五十五話 奪還チームの実力
岩竜はMCRアジトの外壁を突き破り、そのまま施設の中枢部へと突入した。
壁は砕け、天井は崩れ、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
だが、アリスはそのすべてを読み切っていた。
砕け散る岩片さえ意のままに操り、ロウたちを誰一人傷つけることなく、中枢部の床へと降り立たせる。
「さあ。迎えに来たわよ、ノイス」
アリスはフルートをくるりと回し、軽やかに構えた。
「こんなことまでやっちまうなんてよ……
俺ら、いらなかったんじゃねえか?」
ロウは、あまりの規模の違いに目を丸くした。
「土魔法で作った岩の竜で空を飛ぶだけでも規格外だというのに。
砕けた岩を再編成して、別の魔法に変えるなんて……」
ルーシーが冷静に分析する。
「絶詠の魔女様ぁ、カッコ良すぎです!」
目がハートの形になるルーシー。
「ありがと、ルーシーちゃん」
アリスが嬉しそうに笑った。
「ミレイユ! ミレイユ!
しっかりするっしょ!」
ユミナが白目を剥くミレイユを強く揺さぶる。
「こんな所で寝てたら風邪ひくっしょ!」
「あわわ、あわわわわ……」
ミレイユは虚ろな目で呟く。
「落ちていく……死ぬ……」
石の翼が消えると同時に、施設の奥から足音が響いた。
――ザッ、ザッ、ザッ。
黒いローブを纏った魔法使いたちが、次々と姿を現す。
通路、階段、二階の回廊――あらゆる場所から。
気付けば――
アリスたちは完全に取り囲まれていた。
「げっ……もう見つかったぞ」
ロウが顔をしかめる。
「あれだけ派手にやらかせば、誰でも気付きますよ」
ルーシーが冷静に周囲を見回した。
「それにしてもこの人数……まるで奇襲を予知していたみたいですね」
「なんだか歓迎されてるっぽいっしょ……」
ユミナが苦笑する。
「全然嬉しくない歓迎ね……」
ミレイユは青ざめた顔のまま、深く息を吸った。
それから、震える手で杖を握り直す。
黒ローブの魔法使いの一人が、杖を掲げる。
「侵入者を確認」
「標的――絶詠の魔女アリス・ノーチラス」
「排除を開始する」
一斉に杖が掲げられる。
魔素が膨れ上がり、空気が震えた。
アリスが一歩前へ出た。
「数だけは多いわね」
フルートを軽く回す。
「まとめて片付けるわ」
しかし――
「待ってください!」
ルーシーが、アリスの前に立った。
「絶詠の魔女様は、ノイスくんのところまで力を残しておいてください」
真剣な眼差しで言う。
「ヴォルテス元会長の相手も、
絶詠の魔女様にしかできません」
ロウも前へ出る。
「そうだ。ここは俺たちに任せろ」
ユミナが杖をくるりと回した。
「あーしたちだって、ただの足手まといじゃないってところを見せるっしょ!」
ミレイユも震える手で杖を構える。
「まだちょっと怖いけど……
やってやるわよ」
アリスは一瞬だけ目を細めた。
そして――
ふっと微笑む。
「あら、頼もしいわね」
アリスはフルートを肩に乗せた。
「ちょうどいいわ。
みんなの実力、見せてちょうだい」
その言葉を合図に――
MCRの魔法使いたちが一斉に動いた。
「穿て、氷結の槍!
《アイス・ランス》!」
「放て、豪雷の斬撃!
《サンダー・スラッシュ》!」
無数の魔法が一斉に降り注ぐ。
「ここはあたしに任せて!」
ミレイユが前に出た。
「大気を震わす雷よ!
