ツインズとミレイユ、ユミナの激しい攻防が続いていた。


「雷よ! 射抜け!

 《サンダー・アロー》!」


 ミレイユの放った雷矢が、一直線にリオの胸元を狙う。


 だが、その軌道上へ突如鉄板が転移され、雷矢は遮られた。


「ったく……反則でしょ!」


 次の瞬間――


「ミレイユ、後ろっしょ!」


 ユミナが叫ぶ。


 レオが瞬間移動で、ミレイユの背後へ現れていた。


「放て。雷撃スパーク


 ――バチンッ!


 しかし、そこにミレイユはいない。


 ミレイユは、先ほど鉄板に突き刺さった雷矢の位置へ移動していた。


 そして、鉄板に手をつき乗り越えるように飛び上がる。


「まずは、動けないお前の方からだ!

 雷よ! 射抜け!

 《サンダー・アロー》!」


 今度は上から雷矢が、リオへと放たれる。


 リオが手をかざすと雷矢を遮るように、またしても鉄板が転移された。


 ――ガヅン!


 しかし、その雷矢の電流が鉄板を通してわずかに走り、リオの身体を痺れさせた。


「……っ。その瞬間移動のような魔法は厄介ですね。

 まるでレオを相手にしているようです」


「ミレイユばっか見てる場合じゃないっしょ!」


 ユミナの手首と足首に纏わりつく小さな竜巻が唸り、リオの頭上へと浮いていた。


「駆け抜ける爽風よ――

 《サイクロン・フィスト》!」


「……っ」


 リオはミレイユの雷で痺れて反応が遅れる。


 風拳がユミナから放たれる――その寸前。


 レオが瞬間移動でユミナの前に現れ、その手を弾いた。


 風拳は明後日の方向へ飛んでいく。


「……っち。対応が早いっしょ」


「お二人の連携精度が上がっています」

「先程までとは、まるで別人ですね」


 レオが再び瞬間移動し、ミレイユの死角へ回る。


「お前は、いつもそこに現れるよな!」


 ミレイユの髪がふわりと逆立つ。


 《雷纏装ライトニング・ドレス》から溢れた雷撃が、背後へと走った。


 詠唱すらない、纏った雷による反射の一撃。


 ――バチィッ!


「……っ」


 レオは腕で受け、低く唸った。


「死角に雷撃とか、ミレイユ半端ないっしょ!」


 ユミナが口の端を上げる。


 ふわり、と浮いたまま左右へ揺れ、今度はリオへ向かって飛び込んだ。


「あなたはまったく学習しませんね」


 目の前の空間が歪み、鉄板が転移される。


「うわわっ――!」


 ユミナは空中で身体をひねり、鉄板を見事に避けた。


 右手、左手、右足、左足の竜巻を細かく制御しながら、器用に空中を跳ね回る。


「危なかったっしょ!」


 ユミナの行く手を塞ぐように、次々と鉄板が転移される。


「ほい! ほい!」


 だがユミナは身体をさらに捻り、一枚目を避け、二枚目を蹴り、三枚目を足場にしてさらに跳ぶ。


 右へ飛んだかと思えば、くるりと旋回し、今度は上へ。


 手首と足首の竜巻が、小刻みに軌道を変え続けていた。


「見切れるもんなら見切ってみるっしょ!」


「まるで小蝿のようですね。

 鬱陶しくてたまりません」


 無表情のリオの顔が、明らかに歪む。


「あれれぇ? もしかしてムカついてる感じ?

 怒るとかよくわかんないとかって、言ってなかったっけ〜?」


 空中で飛び回りながら、上から見下ろすように煽る。


「……不愉快です。これで終わりにします」


 ユミナの行く手をすべて塞ぐように、無数の鉄板が空中に出現した。


「いひひ。そうすると思ったっしょ」


 ユミナが、狙っていたかのように急停止する。


「駆け抜ける爽風よ――

 《サイクロン・フィスト》!」


 空中に並び立つ鉄板へ風拳を叩き込む。


 風に押し出された鉄板群はドミノ倒しのように崩れ込みながら、地上にいるリオへ殺到した。


 雪崩れ込む鉄板を転移させていくが、数が多く間に合わない。


 止められないと判断したリオは諦めたように大きく後退する。


 ――ズシャン!


 だが、落下の衝撃までは避けきれなかった。


 吹き飛ばされ、床へと叩きつけられた。


 口元に血を滲ませながらも、リオはすぐに立ち上がる。


 その瞳には、先ほどまでなかった揺らぎがあった。


「あれぇ?

 自分の転移した鉄板に押し潰されるのって、

 どんな気持ちー?」


「おいおい、見ろよ、ユミナ!