あたしたちの盾となれ!」
詠唱と同時に、ばちばちと火花を散らす雷の壁が展開される。
「《ライトニング・ウォール》!」
雷壁が、降り注ぐ魔法を受け止めた。
その隙を突き――
ユミナが横へ回り込む。
「駆け抜ける爽風よ――
あーしの意思によって、軌道を変えよ!」
「《サイクロン・フィスト》!」
風の拳が唸りを上げ、MCRの魔法使いたちの杖を弾き飛ばした。
しかし――
すぐさま別の敵の魔法使いが、ユミナへと詠唱を始める。
「放て! 豪炎の竜巻よ!
《ファイヤー・トルネード》!」
「ちょっ!? 炎と風の複合魔法!?」
ユミナが慌てて杖を構え直す。
「俺に任せろ!」
ロウが前に出た。
「蒼炎よ! 全てを焼き尽くせ!」
「《ファイヤーバーン・サファイア》!」
ロウの蒼炎が竜巻へと突き刺さる。
炎の竜巻は――
瞬く間に青い炎へと染まった。
そして竜巻は崩れ、蒼炎が周囲へと散る。
「なんだ……この青い炎は!?」
「侵入者は絶詠の魔女一人だと聞いたぞ。
こいつらは……なんなんだ!」
「ちょっ! ロウ、こっちにも飛び火してるっしょ!」
ユミナは飛び散る蒼炎を、体をひねってギリギリで避けた。
「ユミナさん!」
ルーシーがすぐにフルートを奏でる。
「《ウォーター・ホーク》」
巨大な水鳥が現れ、猛スピードで空を駆ける。
ユミナたちへ飛び散る蒼炎を、次々とかき消しながら空を旋回した。
「ルーたん、助かったっしょ!」
「ちょっと、ロウ!
気をつけてよね!」
ミレイユは周囲の安全を確かめると、《ライトニング・ウォール》を解除する。
そして旋回していた水鳥が、敵の魔法使いたちへと突っ込んだ。
「ぐわああああ!」
「なんだ、この動き回る魔法は!?」
敵の魔法使いたちは吹き飛ばされ、戦場は一気に混乱に包まれる。
「ここで、畳み掛けるわよ!」
ミレイユは目を閉じ、杖に魔素を集中させた。
「大気を震わす雷よ! 敵を撃ち抜け!
《サンダー・ボール》!」
雷球が、水鳥で濡れた魔法使いたちに命中する。
――バチバチバチッ!!
電撃が広がり、周囲の魔法使いたちへと次々に伝播した。
「うぐああああ!」
「ぐっ……!」
感電したMCRの魔法使いたちは、次々と倒れ込み、その場に崩れ落ち、動けなくなる。
戦場の主導権は――完全に四人が握っていた。
ロウの圧倒的な火力。
戦場全体を見渡し、動く魔法で味方を支えるルーシー。
小回りの利く風で俊敏に戦場を駆け回るユミナ。
そして、隙を突いて雷撃を叩き込むミレイユ。
四人の連携は見事に噛み合い――
瞬く間に、集まってきたMCRの魔法使いたちを撃退していった。
「はぁ……はぁ……。
俺らも捨てたもんじゃねぇな」
ロウが肩で息をする。
「でも、さすがに数が多すぎたっしょ……」
ユミナが額の汗を拭った。
「ま、まだ来るかもしれないわよ……」
ミレイユは息を切らしながらも、周囲を見渡す。
ルーシーは小さな魔法を周囲に飛ばして、警戒しながら、静かに息を整えていた。
「この近くに敵はいないようです。
みなさん……ひとまず、安心してください」
そんな四人の様子を、アリスは後ろで腕を組んで見ていた。
「まあ……言いたいことはたくさんあるけど、
とりあえず、及第点かしらね」
「きゅ、及第点……ですか?」
ルーシーが驚いた声を上げる。
アリスはローブを翻し、そのまま先へと歩き出した。
「ここに長居すると、また包囲される可能性があるわ。
ノイスのこともあるし、先へ進みましょう」
戦闘を終えた四人は、疲れた体を引きずりながら、その後を追った。