 双子でも瞬間移動しない方は、大したことないね」


 ユミナとミレイユがけらけらと笑う。


「理解できません。

 何故、笑っているのでしょうか」


 リオの声が、わずかに低くなる。


「僕たちをまだ攻略したわけでも、倒したわけでもないのに……

 笑うというのは、おかしさや喜びから生じるものです。

 この状況には適さないはずです」


 ――シュッ。


 レオが瞬間移動で隣に現れ、肩に手を置く。


「少し落ち着きましょう、リオ」


「僕は最初から落ち着いています」


 リオは即座に言い返した。


「それより、レオの雷撃も一度も当たっていませんね。

 動きが読まれているのではないでしょうか?」


 一瞬、空気が止まる。


「今それをここで言うことに、意味はあるのでしょうか?

 理解できません」


 双子の間に、これまでなかった微かな軋みが生まれていた。


 だが、それを見ていたミレイユの額からは、大粒の汗が一筋流れ落ちる。


 《雷纏装ライトニング・ドレス》を纏う雷も、先ほどよりわずかに薄い。


「……っ、はぁ……」


 無理やり口元を吊り上げていたが、呼吸までは誤魔化せない。


 ユミナもまた、空中でふらりと軌道をぶらした。


 手首と足首に纏った小さな竜巻が、一瞬だけ不安定に乱れる。


「ちょ、マジでやばぁ……」


 すぐに体勢を立て直したものの、その声には焦りが滲んでいた。


「ユミナ、やっぱそっちも?」


「……正直、きついっしょ」


 ユミナの息も荒い。


 《サイクロン・アクセルステップ》は、手首と足首に四つの風魔法を常時展開し続ける。

 浮遊と加速を同時に維持するその代償は大きく、魔素はごっそり削られていった。


 一方、《雷纏装ライトニング・ドレス》も消耗は激しい。

 雷を全身に纏い続けることで、魔素を練る工程を省き、即座に魔法へ変えられる状態を保っているからだ。


「もうそろそろ姉御がノイピを連れてくると思ってたけど……

 まだってことは、苦戦してるっぽいっしょ」


「双子の仲間割れで少しは時間を稼げたけど……

 ロウたちは、姐さんに合流できたのかな……」


 ミレイユが小さく歯噛みする。


「もう魔素の大半を、持っていかれてる」


 二人の胸に、同じ焦りが広がっていた。


 押しているように見えても、それは一瞬の勢いに過ぎない。

 このまま長引けば、先に尽きるのは自分たちだった。


 だが、二人が息を整える間もなく――


「……失礼しました、レオ」


 リオが淡々と告げた。


「不要な発言でした」


「いえ、問題ありません」


 レオもまた、何事もなかったかのように答える。


「処分対象二名の排除を優先します」


 双子の間に生まれかけていた軋みは、わずかな時間稼ぎにしかならなかった。


 感情の揺れを切り捨てるように、二人の瞳が再び冷たく研ぎ澄まされる。


「やば……立て直すの早すぎっしょ……」


 ユミナが顔をしかめる。


「もう少しくらい喧嘩してくれてもいいのにね……!」


 ミレイユが気合いで雷を纏い直した。


 その瞬間、リオの周囲に薄い氷の魔素が集まる。


「凍てつく氷よ、槍となれ。

 《アイス・ランス》」


 放たれた氷槍は、途中でふっと掻き消えた。


「――っ!」


 次の瞬間、何もない空間から鋭い氷槍が突如ミレイユの眼前へ現れる。


「ミレイユっ!」


 ユミナが叫ぶ。


 ミレイユは反射的に身をひねり、氷槍を避けようとした。


 だが、それこそが狙いだった。


 回避で体勢が流れたその懐には、すでにレオが瞬間移動で滑り込んでいた。


「ち、近っ……!」


「放て。雷撃スパーク


 至近距離から、短い詠唱とともに雷撃が走る。


 ――バチンッ!


「きゃあっ!」


 ミレイユの腹部に雷撃が炸裂し、纏っていた《雷纏装ライトニング・ドレス》が大きく揺らいだ。


「ミレイユ!」


 ユミナが踏み込む。


 だが、その動きを読んでいたように、レオがすでに杖を構えていた。


「まずいっしょ!」


 ユミナは咄嗟に空中へ逃れようとする。


 だが、その頭上に影が落ちた。


「ちょっ!」


 周囲を囲うように鉄板が次々と転移され、ユミナは八方塞がりとなる。


「轟く雷よ、叩き潰せ」


 逃げ場を失ったユミナへ向け、レオが魔素を集中させる。


「ちょ、待つっしょ……!

 話せばわかるっしょ!

 こう見えて、あーしは着痩せする方で脱いだらすご――」


「《スパーク・メイス》」


 雷棍が、逃げ場のないユミナへ容赦なく叩き込まれた。


「ぐうぇあっ!」


 直撃を受けたユミナは、煙を上げながらその場に倒れ込む。


「くっ……! ユミナ!」


 だが、返事はない。


 ミレイユは焼けた腹部を押さえながら、どうにか立っていた。


「やはり大したことはありませんでしたね、リオ」

「そうですね、レオ」


 倒れたユミナ。


「ちくしょう……ここまでかよ」


 そして、双子に杖を向けられた満身創痍のミレイユ。


「これで処分完了です」

「――お疲れ様でした」

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